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招かれざる客

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 バーがオープンすればいつもの様に時間は過ぎて行き、相変わらず中条さんはマイペースに仕事をこなしていく。
元々がオープンな性格なのか、でも、初めて会ったレストランでの彼はもっと静かな印象だったが、客と楽しそうに会話して飲んでいる姿を見ると俺も気楽に仕事が出来た。

「ごめん、ちょと変わってくれる?」
 厨房に顔を出した中条さんが云うので「え?」と訊ねれば「オシッコしてくるから」と云った。
仕方なく店の方に行くと、案外客はいっぱいだった。

 カウンターには40代位の男性が3人。その奥に珍しく女性がふたりいて既に意気投合している。会話しながら酒のグラスに口を付けては楽しそうだ。中条さんが戻るまでグラスは空きそうにないので安心した。俺はまだ酒の種類を把握していなくて、作り方も知らない。
ビールを注ぐくらいは出来るが、未成年だし飲む事も無いから。それにバイトは厨房の仕事だけだし。

「ごめんな、ありがとう」と云って中条さんが戻って来たので、俺がはけようとした時だった。店の扉が開いてふたりの客が入ってきた。
顔を見たら俺ぐらいの年齢の男性。途端に、「何しに来たん?!」と横にいる中条さんが云うので驚いた。
表情が険しくなり口はへの字に。嫌っているのは一目瞭然。俺は焦る。

「なんだよ、客で来たのに。ヤな感じだなあ」と言いつつもそのふたりはテーブル席に着く。
俺は、中条さんに「あの、厨房戻っていいっすか?」と訊いた。なんだか不穏な空気を感じて、ここにいるのは危険な気がしたからだ。
「ちょっと待って」というと、中条さんはその客の所に注文を取りに行った。俺は仕方なくその場に佇むと、カウンター客の視線が気になる。中条さんの声に気づいた人は、何が起こるのかと一様に気配を伺っていた。

「ご注文は?」と訊ねると、「ジントニック二つ。あとチーズ盛り合わせで」と答える。
このふたりの間に何があったのか、それは知らないが、中条さんは踵を返すとカウンターに戻ってジントニックのグラスを用意した。
「チーズ、盛り合わせ持ってきて」と、俺に云うと唇をギュッと結んで酒を入れる。

 注文通り、チーズの盛り合わせを皿に乗せてカウンターの中条さんに渡すと、それとグラスをトレイに乗せて運んで行った。
ちょっと気になって様子を覗き見していたが、ヘラヘラと笑っている客のひとりを無視すると、テーブルにグラスと皿を置く。俺はホッとした。まさか店の中でケンカは始らないと思うが、それでも最初の印象じゃそうならないとも言えなかった。

 それから俺は普通におつまみを作る仕事に戻ると、忙しくて時間を忘れた。もちろんさっきの客の事も忘れかけていた。
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