胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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変わった客層

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 授業を終えてアパートに戻ると、バイトの時間まで授業でとったノートを見返し、一応明日の用意も済ませておく。
それから買っておいた菓子パンを牛乳で流し込むと、着替えを済ませて準備を整える。準備といっても、ラフな長袖のTシャツに黒のジーンズ、それから少し厚めのパーカーを羽織っただけ。どうせ厨房にいるし、オシャレをする必要もない。

 店はまだ喫茶店の時間。本当は裏で待っていなきゃいけないんだけど、昨日出会ったシマさんとクロさんの様子も気になる。
「コーヒーでも飲もうか」と、独り言を言いながら喫茶店の扉をあけた。

「いらっしゃいませ」と、柔らかい声が聞こえて、シマさんがにこやかに俺を見た。
ペコリと頭を下げて、空いているテーブルに着くと、すぐにシマさんが水を運んでくる。さっき俺が扉を開けた時に、すでにトレイに水の入ったコップを置いていた。流石に慣れたものだと感心する。

「昨日はお疲れ様。仕事はどう?大丈夫そうかな」
シマさんが水を置きながら訊いてくれて、俺は少し緊張しながら「今のところは」と答える。
中条さんには困った所もあるが、取り敢えず辞めるという選択はない。時給もいいし、もう少し様子を見てみる事にした。

「ご注文は?」
「あ、カフェオレをお願いします」
「はい、ごゆっくり」

 店内は静かで、見たところあまり若い人はいなくて、中年の男性客が目立つ。やはり店主がシマさん達のような年配の店は、若い女性とか入りずらいのかな?メニューもインスタ映えする様な物はなかったし。
キョロキョロと見回していると、シマさんがカフェオレを運んで来た。

「古い店だから珍しい?」と、俺を見て言うとクスッと笑う。ふと目があって、微笑んだシマさんの顔を間近に見れば、確かに年は重ねているが、上品そうな物腰と顔立ちの美しさに見惚れた。きっと俺くらいの頃は綺麗な人だったに違いない。

「あ、すみません。昨日は厨房にずっといて、店の中を眺める時間もなかったので、人のいる店内の様子が気になって」
そういうとカフェオレのカップに口を付けた。
「ふふ、人も店も年季が入っているからね」とだけ言って、俺の前から去っていった。
小綺麗でお洒落なカフェには女子が多いが、ここはまるで時代の中に佇む古書店の様な空気すらある。静かに過ごしたい人にはうってつけの場所。

 暫く時間を過ごし、夜のバーに変わる頃、俺は代金を支払うと店を出た。
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