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我慢できない
しおりを挟む漸くバイトの時間が終わると、店の方に入りトンちゃんと並んでカウンター席に座る。
「おつかれさま」と云われて、なんだか照れくさくなって、ちょっとはにかんで笑ったら、トンちゃんが嬉しそうに見つめてくるからまいった。
「そんなに見んなよ」
「だって、ハルキの働いてるとこ初めて見たから嬉しくて。姉さんにもちゃんと報告しておくよ」
そう云うと、目の前のグラスを持ち上げて酒を飲み干した。
「そろそろ帰る?俺、荷物持ってやる」
「ああ、そうだね、さすがに今日は疲れた。荷物持ち、よろしく頼む」
「うん」
「それじゃあ、又来ます」
中条さんに云うと、お会計をしてくれて、ちょっとだけサービスしてくれた様で、俺とトンちゃんは店を後にした。
肩に食い込む鞄は重かったが、足元がふらつくトンちゃんの腕をつかみながら、俺は幸せに浸って歩いている。
出張帰りに来てくれた事が凄く嬉しくて、ちゃんと俺の事を大事に思ってくれてると、そう感じたから。
「ちょっと飲み過ぎちゃった?」と訊ねると「全然、、、と云いたいけど、やっぱり飲み過ぎたかな。ハルキがちゃんと大人になってるって感じて嬉しかった」と云う。
そんな当たり前の事を云われて照れる。俺はもう、とっくに大人だと思ってんのに、トンちゃんにとってはずっと子供のままだったなんて。
トンちゃんのマンションまで行くと、そのまま荷物を抱えて部屋に上がった。
「片付けてないから、あんまり見ないでくれ」
そう云うと、鞄を受け取って部屋の隅に置く。それからジャケットを脱いでハンガーに掛けると、ネクタイを外した。
「トンちゃんは明日会社に行くの?」
「いや、代休貰ってるから明日は休み」
「じゃあ、俺、泊まってもいい?」
「ハルキ、大学は?」
「明日の講義は無しになったから、俺も休みだよ」
ここまで来たら泊まりたい。俺は嘘をついたが、トンちゃんは「そうか、ならいいよ」と言ってくれた。少し酔っているせいか、なんだか気分も良さそうだ。
「シャワー浴びられそう?酔ってる時って風呂入らない方がいいよな」
Yシャツを脱ぐトンちゃんにそう云うと「シャワーは浴びるよ。頭洗いたいし、さっぱりしたい。ハルキが心配する程酔ってないから大丈夫。ハルキもシャワーするだろ?出張用に買った下着、新しいのあるから使って。Tシャツはオレのでいいよな」と笑う。
「うん、じゃあ先に入って。俺は後から入るから」
「じゃあ、そうする。あ、喉渇いたら冷蔵庫に飲み物入ってるし、適当に飲んで」
「うん、ありがとう」
浴室に入ったトンちゃんが、全裸になってシャワーを浴びる姿を想像するだけで、何となく落ち着かない俺。
ハンガーに掛けられたジャケットに近寄ると、そっと腕を回して包み込んだ。襟元から微かにトンちゃんの香水の匂いがすると、俺の頭はクラクラした。
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