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堪える俺
しおりを挟むトンちゃんの笑顔だけで俺の心は癒される。が、残念な事にもう一人の俺がチャンス、と腕を上げて喜んでもいた。ほのかに香るシャンプーの匂い。俺も同じシャンプーを使ったけれど、トンちゃんから漂う香りは別物。
鼻孔を擽られると、深く吸い込んだ。
「夏じゃなくてよかった。二人で寝るのは暑すぎるから。.....眠れそう?」
「ぁ、..........うん、大丈夫。おやすみ」
本当は眠る自信なんてない。トンちゃんの体温と香りを感じながら妄想しないようにするのが精一杯。
俺に背を向けているトンちゃんを時折チラリと目で確認すると、心臓がドクドクと脈打ち出してバレない様に胸を押さえた。
その内、トンちゃんは寝息をたてると本当に眠ってしまったようで。俺が少し動いてもビクともしない。
向きを変えてトンちゃんの方に顔をやると、髪の毛からいい香りが直接鼻孔に入ってきて、おもわず目を閉じると顔を近付けた。
それでもトンちゃんは起きる様子もないし、規則的に聞こえる寝息は熟睡しているのだと思う。
俺の中のいやらしい部分が顔を出してくると、トンちゃんの首筋にくちびるが触れるくらい顔を近付ける。あと何ミリかで首筋に触れるのが体温でわかった。ここが境界線。この先に進めば、必ず後戻りは出来ないと分かっている。そして、それは身の破滅も意味していた。二度と部屋には来させてもらえなくなるだろう。
俺はグッと堪えると、また向きを変えて天井を見上げる。
ちょっと半勃ちの可哀想な自身を手の中に納めると、平常心を取り戻そうと努力した。まさかここで自慰も出来ないし、その晩は悶々としながら意識がなくなるまで自分と戦っていた。
意識が戻ったのは、耳の奥で食器の割れる音がしてビックリしたからで。
「ごめーん!うるさかった。」
トンちゃんの声がして俺の方を見ている。
むくりと上体を起こした俺が、キョトンとした顔でトンちゃんを見返すと、苦笑いをしながら「おはよう」と云う。
「....おはよう。なに、食器割れたの?怪我しなかった?」
俺は直ぐに起き上がるとキッチンに向かう。
「大丈夫だよ。洗ってて手が滑っちゃったけど、シンクの中で割れたから。怪我はしてない」
「なら良かった。でも、気を付けて。」
「うん」
割れたガラスのコップを紙に包むと、その上からテープを巻いて補強している。昨夜俺が水を飲んだ時に使ったコップだった。
「ごめん、俺、片付けてなくて」
「いいって、オレがヘマして割ったんだから。それよりパンでいいかな?」
「あ、うん。自分で焼くから」
テーブルに出ていた食パンを取り出すと、オーブントースターに入れた。
トンちゃんは、冷蔵庫から野菜サラダの入ったお皿を取り出すとテーブルに並べる。
俺が眠っている間に作っておいてくれたみたい。ちょっと顔がニヤケてしまう。二人で朝を迎えて朝食を食べるなんて、凄く幸せだ。昨晩、我慢しておいてよかったと、そっと胸を撫で下ろした俺だった。
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