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逃避

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「ちょっと、何云ってるの?晴樹.....」

 母さんは俺の腕をグイッと掴んで揺すると怒った様な顔で云う。

「何でもない。忘れてっ!ごちそうさま」

 俺は母さんの手を振り解くと、立ち上がって居間を出た。その間、もうヤバイぐらいに心臓はギュッと痛くなって、息も出来なくなりそうだった。

 なんとか離れの部屋に逃げ込むと、ベッドに潜り込んで丸くなった。

ーーーヤバイ ヤバイ ヤバイ ーーー

 どうしてあんな事云っちゃったんだろう。
絶対変に思われる。それに、父さんはどんな顔をしていたんだろう。母さんは怒っていた。でも父さんの顔を見る事は出来なかった。


 あんな事云ったら、父さんがまるで浮気でもしているみたいじゃないか。.....事実、してたんだけどさ。


 色々な事が頭に浮かんで、もう自分でもどうしていいのか分からなくなる。
母さんがこの部屋にやってきたらどうしよう。いや、父さんが来るかもしれない。その時は云ってやろうか、トンちゃんとの事を......。


 暫くそのままの格好で丸くなっていた俺だったが、シン、となったままの廊下に、身体を起こして布団から顔を出す。誰かが離れの部屋に来る気配はなかった。

ーーー バカだな、俺。あんな爆弾投げといて夫婦仲が悪くなったらどうすんだよ!

 今更自分を責めるが、既に遅い様な気もする。こんなに静かって事は、あの二人、何か話し合っているのかもしれない。.....喧嘩になってたらどうしよう.....


 トンちゃんが出張で良かった。こんな時に居たら、余計ややこしい話になっちゃうよ。

 その夜は母屋に行く事が出来ないまま、朝を迎える事になる。
そして、着替えを済ませると鞄を抱えて離れの家を後にした俺だった。


 学校に着く前に、コンビニに寄ってパンを買うと、校門が開けられるのを待ち構えて校舎に飛び込んだ。

「おはよう」

「おはようございまーす」

 目に入った教師に挨拶をしながら教室に向かうが、「やけに早いじゃないか、部活か?」と訊いてくる先生もいて、それには「あー、まあ、、、、」と言葉を濁しながら離れて行く。

 流石に誰もいない教室に入ると、なんだか変な感じ。
窓から見える青空と、木々に囲まれた風景はものすごく爽やかなのに、俺の心は正反対に闇に包まれていて、暗く淀んだままだった。

 それでも、パンを袋から取り出すと口に入れる。
ただ、味は分からなかった。逃げる様に家から飛び出してきて、この先どうなるのか。不安しかない。

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