胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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血の繋がり

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「あのさ、.....」
と云いかけてその先の言葉が出てこない。

「なに?」と訊かれ、俺の中に黒く濁っている塊を吐き出そうか迷った。

 父さんとはどうなったのか、あれから俺たちの生活は変わってしまい、青森に転勤になった父さんに対して俺の感情はホッとしたというヘンテコな気分のままで。トンちゃんと離れてくれて良かったと思いつつ、本当はトンちゃんは離れたくなかったんじゃ、という疑念もあった。
俺に気付かれた事で、自ら身を引く格好になったトンちゃん。でも、それでよかったのか......。

「.......正和さんの事?」 

 ポツリと呟くように訊かれ、ベッドの上で顔を向けるとトンちゃんの方を見る。
トンちゃんは真っすぐに天井を見つめていた。暗い部屋の中で、微かに漏れる照明にその表情が照らされていた。どこか気が抜けた様な、諦めた様な表情だった。

「.......うん、ごめん。....変な事訊くけど、此処に父さんは来た?」

「.............」

 少しの沈黙が、来た事を表している。
心の何処かでは分かっていた。父さんは俺が気づいてしまった事を知らない。東京で母さんといる時に変な事を云ってしまったが、それは多分忘れてしまったんだろう。

「一度だけ。......でも、ハルキが心配する様な事はもうないから。ちゃんと別れたし、この先会ったとしても、それは義理の弟としてのオレ。姉さんを裏切っておいて今更こんな事云ったって、ハルキには信じてもらえないだろうけど。」

「信じるよ、俺は。........俺、トンちゃんが大阪に行った後で父さんと母さんに酷い事云ったんだ。父さんが単身赴任するのは母さんに来られるとマズイからなんだろうって。」

「えっ、そんな事...........」

「母さんは、父さんが浮気をしているかもって思ってたみたい。もちろんどこかの女の人と。でも、それは重要じゃなくて、多分だけど、俺たちの家庭を壊したくなくて、どこか受け入れてたみたいなトコあった。」

「...............」

 トンちゃんが黙り込んでしまう。
浮気相手が自分の弟だなんて、夢にも思っていなかっただろう母さんの顔を思い出したのか。

「ハルキには話していなかったけど、.......オレと姉さんに血の繋がりはないんだ。」

「.......は??」

 突然そんな事を云われて目を見開いてしまった。
血の繋がりが無いって、どういう事?

「.....実の姉弟じゃないって事?」

「うん、........オレは養子。もの心ついた頃、あの家に引き取られた。オレの母親が亡くなって、縁者がいなくて、施設に預けられる事を知った父が引き取ってくれたんだ。実の母とは幼なじみだったらしい。」

「................................」

 衝撃だった。
今のいままで母さんの弟だと思ってた。それに、母さんもトンちゃんの事を気にかけていたし。あんなに仲のいい姉弟だと思ってたのに、本当の姉弟じゃないって.......。


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