胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

文字の大きさ
上 下
62 / 107

いつかまた逢う日まで

しおりを挟む
* * * 

 祐斗と二人で大阪を観光していると、あっという間に入学式の前日となる。

 大阪に来てからは狭いアパートのセミダブルのベッドで二人眠ったが、互いに身体を求める事はなかった。
口に出して云った訳じゃない。なんとなく、今までの関係のままでは別れが辛くなると思った。大事な親友は只のセフレとは言い難い。ただ、身体を繋げてしまったままじゃ安っぽい関係で終わってしまいそうだった。

「祐斗は俺の親友だし、何処に居ても祐斗が幸せでいる事を願ってるから」

 俺は祐斗が帰るという日にそんな言葉を送った。じゃあ、また、と気軽に手を振って別れたかったのかもしれないが、祐斗は俺の言葉に目を丸くすると次の瞬間「くっ、・・・・・」と堪える様に笑った。

「なんで笑う?人が真面目に云ってんのに」

 恥ずかしさと怒りで膨れっ面をした俺が云うと、「ごめん、悪ぃ。急に真面目な顔するから・・・」
祐斗は手を合わせる様にして俺に向き合うと云った。

「・・・・いいけど、俺は真面目に云ってるし」

 俯いたまま云う俺。祐斗は「マジでごめんって」と俯いた俺の顔を覗き込むと謝った。

「ハルキと仲良くなれた事は一番の宝だったよ。日本に戻って来て良かったって思えたし。でも、これからは別々の道を行く。オレの中ではいつまでもハルキが一番の親友。これからも忘れる事はない」

 祐斗が真剣な眼差しで云って来るからちょっと照れくさい。でも、気持ちは一緒だ。

「日本に来たら絶対俺の所に来いよな。待ってるからさ」

「ああ、もちろん」

 祐斗が俺の肩を抱く。しっかり抱き締めた腕は微かに震えていた気がした。


 夕方、東京行きの新幹線に乗って祐斗は戻って行った。
ホームで見送った俺は、涙が零れるかと焦って天井を見上げる。屋根の切れ目から見える空は清々しくて、3年間の祐斗との思い出はこれから俺の中で鮮明な記憶として残っていく。


 帰り道、俺はトンちゃんにメールを送った。
祐斗も会いたがっていたが、どうしても仕事の都合で顔を見る事は出来なかった。
いま、東京に帰って行った事を送ると、トンちゃんから『淋しくなるね』という返信が来た。
確かに寂しいとは思う。でも、まだこの先に出会えるチャンスはあるはず。もっと大人になって、お互いに出会った頃の話が出来る日が待ち遠しいと思う。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

わるいむし

おととななな
BL
新汰は一流の目を持った宝石鑑定士である兄の奏汰のことをとても尊敬している。 しかし、完璧な兄には唯一の欠点があった。 「恋人ができたんだ」 恋多き男の兄が懲りずに連れてきた新しい恋人を新汰はいつものように排除しようとするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...