[ジセイタイになった俺]

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02 弱まる磁力1-2

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    この日、俺はどうしても恵に言いたい事があって、昼休憩に表へ来てくれと呼び出す事にした。
かといって、あまりヒトの多い場所では困る。

ビルの間を抜けて北へ行った所に、忘れ去られた様な小さな公園があって、営業の帰りに一服するお気に入りのベンチへ腰掛けると、恵を待つ。

公園だというのに、遊具なんてものはあまり無くて、動物の形をしたムーブメントが並べられているぐらい。だからこそ、なのか、俺の様な営業のサラリーマンが休憩しやすい場所となっている。

俺は恵を待つ間、買ってきた缶コーヒーを開けてちびりちびりと飲んでいた。
そうしながらも、胸の内は穏やかではない。

暫く待つと、向こうの方から恵がやって来た。
紺のスーツを身に纏い、サラサラの黒髪を綺麗に整えて、背丈は俺より少しだけ高い176センチ。顔立ちは爽やかな日本男子、といった所だ。

「ごめん、会議が長引いちゃって。」
そういうと、俺の隣りに一人分の隙間を空けて座る。

…そうだよな、こんな所でくっついて座る訳がない。そのつもりは無かったが、こうして実際に空けられるとチョット凹んだ。

「こっちこそごめん。忙しいのに呼び出して。」
俺は缶コーヒーを両手で挟むと、膝に乗せて少し前屈みになった。

「どうした?家では何も言って無かっただろ?それに、電話じゃダメな話?」
恵は少し体を捻ると俺の顔を覗き込む。
それを視界の端に感じながら、それでも恵の顔は見ずに俺は言った。

「オンナが出来たんなら言ってくれ。」


発した言葉は俺たち二人を包み込むと、冬でもないのに木枯らしが吹き荒れた様に身を縮め、背中に緊張をもたらす。

「……、真琴、………僕、」
「あッ、イィ、やめやめ!」

折角の恵の言葉を俺は遮った。
聞いておいて突然怖くなったんだ。

「変な事言った。仕事の合間に話す事じゃないよな。あはは、…」
そういうと立ち上がって行こうとする。
が、「真琴、……僕達、一緒に居られないのかな?」と恵が俺の手を取って言った。

進む足を止めて、俺は振り返ると恵の顔を見る。

恵は、下から俺を見上げると、少しだけ眉を下げて切なそうな顔をした。


「…わかんない。………それ、俺が聞きたいよ。」
そっと手は離されて、恵をベンチに残したまま俺は歩き出す。

さっきの恵が質問した答えの様に、二人の距離はどんどん離れていった。


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