物言わぬ家

itti(イッチ)

文字の大きさ
上 下
9 / 60

ドライブ

しおりを挟む


「おはようございます」
 マンション前で待っていた水野たちに声を掛けて、祐二は助手席から降りた。
「すみません、車まで出して貰って。」と、美乃利は佐伯に礼を言う。
「ああ、いいんだよ。たまには運転しないと、腕がにぶるから。それに4人で動くなら車の方が楽だしね」と佐伯は満更でもない顔で言った。ちょっとしたドライブのつもりでいるのだろうか。
「はじめまして、私は奥村くんの同僚の水野です。今日は無理言って同行させて貰います。宜しく」
 水野が佐伯に挨拶をすると、早速車の後部席に乗り込む。
美乃利も水野の隣に座り、佐伯と話し始めたので、祐二は助手席に戻るとシートベルトを締めた。
「さてと、どうしますか。菅沼さんは3時頃戻ってくるそうですよ。それまでに行きたい所は」と佐伯が言って、エンジンをかける。取り敢えず車を走らせると、大通りに出て社員寮の方向に進んだ。

「菅沼さんて、岬さんの同室の方ですよね。実家に戻られてて夜に帰って来るって聞いたけど」と、水野が言った。美乃利が佐伯からそう聞いていたので、確かめた様だ。
「ああ、ホントは夜に帰る予定だったんですが、美乃利ちゃんが北海道から来た事を話したら、早めに戻ると」
「そうですか。じゃあ、時間まで天気もいいしドライブでもしますか。社員寮のある場所ってそんなに遠くないんでしょ?」
 水野がそう言うと、佐伯は「ええ、でも50分くらいはかかるかなぁ。東京都内でもはずれの方だから。会社からは電車で一本だし便利ですけどね。ちょっと大きな池があったりして、散歩するにはいいかもしれません」
と言ってバックミラーで水野を見ながら答えた。

「水野さん、ドライブって、.......遊びに行くんじゃないんですから」
 祐二は水野に言うが、楽しんでいる気がしてならなかった。休みを返上して付き合っているんだ。早く用事を済ませて帰りたいと思ってしまう。
だが、水野にとってはドライブも人探しも自分の好奇心を満たす為のものに過ぎなかった様で。
「あら、折角車で遠出してるのに、勿体ない。時間があるんだからいいじゃない?それに美乃利ちゃんも色々行きたいでしょ?」
「あー、まあ、時間があれば。でも迷惑になってもいけないので......」
「迷惑じゃないわよ、ねえ?」
 佐伯に訊いている様な口ぶりに、「ええ、寮の近場をドライブしましょう」と言って苦笑いする佐伯だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

聖女の如く、永遠に囚われて

white love it
ミステリー
旧貴族、秦野家の令嬢だった幸子は、すでに百歳という年齢だったが、その外見は若き日に絶世の美女と謳われた頃と、少しも変わっていなかった。 彼女はその不老の美しさから、地元の人間達から今も魔女として恐れられながら、同時に敬われてもいた。 ある日、彼女の世話をする少年、遠山和人のもとに、同級生の島津良子が来る。 良子の実家で、不可解な事件が起こり、その真相を幸子に探ってほしいとのことだった。 実は幸子はその不老の美しさのみならず、もう一つの点で地元の人々から恐れられ、敬われていた。 ━━彼女はまぎれもなく、名探偵だった。 登場人物 遠山和人…中学三年生。ミステリー小説が好き。 遠山ゆき…中学一年生。和人の妹。 島津良子…中学三年生。和人の同級生。痩せぎみの美少女。 工藤健… 中学三年生。和人の友人にして、作家志望。 伊藤一正…フリーのプログラマー。ある事件の犯人と疑われている。 島津守… 良子の父親。 島津佐奈…良子の母親。 島津孝之…良子の祖父。守の父親。 島津香菜…良子の祖母。守の母親。 進藤凛… 家を改装した喫茶店の女店主。 桂恵…  整形外科医。伊藤一正の同級生だった。 秦野幸子…絶世の美女にして名探偵。百歳だが、ほとんど老化しておらず、今も若い頃の美しさを保っている。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

REPEAT

TATSUYA HIROSHIMA
ミステリー
人は失敗すると、もう一度やり直したいと願う…。 妻と息子を惨殺された男が”リピート”を繰り返し、たどり着く終着点は…?

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...