63 / 98
心機一転
しおりを挟む
大学の門を潜り入学式を行う会場へ入る。ザワザワとする会場内の雰囲気にのまれそうな俺は、椅子に座って深呼吸をした。
辺りを見回す勇気もなく、じっと式の始まるのを待つ。入試の時よりも緊張していた。
式が始まっても、なんだかソワソワしてろくに聞いていなかった。だから終了して皆が立ち上がり出ていく姿で初めてホッとした。
ぼんやりと辺りを見回す。
気付けば、既に何組かのグループらしきものが出来ているようだ。近くに座った生徒に声を掛けて、話が合いそうならそのまま友達になるのだろう。
俺の様に一人で行動するものも多い。多分自分から話し掛けにくいのだろうな。
俺も苦手。高校の時はどうだったっけ?
まぁ、別に一人で行動するのは苦にならない。
無事に初日を終えると、自分のアパートに戻って漸く生き返った気分。
帰りに買ったコンビニ弁当を冷蔵庫に仕舞い、部屋着に着替えるとベッドの上にゴロリと寝転んだ。
ひとりの部屋は何だか物足りないというか、昨日までいた祐斗の姿がないだけで、こんなにも広く感じてしまうものなんだと思った。
ひとり天井を見ながら、ここで一人で暮らしていく実感がわいてくる。
トンちゃんの近くに居られるという、半ば不純な動機で大阪に来てしまった俺だったが、この先はそんなに甘い事は言ってられない。バイトも探さなきゃ・・・
スマホを手にすると、アルバイトの募集を見る事にした。
大学も、最初の頃は結構授業もあって時間がとれなさそう。
夕方から夜までのバイトというと、どうしても飲食店になってしまうし。サービス業とか、俺に出来るんだろうか.............不安だ。
色々検索していたら、電話がかかって来てビクッとなった。
電話の主は母親。
「はい、もしもし」と答えれば、「晴樹、入学式大丈夫だった?」と、まるで小学生に訊く様な声で訪ねてくる。
「大丈夫だよ。何も心配いらないから」
「お母さん、一緒に行った方が良かったかなって。同僚の人は娘の大学の入学式に出たって云ってたから」
「.......俺、男だし。逆に恥ずかしいからヤメて欲しいよ。まあ、何人かは居たけどな、親子で来てた人」
「あー、やっぱりね。.....でも晴樹が良かったなら別にいいんだけど。ちゃんとご飯食べてる?祐斗くんはこっちに帰って来たんでしょ?ひとりで大丈夫なの?」
今までそんな事を云わなかったのに、急に心配してくる母親に若干戸惑った。
「母さんもちゃんとご飯食べて元気で働いてくれよ。病気になっても直ぐには帰れないから、俺」
「........分かってるわよ、お母さんは一人でのんびりやってるから。まあ、そっちにはトンちゃんもいるし、いざって時には頼りなさいね。」
「ああ、.....いざって時には。だけど、トンちゃんも仕事忙しいみたいだよ。それに、俺もバイト探すつもりだから。また決まったら知らせるけど」
「バイト、..........そうねー、大学生だもんね。まあ、元気でやってちょうだい。時々は電話してきなさいよね」
「うん、分かった。ありがとう」
「じゃあ、切るから。おやすみ」
「うん、おやすみ」
声を聞いたら、急に実家の部屋を思い出した。台所とか、風呂場とか、居間でゴロゴロしながらテレビ観てた事が、頭の中にバー―ッと入り込んで来て、何故か俺は涙を流していた。
辺りを見回す勇気もなく、じっと式の始まるのを待つ。入試の時よりも緊張していた。
式が始まっても、なんだかソワソワしてろくに聞いていなかった。だから終了して皆が立ち上がり出ていく姿で初めてホッとした。
ぼんやりと辺りを見回す。
気付けば、既に何組かのグループらしきものが出来ているようだ。近くに座った生徒に声を掛けて、話が合いそうならそのまま友達になるのだろう。
俺の様に一人で行動するものも多い。多分自分から話し掛けにくいのだろうな。
俺も苦手。高校の時はどうだったっけ?
まぁ、別に一人で行動するのは苦にならない。
無事に初日を終えると、自分のアパートに戻って漸く生き返った気分。
帰りに買ったコンビニ弁当を冷蔵庫に仕舞い、部屋着に着替えるとベッドの上にゴロリと寝転んだ。
ひとりの部屋は何だか物足りないというか、昨日までいた祐斗の姿がないだけで、こんなにも広く感じてしまうものなんだと思った。
ひとり天井を見ながら、ここで一人で暮らしていく実感がわいてくる。
トンちゃんの近くに居られるという、半ば不純な動機で大阪に来てしまった俺だったが、この先はそんなに甘い事は言ってられない。バイトも探さなきゃ・・・
スマホを手にすると、アルバイトの募集を見る事にした。
大学も、最初の頃は結構授業もあって時間がとれなさそう。
夕方から夜までのバイトというと、どうしても飲食店になってしまうし。サービス業とか、俺に出来るんだろうか.............不安だ。
色々検索していたら、電話がかかって来てビクッとなった。
電話の主は母親。
「はい、もしもし」と答えれば、「晴樹、入学式大丈夫だった?」と、まるで小学生に訊く様な声で訪ねてくる。
「大丈夫だよ。何も心配いらないから」
「お母さん、一緒に行った方が良かったかなって。同僚の人は娘の大学の入学式に出たって云ってたから」
「.......俺、男だし。逆に恥ずかしいからヤメて欲しいよ。まあ、何人かは居たけどな、親子で来てた人」
「あー、やっぱりね。.....でも晴樹が良かったなら別にいいんだけど。ちゃんとご飯食べてる?祐斗くんはこっちに帰って来たんでしょ?ひとりで大丈夫なの?」
今までそんな事を云わなかったのに、急に心配してくる母親に若干戸惑った。
「母さんもちゃんとご飯食べて元気で働いてくれよ。病気になっても直ぐには帰れないから、俺」
「........分かってるわよ、お母さんは一人でのんびりやってるから。まあ、そっちにはトンちゃんもいるし、いざって時には頼りなさいね。」
「ああ、.....いざって時には。だけど、トンちゃんも仕事忙しいみたいだよ。それに、俺もバイト探すつもりだから。また決まったら知らせるけど」
「バイト、..........そうねー、大学生だもんね。まあ、元気でやってちょうだい。時々は電話してきなさいよね」
「うん、分かった。ありがとう」
「じゃあ、切るから。おやすみ」
「うん、おやすみ」
声を聞いたら、急に実家の部屋を思い出した。台所とか、風呂場とか、居間でゴロゴロしながらテレビ観てた事が、頭の中にバー―ッと入り込んで来て、何故か俺は涙を流していた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ポケットのなかの空
三尾
BL
【ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?】
大手電機メーカーに勤めるエンジニアの響野(ひびの)は、ある日、原因不明の失明状態で目を覚ました。
取るものも取りあえず向かった病院で、彼は中学時代に同級生だった水元(みずもと)と再会する。
十一年前、響野や友人たちに何も告げることなく転校していった水元は、複雑な家庭の事情を抱えていた。
目の不自由な響野を見かねてサポートを申し出てくれた水元とすごすうちに、友情だけではない感情を抱く響野だが、勇気を出して想いを伝えても「その感情は一時的なもの」と否定されてしまい……?
重い過去を持つ一途な攻め × 不幸に抗(あらが)う男前な受けのお話。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
・性描写のある回には「※」マークが付きます。
・水元視点の番外編もあり。
*-‥-‥-‥-‥-‥-‥-‥-*
※番外編はこちら
『光の部屋、花の下で。』https://www.alphapolis.co.jp/novel/728386436/614893182
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる