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涙がしみるゼ

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 そら耳?
いや、違うだろ。
いくら屋上にいて、遠くの音が聞こえてくるからって、こんな言葉は聞き間違えない。

「・・・ぇ、と、・・・欲求不満?」

アタルの後ろ姿に問い掛けるが、返事はなかった。
こういうの、どうしたらいいんだろう。
俺を襲うかも
・・・って、そういう意味だよなあ。

アタル、女に騒がれ過ぎて、異文化交流したくなったのかな。異文化・・・じゃなくて、なんて言うんだっけ。

「ごめ、・・・ン。気持ち悪いこと言っちゃった。忘れて。・・・先に帰る。」

「ぇ、」

アタルは、顔を見せないまま鉄の扉を開けると戻って行った。バタンッと閉まった後には、静寂な空気が残されて、屋上でポツンと佇む俺は途方にくれる。




アタルの放った一言は、俺たちの友情に楔を打ち込んでしまった様で、どことなく距離が離れてしまうと、あっという間に卒業式を迎える事になる。





「勇人ったら、どうしてアタル君が東京の専門学校へ行く事黙ってたのよ。お母さんに聞いてビックリしたじゃないの。」
卒業式の後、母親に言われた。

「そんなの・・・俺だって最近知ったんだよ。」
俺はちょっとふて腐れた様に言ったが、
「アタル君、直ぐに東京へ引っ越すんだって。色々準備があるらしいわ。」
母親にそんな事を言われて、胸がチクリ、とした。

そんな話もしてくれないまま、俺の前からいなくなるつもりか。
・・・アタル・・・


卒業式の後のちょっとしたイベントやなんかは、普通なら涙を誘う場面かもしれないが、俺はずっとアタルの事を目で追うばかり。
・・・なのに、声も掛けれないまま。



予定していた 卒業旅行もないまま、アタルが東京へ旅立つ日を迎え、母親に今日がその日と聞いてはいたけど、直接言われてもいないし、見送りに行くのも気が引けた。
なのに、・・・

ブ、ブ、ブーッと、携帯の電話がなって画面を見ると。

・・・アタルだ。
どうしようか、このまま知らん顔しておこうか・・・

少し躊躇したが、電話に出る俺に
『あ、勇人・・・』
アタルの明るい声がする。
けど、バックが賑やかでハッキリとは聞こえなくて。

「アタル?.....何処から掛けてんだ。」

『いま、駅にいて・・・これから電車に乗るところ。』

「は、あ?今からって...」
その言葉が耳に入ると、俺は居てもたってもいられなくなった。ざわざわと気持ちが揺らぐ。

「何なの?アタル、俺の事バカにしてんの?何でもかんでも間際に報告して来るとか・・・」

『ごめん。このまま、オレの事は忘れてもらおうと。でも、ヤッパリダメだな...勇人に出会えて良かったし、好きな気持ちがどんどん強くなってきて、怖くなったけど、後悔はしてないよ。それだけは言いたくて。』
 
周りの雑音が酷いけど、アタルの真剣な声は俺の心に響いた。

「待ってて、今そっち行くから。」
と、思わず発してしまった言葉が、ちゃんと届いたかはわからない。でも、俺はジャンパーを羽織ると、自転車に跨がって必死にこいだ。
   
頬に当たる風は、まだ少し冷たいが、そんなのは気にならない。早くアタルの顔が見たい。ちゃんと顔を見て、元気で頑張れと伝えたい。



自転車を乗り捨てる様に、駅の改札口へと向かう。
もう踏み切りの遮断機はおりていて、遠くの方でレールの振動する音が聞こえて焦る。

東京方面の乗車口に目をやると、アタルが立っているのが見えた。
でも、階段を上がって反対側へ行くと間に合わない。
俺は、アタルの視界に入るように真正面へと立つ。
そして、思いっきり叫んだ。

「アタルー、アタルーッ」
あ、って顔で俺を見ると、アタルの口許が綻んで笑顔になった。

『来てくれたんだ?!有難う』

アタルも俺に叫んでいる。

「俺も、出会えて良かったし、有難うな!」
聞こえる様に叫んだが、そこに電車が入って来ると、俺たちの姿は遮られてしまった。

窓から見えるアタルの顔は、笑っているような、泣いているような顔で。
俺が、見えるように移動しながら手を振ると、アタルも大きく手を振った。

(アイツ、電車の中だってのに...恥ずかしいヤツ)


心の中で呟くと、ふいに涙が俺の頬を伝う。


.....恥ずかしいのは俺だな。




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