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ドキドキの一日

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 大学の授業が終わり席を立とうとすると、唯一俺に話しかけてくれる吉村が背中をトン、と叩いてきた。
俺の後ろに座っていたらしく、気付かなかったが振り返るとにこやかな笑みを浮かべている。

「あ、....いたんだ?気付かなかった」
そういう俺に、「実は遅刻して、そ~っと入ってきたからな。先生にバレなくて良かった」と得意げに話す。
この男は親し気に話しかけてくれるが、多分誰に対してもそうなんだろうと思う。俺と話す間にも、視線は他の誰かを探している様にキョロキョロと動いていた。
そして誰かをみつけると、「じゃあな」と云って離れて行ってしまう。なんとも忙しい男だ。

 廊下を進み中庭に出ると、帰る様子の生徒に紛れて俺も校舎を後にした。
他の生徒を見ると、俺の様にひとりの奴もいるがほとんどは何人かのグループでつるんでいるらしく、楽し気な会話が聞こえてくるたびに自分のコミュ力の無さにガッカリする。
まあ、自分から話しかけに行けるなら苦労はないが、小中高と記憶を辿れば相手から来られる方が多かった。中学生の頃はそれなりに女子からモテていた気がするが、今の俺は女性が苦手だというオーラを発してしまっているのだろうか。
バスに乗っている間にも頭を過ぎるのはそんな事ばかりで、そろそろ人恋しくなってきたのかもしれない。

 バス停からアパートに戻る途中で、何気なくコンビニの中を覗いてみた。
今日は中条さん、バイトの日なのかな。それともバーの方があるからこっちは休みとか。強烈なインパクトを与えられて、今の俺には気になる存在になっている。
そーっと覗いてみたがレジにも店内にも姿は見えなかった。

(まあ、顔を見たからどうするって事でもないけど.........。夜には一緒に働くし)
心の中でそう呟きながら、俺の住むアパートの方に向かい歩き出す。


 軽く夕食を口に入れて、時間を見ながら支度を始めると、なんだか急に緊張してきた。
これが人生で初めてのバイトだなんて、あまり人には言えないがこんなに緊張するものなんだな。高校の長い夏休みの間でも、ほとんど祐斗と遊んでいたか家に籠っていた自分が今更ながらに悔やまれた。もっと経験しておけば良かった。

 着く時間を計算しながらアパートを出ると、店に向かって歩き出す。
服装は特に云われていないし、どうせエプロンでも渡されるんだろうとカジュアルな服装で行くことにしたが、そもそもバーなんて入った事もないし、バーテンダーでもないからな。あの狭い厨房でツマミを作る位だろうと気にせずに向かった。

 昨日云われたとおり、通用口から入ってスタッフ用の部屋のドアを開ける。

「おっ、来た来た。」
俺の顔を見るなり先に来ていた中条さんは云った。

「こんばんは。よろしくお願いします」
挨拶をして中に入ると、どうすればいいのかとカレの顔を見る。

「なんや、緊張してるんか?......かわいいな~」
そう云って俺の前に立つと下から見上げてきた。そんな中条さんの顔を見ると、ワクワクしているのか目がキラキラと光っている。まるで俺を試す様な表情にほんの少しだけムカついたけど、ここは無理にでも笑顔を作っておかないと。

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