54 / 102
新天地
しおりを挟むひとり用の引っ越し準備はアッという間に終り、引越社のトラックを見送ると祐斗が迎えにやって来て一緒に大阪へ向かった。新幹線の方が車より速く着くから、充分間に合うと思い俺と祐斗はちょっとした旅行気分で新幹線の旅を楽しんだ。駅弁を食べながら、大学の話や祐斗のアメリカ行きの話をする。
「いつかアメリカにも来て欲しいな。ハルキはオレにとって、ずっと恋しい友人なんだ。本当は恋人になって欲しかったけどさ。」
祐斗はまだそんな事を云う。俺も、トンちゃんの事が無ければ祐斗の気持ちを受け止めていたのかもしれない。が、心の奥の方でずっと燻ったままの灯は消せないでいる。祐斗の気持ちは嬉しかったが、俺たちはこれからも友達以上恋人未満の関係のまま、大人になって行くのかもしれないと思う。
「祐斗は色々な刺激をくれた。あと、俺の事見捨てないでいてくれて嬉しい。」
「見捨てるなんて......。ハルキが誰を好きでも、それはハルキの心のままに。応援するのは癪だけど、ハルキが鳴くのは見てられないし。一応オレの胸は空けておくから、いつでも此処に戻っておいで。」
祐斗が笑いながら、でも少し悲しそうな目で見つめると云った。
そんな顔をさせてしまって申し訳ないと思いながら、優しい祐斗に感謝する。
アナウンスが流れて、俺と祐斗はジャケットを羽織ると新幹線を降りる準備をする。
時計を見ながら、まだ引っ越しのトラックは着かないのを確認。充分に間に合いそうでホッとする。
電車を乗り換えると、アパートのある街を目指して緊張しながら向かう。
地図アプリで確認しながら、祐斗と二人で歩いて行くと、トンちゃんが探してくれたアパートの前に着いた。
三階建てのアパートは、おもに学生が多く住んでいるらしく、大学からもそう遠くない所にあった。
それに、俺の希望通りトンちゃんの住むマンションからも近い。トンちゃんがどんな所に住んでいるのかは知らなかったが、ここへ来て二人の距離が縮まった事は嬉しく思った。
「なんか狭そうだね。」という祐斗。
「昔から離れの部屋にいた俺には充分だよ。それに風呂も付いてるし、小さいけどキッチンも。早く上がってみよう。」
階段を駆け上がる俺の後から、祐斗は「ちょっと待ってよ。」と云いながら付いてくる。
俺の部屋は2階の一番奥だった。205号室が今日から俺の住処となる。気分はちょっと上がり気味。
新しい学校、新しい街、新しい部屋。そしてトンちゃんがいる。今度は手を伸ばせば届くところに。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる