[ジセイタイになった俺]

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20 アルミ箔のオンナ 2

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  どんな顔をして、彼女の話す口元を見ていたんだろう。突然、「怒ってます?」と訊かれてハッとなった。

「あ、いや、そんな事は…」

「中谷くん、自分の部屋には入れてくれなくて、キッチンで暫く座っていたんですよ。で、大丈夫そうだったので私も帰ったんです。」

「そう、……野嶋さんが居てくれて良かった。ま、大丈夫なんだろう。有難うございます、俺からも礼を言います。」

「いえ、とんでもない。……じゃあ、」
「うん、ごめんね、手を取らせて。」

いいえ、と言って首を振ると、彼女は給湯室を出て行った。
残された俺は、壁に後頭部を付けると(あ~、、、)と心の中で呟く。
全くダメだな、俺。
野嶋さんにめちゃくちゃ対抗心燃やしてるわ。
彼女の事を意識したって仕方がないのにな。



出張の疲れと共に、胸に宿ったモヤモヤは家に着いても消える事は無かった。

マンションのドアを開けるなり、「おかえりー、お疲れ様ー」という恵の明るい声が聞こえる。

キッチンに居るみたい。
俺は気持ちを切り替えようと「たっだいま~」と、わざと声を上げた。
同時にキッチンにいる恵が、ひょっこりと廊下へ顔を出す。

「早かったね。出張お疲れさん、どうだった?」
にこやかな顔を向けられて、ホッとする。が、同時にイラつきも……

「駅の階段から落ちたって?お前の方こそどうなんだよ!ビックリしただろ!」
「…ぁ、訊いちゃった?」
「当たり前、野嶋さんが教えてくれなかったら、お前黙ってるつもりだったろ。」

恵の目の前に立つと、俺は鞄を床に置いた。それからおもむろに抱きしめる。

「…ぉ、おい、」
戸惑う恵の肩におでこを付けると、「大事に至らなくて良かった。」と呟いた。

「………ごめん、心配させたくなくて。」
「いいよ、気持ちは嬉しい。けど、次は報告して。誰かの口から知らされるのは、………」
言いかけて呑み込んだ。野嶋さんの事を悪く思っている訳ではない。ただ、ちょっとだけ妬ける。

「うん、そうするよ。ごめん。」

そう言った恵の声は、少しだけ震えていた。


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