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06 弱まる磁力1-6
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事が終われば、互いに腹が減ったな、という事で二人でキッチンに立つ。
何週間ぶりだろう…
恵は案外料理が上手くて、麺類なら短時間で腹持ちのいいものを作ってくれた。
「今日はねぇー、豚しゃぶを乗せた温かいうどんだよ。肉は湯通ししておいたから、サッパリしていると思うんだ。」
そう言うと目の前に丼鉢に入った料理を置いた。
うどんの上には、豚しゃぶ肉と白髪ネギが山盛りで、ピーラーで削いだ様な大根と人参の薄切りは、リボンの様にくるりと乗っかっている。
「なんか、目でも味わえる、って感じ。」
俺が顔を綻ばせて言えば、「真琴のさ、そういう風に言ってくれる所、僕の好きなトコなんだよね。」と、恵も少しだけはにかんだ。
二人でふぅふぅと冷ましながら、口に運んで行くと気持ちまで温かくなった。
こういう何気ない時間が、俺の気持ちを和ませていくと、ほんの何時間か前の自分はなんて小さな男だったのかと反省する。
腹も膨れて浴槽に湯を張っている間、リビングのソファーにどっかり腰を降ろすと、恵は俺の横に座った。何をする訳でもなく、点いているテレビの画面をただ眺めているだけ。それだけの事が、二人の距離を縮めてくれた。
「俺、謝らなきゃな。変な事言ってさ。」
「…僕も、毎晩の様にお酒の匂いをさせてたら変な事想像するのも分かるよ。」
「仕事、大変なのか?」
そっと恵の横顔を見て訊いた。
「まあね、中間決算終わって頭の痛いトコ。期末に向けて更に業績上げろって、追い込まれていて…」
恵は眠そうに目を擦ると、俺の膝に頭を乗せて言った。
恵の頬にそっと指を這わす。指の腹で少し伸びたヒゲの感触を味わう様に撫ぜれば、恵の重そうな瞼は閉じられた。
膝に伝わるこの温もりは、今の俺にとっての癒しとなる。決して手放したくはなかった。
安心した様に、瞼を閉じる恵の寝顔を見ながら、俺は改めて自分たちの繋がりを大事にしたいと思うと、恵が愛おしくて仕方がない。
風呂の湯が溜まり、目を覚ました恵と二人で浴槽に浸かると、互いの膝を付き合わせる。
ふぅ~ッと口から出る息も、安堵の表情を見せれば互いに笑みが浮かぶ。
三年経っても、こういう時間を持てる事の幸せを噛みしめていた俺。
それでも、頭の片隅にはいつも仕事の影がある。仕事の立ち位置も、いつ変わるか分からない。営業所が地方にもある俺にとっては、この地に居られるかどうかも分からない事だった。
そんな不安を抱えながらも、今は恵の体温を感じて眠りたい。
何週間ぶりだろう…
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「今日はねぇー、豚しゃぶを乗せた温かいうどんだよ。肉は湯通ししておいたから、サッパリしていると思うんだ。」
そう言うと目の前に丼鉢に入った料理を置いた。
うどんの上には、豚しゃぶ肉と白髪ネギが山盛りで、ピーラーで削いだ様な大根と人参の薄切りは、リボンの様にくるりと乗っかっている。
「なんか、目でも味わえる、って感じ。」
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「…僕も、毎晩の様にお酒の匂いをさせてたら変な事想像するのも分かるよ。」
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「まあね、中間決算終わって頭の痛いトコ。期末に向けて更に業績上げろって、追い込まれていて…」
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安心した様に、瞼を閉じる恵の寝顔を見ながら、俺は改めて自分たちの繋がりを大事にしたいと思うと、恵が愛おしくて仕方がない。
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それでも、頭の片隅にはいつも仕事の影がある。仕事の立ち位置も、いつ変わるか分からない。営業所が地方にもある俺にとっては、この地に居られるかどうかも分からない事だった。
そんな不安を抱えながらも、今は恵の体温を感じて眠りたい。
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