胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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この先不安だよ

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 オムライスを頬張りながらこの先の事を考えた。俺、本当に一人でやって行けるのか.....?

「今までトオルさんは自炊してたんですか?それとも彼女がいるとか?」

 祐斗の質問にドキリとした。コイツ、......。トンちゃんがゲイだという事は祐斗に話していないが、俺がトンちゃんを好きな事は知っている。それなのにこの質問。

「残念ながら自炊はあんまり出来ない。仕事の終わる時間が遅くて殆ど外食かコンビニだよ。それに、彼女はいないし作る気もない。」

 キッパリと言い切ったトンちゃん。俺は何も言葉が出ない。そうだ、トンちゃんは父さんからも母さんからも逃げるようにこの大阪へ来たんだ。恋愛にかまけている性格じゃなかった。

「トンちゃんの仕事は大変だって母さんも言ってたよ。俺が料理覚えて作ってあげてもいい。」

「バカだな、ハルキだって学校始まったら忙しくなるよ。お前は自分の心配しろ。」

 そういうとトンちゃんは笑った。

「今までろくな料理してなかったのに、急に出来るかよ、無理だって。」

 祐斗は俺に向かって呆れたように云う。でも、本当にそう思った。少しでも力になりたくて.....。


 食べ終わるとレジに向かうトンちゃんだったが、その時会計をしてくれたのがさっきのオーダーを取りに来た男性で、二言三言会話をしながら微笑んでいたのが気になった。

 お釣りをもらう間少し待っていると、トンちゃんは俺の方を振り返って「この子、オレの甥っ子で。こっちはその友達。また来ると思うからよろしくね。」と、男性に云う。

 俺と祐斗は紹介されたからペコリとお辞儀をするが、男性は「ひょっとして関聖大学?」と訊いてきた。

「あ、はい。今年から.......」

 そういう俺に「そうなんだ。僕はそこの2年。何処かで会ったら声かけて。」という。さっきはあまり顔を見てなかったけど、微笑んだカレは肩まで伸ばした髪をひとつに結わえていて、言ってみれば公家顔をした上品な見た目の男性だった。

「あ、よろしくお願いします。」と頭を下げる俺。

 トンちゃんがじゃあ、といって店を出ようとするから俺たちも後を付いて出る。

「ごちそうさまでした。」と、祐斗とふたりでお礼を云うが、トンちゃんは「もっと高級な料理を食べさせたいところだけど、給料日前でさ。勘弁してね。」といって笑う。

「さっきの男もハルキと同じ大学かー。やっぱりこの辺は大学に近いからバイトもしやすいのかな。」

 祐斗が歩きながらそう云って、俺とトンちゃんは「そうかもね。」と声を合わせて頷いた。
俺も落ち着いたらバイトをしてみようと思う。今まで遊んでばかりでバイトはした事がなかったし、コレと云って高い買い物をする事もなかった。だけど、これからは生活費も学費もすべて親に任せるのは申し訳ないと思う。大阪に来たのは俺のわがままだったし。

 歩きながら、トンちゃんと祐斗が俺に似合うバイトの話しをしていて、それを聞きながら少しだけ焦る自分がいた。俺ってあんまり人と接してこなかった気がする。相手から来られれば話はするけど、自分から積極的に行くタイプじゃない。ちょっとヤバイんじゃないか?



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