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久々の父さんの声
しおりを挟む開店の準備があるので、中条さんはそのまま店に残ると云った。
晩御飯を奢るという約束は翌日に持ち越され、俺も試食をしてそんなに腹も減っていなかったし帰る事にした。
中条兄弟のインパクトある性格に圧されて少し不安も残るが、バイトも出来る事になったし、その晩は珍しく母親に電話を掛けてみた。なんとなく自分から電話をするのは恥ずかしくて、用がないと出来なかった。
家の電話に掛けてみると、スリーコールで出てくれたが受話器の向こうから聞こえてきたのは父親の声。
一瞬俺は言葉を呑み込んでしまう。胸がドキッとすると、もう一度スマホを握り締めた。
『晴樹か、久しぶりだな、元気にやってるか?』
「あぁ、うん、元気だよ。父さん、青森から帰ってたの?東京で仕事?」
『そうなんだ、会議があってな。昨日戻って来た。母さんに代わるか?』
「うん、あっ、別にいいや。俺、明日からバイトする事になったから、それだけ伝えておこうと思って。」
『そうか、大学生のバイトっていったら飲食店かコンビニか?まあ、変な店じゃなきゃいい。いろんな人と関わるのも大事だからな、これからは。』
「うん、飲食店なんだけど先輩の紹介で一緒に働く事になって。いい人だから.............。」
『まあ、頑張りなさい。母さんは風呂に入ってるから後で電話するように伝えるよ。』
「あ、いいって。バイトの事伝えたかっただけだし、俺も風呂入ったり明日の勉強もしなきゃだから、また電話するって云っといて。」
『分かった、そう伝えておく。じゃあな、おやすみ。』
「うん、おやすみなさい。父さんも身体に気をつけて。」
『ああ、ありがとう。』
電話を切ると、胸を撫でおろした。父さんが出るとは思ってもいなかったな。
青森に行く前に、俺が変な事を云ったせいで母さんともギクシャクしちゃった気がしたけれど、今日の感じだと大丈夫みたいだな。
それにしても父さんも会議とか................、まさかトンちゃんと一緒の会議なんて事はないだろうな。
建設会社に勤めているけれど、別の会社だしトンちゃんの今の仕事は前とは変わったって云ってたから。
父さんと出会うわけないよ。
少しだけ胸の中にモヤッとしたものがたちこめるが、トンちゃんはもう父さんとは別れたって云ったし、それを信じるしかない。
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