胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

文字の大きさ
上 下
38 / 114

子供っぽいけどさ

しおりを挟む
 夜になって、離れの玄関が開くと、母さんの声で「ご飯ーーー」と呼ばれる。
そんなに広い家じゃないんだ。大声を出さなくても聴こえるんだけど.....

「はーーい」

 俺も大きな声で応えるとベッドからムクリと起き上がった。
横になっていると、自然に瞼が閉じて眠ってしまう。気が付けばそんな毎日を送っている気がする。


 母屋の居間に行くと、テーブルに並んだおかずを味見。

「美味い、」と一応伝えておくと、母さんは機嫌がいい。
いそいそとみそ汁やご飯も持って来てくれた。

「昨日は祐斗くんの家で何食べたの?」

「.....あー、何だっけ、忘れた。」

「もう~、」

 母さんは怒るが、俺は本当に忘れていたんだ。
だって、祐斗に云われた言葉の方が衝撃的で.....

「祐斗君と同じ大学に行くのかしら?」

 そう訊かれても分からない。自分の事も分からないのに、祐斗の事だって.....

「大学はどうかなー。祐斗は成績いいから結構いいとこ行けるだろうな。でも、俺は....」

「アンタだって成績はいい方でしょ。頑張って塾とか行ったらいいとこ行けるかも。」

「...........うーん、そうかな。」

 俺はあんまり興味もなくて、ご飯を口に放り込むと無言になる。
後はひたすらおかずを頬張って、母さんの話しには相槌だけしていた。


「ただいまー」

 玄関から声がするが、トンちゃんが帰って来たようだった。
一瞬俺は固まるが、食べ終わった食器を重ねて持つと、立ち上がって台所に行った。

「おかえりー、トンちゃんご飯食べるでしょ?」

 母さんの声がする。

「あー、少し食べようかな。今日は忙しくて昼ごはん食べたの遅かったんだ。」

「あらぁ、そうなの?大変ねぇ、身体壊さないでよ」

「うん、」

 台所から二人の会話を訊いていると、普通の姉弟の会話で安心する。ただ、トンちゃんの秘密を知ってしまった俺としては、ものすごーく複雑。これで父さんでも帰ってきたら.......最悪だな。


「おかえり」

 二人の前に行くと、普通に云った。多分、平常心は保てていたはず。

「ぁ、....ただいま」

 トンちゃんの方が動揺しているみたいで、俺の姿を見たら目を伏せた。
母さんには気づかれていないと思うけど、俺は居たたまれなくて「部屋にいく」と云って離れに向かう。

「ちょっと、晴樹、トンちゃんに進路の事とか相談しないの?」

 母さんは俺の背中にそう云って来るが、「まだ決めてないし、今日はいいよ。トンちゃんも疲れてるんだから、今度でいい。」と云って去って行った。

 我ながら子供じみた態度。でも、母さんの前で平静でいられる気がしなかった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

先生と俺

春夏
BL
【完結しました】 ある夏の朝に出会った2人の想いの行方は。 二度と会えないと諦めていた2人が再会して…。 Rには※つけます(7章)。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

シロツメクサの指輪

川崎葵
BL
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしてくれる?」 男も女も意識したことないぐらいの幼い頃の約束。 大きくなるにつれその約束を忘れ、俺たちは疎遠になった。 しかし、大人になり、ある時偶然再会を果たす。 止まっていた俺たちの時間が動き出した。

恋人が出て行った

すずかけあおい
BL
同棲している恋人が書き置きを残して出て行った?話です。 ハッピーエンドです。 〔攻め〕素史(もとし)25歳 〔受け〕千温(ちはる)24歳

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

処理中です...