胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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新天地

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 ひとり用の引っ越し準備はアッという間に終り、引越社のトラックを見送ると祐斗が迎えにやって来て一緒に大阪へ向かった。新幹線の方が車より速く着くから、充分間に合うと思い俺と祐斗はちょっとした旅行気分で新幹線の旅を楽しんだ。駅弁を食べながら、大学の話や祐斗のアメリカ行きの話をする。

「いつかアメリカにも来て欲しいな。ハルキはオレにとって、ずっと恋しい友人なんだ。本当は恋人になって欲しかったけどさ。」

 祐斗はまだそんな事を云う。俺も、トンちゃんの事が無ければ祐斗の気持ちを受け止めていたのかもしれない。が、心の奥の方でずっと燻ったままの灯は消せないでいる。祐斗の気持ちは嬉しかったが、俺たちはこれからも友達以上恋人未満の関係のまま、大人になって行くのかもしれないと思う。

「祐斗は色々な刺激をくれた。あと、俺の事見捨てないでいてくれて嬉しい。」

「見捨てるなんて......。ハルキが誰を好きでも、それはハルキの心のままに。応援するのは癪だけど、ハルキが鳴くのは見てられないし。一応オレの胸は空けておくから、いつでも此処に戻っておいで。」

 祐斗が笑いながら、でも少し悲しそうな目で見つめると云った。
そんな顔をさせてしまって申し訳ないと思いながら、優しい祐斗に感謝する。



 アナウンスが流れて、俺と祐斗はジャケットを羽織ると新幹線を降りる準備をする。
時計を見ながら、まだ引っ越しのトラックは着かないのを確認。充分に間に合いそうでホッとする。


 電車を乗り換えると、アパートのある街を目指して緊張しながら向かう。
地図アプリで確認しながら、祐斗と二人で歩いて行くと、トンちゃんが探してくれたアパートの前に着いた。

 三階建てのアパートは、おもに学生が多く住んでいるらしく、大学からもそう遠くない所にあった。
それに、俺の希望通りトンちゃんの住むマンションからも近い。トンちゃんがどんな所に住んでいるのかは知らなかったが、ここへ来て二人の距離が縮まった事は嬉しく思った。

「なんか狭そうだね。」という祐斗。

「昔から離れの部屋にいた俺には充分だよ。それに風呂も付いてるし、小さいけどキッチンも。早く上がってみよう。」

 階段を駆け上がる俺の後から、祐斗は「ちょっと待ってよ。」と云いながら付いてくる。

 俺の部屋は2階の一番奥だった。205号室が今日から俺の住処となる。気分はちょっと上がり気味。
新しい学校、新しい街、新しい部屋。そしてトンちゃんがいる。今度は手を伸ばせば届くところに。



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