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心機一転
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大学の門を潜り入学式を行う会場へ入る。ザワザワとする会場内の雰囲気にのまれそうな俺は、椅子に座って深呼吸をした。
辺りを見回す勇気もなく、じっと式の始まるのを待つ。入試の時よりも緊張していた。
式が始まっても、なんだかソワソワしてろくに聞いていなかった。だから終了して皆が立ち上がり出ていく姿で初めてホッとした。
ぼんやりと辺りを見回す。
気付けば、既に何組かのグループらしきものが出来ているようだ。近くに座った生徒に声を掛けて、話が合いそうならそのまま友達になるのだろう。
俺の様に一人で行動するものも多い。多分自分から話し掛けにくいのだろうな。
俺も苦手。高校の時はどうだったっけ?
まぁ、別に一人で行動するのは苦にならない。
無事に初日を終えると、自分のアパートに戻って漸く生き返った気分。
帰りに買ったコンビニ弁当を冷蔵庫に仕舞い、部屋着に着替えるとベッドの上にゴロリと寝転んだ。
ひとりの部屋は何だか物足りないというか、昨日までいた祐斗の姿がないだけで、こんなにも広く感じてしまうものなんだと思った。
ひとり天井を見ながら、ここで一人で暮らしていく実感がわいてくる。
トンちゃんの近くに居られるという、半ば不純な動機で大阪に来てしまった俺だったが、この先はそんなに甘い事は言ってられない。バイトも探さなきゃ・・・
スマホを手にすると、アルバイトの募集を見る事にした。
大学も、最初の頃は結構授業もあって時間がとれなさそう。
夕方から夜までのバイトというと、どうしても飲食店になってしまうし。サービス業とか、俺に出来るんだろうか.............不安だ。
色々検索していたら、電話がかかって来てビクッとなった。
電話の主は母親。
「はい、もしもし」と答えれば、「晴樹、入学式大丈夫だった?」と、まるで小学生に訊く様な声で訪ねてくる。
「大丈夫だよ。何も心配いらないから」
「お母さん、一緒に行った方が良かったかなって。同僚の人は娘の大学の入学式に出たって云ってたから」
「.......俺、男だし。逆に恥ずかしいからヤメて欲しいよ。まあ、何人かは居たけどな、親子で来てた人」
「あー、やっぱりね。.....でも晴樹が良かったなら別にいいんだけど。ちゃんとご飯食べてる?祐斗くんはこっちに帰って来たんでしょ?ひとりで大丈夫なの?」
今までそんな事を云わなかったのに、急に心配してくる母親に若干戸惑った。
「母さんもちゃんとご飯食べて元気で働いてくれよ。病気になっても直ぐには帰れないから、俺」
「........分かってるわよ、お母さんは一人でのんびりやってるから。まあ、そっちにはトンちゃんもいるし、いざって時には頼りなさいね。」
「ああ、.....いざって時には。だけど、トンちゃんも仕事忙しいみたいだよ。それに、俺もバイト探すつもりだから。また決まったら知らせるけど」
「バイト、..........そうねー、大学生だもんね。まあ、元気でやってちょうだい。時々は電話してきなさいよね」
「うん、分かった。ありがとう」
「じゃあ、切るから。おやすみ」
「うん、おやすみ」
声を聞いたら、急に実家の部屋を思い出した。台所とか、風呂場とか、居間でゴロゴロしながらテレビ観てた事が、頭の中にバー―ッと入り込んで来て、何故か俺は涙を流していた。
辺りを見回す勇気もなく、じっと式の始まるのを待つ。入試の時よりも緊張していた。
式が始まっても、なんだかソワソワしてろくに聞いていなかった。だから終了して皆が立ち上がり出ていく姿で初めてホッとした。
ぼんやりと辺りを見回す。
気付けば、既に何組かのグループらしきものが出来ているようだ。近くに座った生徒に声を掛けて、話が合いそうならそのまま友達になるのだろう。
俺の様に一人で行動するものも多い。多分自分から話し掛けにくいのだろうな。
俺も苦手。高校の時はどうだったっけ?
まぁ、別に一人で行動するのは苦にならない。
無事に初日を終えると、自分のアパートに戻って漸く生き返った気分。
帰りに買ったコンビニ弁当を冷蔵庫に仕舞い、部屋着に着替えるとベッドの上にゴロリと寝転んだ。
ひとりの部屋は何だか物足りないというか、昨日までいた祐斗の姿がないだけで、こんなにも広く感じてしまうものなんだと思った。
ひとり天井を見ながら、ここで一人で暮らしていく実感がわいてくる。
トンちゃんの近くに居られるという、半ば不純な動機で大阪に来てしまった俺だったが、この先はそんなに甘い事は言ってられない。バイトも探さなきゃ・・・
スマホを手にすると、アルバイトの募集を見る事にした。
大学も、最初の頃は結構授業もあって時間がとれなさそう。
夕方から夜までのバイトというと、どうしても飲食店になってしまうし。サービス業とか、俺に出来るんだろうか.............不安だ。
色々検索していたら、電話がかかって来てビクッとなった。
電話の主は母親。
「はい、もしもし」と答えれば、「晴樹、入学式大丈夫だった?」と、まるで小学生に訊く様な声で訪ねてくる。
「大丈夫だよ。何も心配いらないから」
「お母さん、一緒に行った方が良かったかなって。同僚の人は娘の大学の入学式に出たって云ってたから」
「.......俺、男だし。逆に恥ずかしいからヤメて欲しいよ。まあ、何人かは居たけどな、親子で来てた人」
「あー、やっぱりね。.....でも晴樹が良かったなら別にいいんだけど。ちゃんとご飯食べてる?祐斗くんはこっちに帰って来たんでしょ?ひとりで大丈夫なの?」
今までそんな事を云わなかったのに、急に心配してくる母親に若干戸惑った。
「母さんもちゃんとご飯食べて元気で働いてくれよ。病気になっても直ぐには帰れないから、俺」
「........分かってるわよ、お母さんは一人でのんびりやってるから。まあ、そっちにはトンちゃんもいるし、いざって時には頼りなさいね。」
「ああ、.....いざって時には。だけど、トンちゃんも仕事忙しいみたいだよ。それに、俺もバイト探すつもりだから。また決まったら知らせるけど」
「バイト、..........そうねー、大学生だもんね。まあ、元気でやってちょうだい。時々は電話してきなさいよね」
「うん、分かった。ありがとう」
「じゃあ、切るから。おやすみ」
「うん、おやすみ」
声を聞いたら、急に実家の部屋を思い出した。台所とか、風呂場とか、居間でゴロゴロしながらテレビ観てた事が、頭の中にバー―ッと入り込んで来て、何故か俺は涙を流していた。
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