[ジセイタイになった俺]

itti(イッチ)

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10 弱まる磁力 1-10

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  そういえば、野嶋さんは何処へ行ったんだろう。
小走りで駅に向かう俺は、少し先に行った野嶋さんと合流するかと思ったのに、姿は見えなくて人混みに紛れて見失ったのかと思った。

いつものホームを目指すと、人の波を縫う様に階段を降りる。と、そこに野嶋さんの後ろ姿が目に入った。しかも、その隣にいるのは恵で。

「…えっとー、」

二人の傍に近寄ると声を掛けるが、恵は俺に気付くと「あッ」っと目を丸くして驚きの声を上げた。

「野嶋さんもこの電車?」

恵の声でゆっくり振り向いた彼女は、俺に気付くと顔色が変わる。

ほんの一瞬、電車が通り過ぎる時の様な突き抜けた風が、俺の頬を掠めた。
ビューッという音が俺の頭の中で聴こえると、二人を前にして固まる。

「そうなんですけど、…お知り合いでしたか?」
野嶋さんに訊かれて隠す事でもないし、出来るだけ平常心を保ちつつ「…ああ、はい。まあ、」と答えた。

そう聞いて来るという事は、彼女も恵を知っているって事か?
せっかく恵と久々に乗る電車だったが、ちょっと雰囲気が変わってしまった。
俺は、普段よりかなり離れて恵の隣に立つと、目の端にいる恵の表情をみる。

外では一歩離れて歩く恵だったし、それは別に問題ないが、今日はやけに野嶋さんが恵に近くて、二人の間には知り合い以外の何かがあるのだと思った。


早く電車が来ればいいのに…
ぽつりと心の中で呟くと、野嶋さんの横顔をぼんやりと見ていた。




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