胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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子供っぽいけどさ

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 夜になって、離れの玄関が開くと、母さんの声で「ご飯ーーー」と呼ばれる。
そんなに広い家じゃないんだ。大声を出さなくても聴こえるんだけど.....

「はーーい」

 俺も大きな声で応えるとベッドからムクリと起き上がった。
横になっていると、自然に瞼が閉じて眠ってしまう。気が付けばそんな毎日を送っている気がする。


 母屋の居間に行くと、テーブルに並んだおかずを味見。

「美味い、」と一応伝えておくと、母さんは機嫌がいい。
いそいそとみそ汁やご飯も持って来てくれた。

「昨日は祐斗くんの家で何食べたの?」

「.....あー、何だっけ、忘れた。」

「もう~、」

 母さんは怒るが、俺は本当に忘れていたんだ。
だって、祐斗に云われた言葉の方が衝撃的で.....

「祐斗君と同じ大学に行くのかしら?」

 そう訊かれても分からない。自分の事も分からないのに、祐斗の事だって.....

「大学はどうかなー。祐斗は成績いいから結構いいとこ行けるだろうな。でも、俺は....」

「アンタだって成績はいい方でしょ。頑張って塾とか行ったらいいとこ行けるかも。」

「...........うーん、そうかな。」

 俺はあんまり興味もなくて、ご飯を口に放り込むと無言になる。
後はひたすらおかずを頬張って、母さんの話しには相槌だけしていた。


「ただいまー」

 玄関から声がするが、トンちゃんが帰って来たようだった。
一瞬俺は固まるが、食べ終わった食器を重ねて持つと、立ち上がって台所に行った。

「おかえりー、トンちゃんご飯食べるでしょ?」

 母さんの声がする。

「あー、少し食べようかな。今日は忙しくて昼ごはん食べたの遅かったんだ。」

「あらぁ、そうなの?大変ねぇ、身体壊さないでよ」

「うん、」

 台所から二人の会話を訊いていると、普通の姉弟の会話で安心する。ただ、トンちゃんの秘密を知ってしまった俺としては、ものすごーく複雑。これで父さんでも帰ってきたら.......最悪だな。


「おかえり」

 二人の前に行くと、普通に云った。多分、平常心は保てていたはず。

「ぁ、....ただいま」

 トンちゃんの方が動揺しているみたいで、俺の姿を見たら目を伏せた。
母さんには気づかれていないと思うけど、俺は居たたまれなくて「部屋にいく」と云って離れに向かう。

「ちょっと、晴樹、トンちゃんに進路の事とか相談しないの?」

 母さんは俺の背中にそう云って来るが、「まだ決めてないし、今日はいいよ。トンちゃんも疲れてるんだから、今度でいい。」と云って去って行った。

 我ながら子供じみた態度。でも、母さんの前で平静でいられる気がしなかった。


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