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気付いたんだよ

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 自分の部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。

「ハルキ、.....」

 耳元でトンちゃんの声。

 ゆっくり掛け布団をめくって顔をあげる。すると、トンちゃんが憂いのある表情で俺を見つめた。
その顔を見たらたまらなくなって、俺はトンちゃんの手を引いて寝ている自分の方に引き寄せた。

 ドスン、

 少しの重みを腹に感じると、そのままトンちゃんの身体を抱きしめる。

「好きだよ、トンちゃん。俺、トンちゃんの事好きになっちゃったんだ。今まで気づかなかったけど、俺、父さんに嫉妬してるんだよ。」

「.....ハルキ、.....」

 トンちゃんは小さい声で俺の名前を呼ぶばかり。
その声は俺の耳に聞こえているけど、その後の言葉は聞きたくない様な気がする。
絶対受け入れてはもらえない。俺の気持ちなんか、迷惑でしかない。

「聞いて、ハルキ。.....オレ、この家を出ようと思うんだ。そしてもう正和さんにも姉さんにも、.....ハルキにも会わない。そうする事が一番いいと思う。」

 胸がギュンっと傷んだ。
鷲掴みされたみたいに、苦しくて息が出来ない。

「今までオレを家族の一員に入れてくれてありがとう。でも、オレのせいで君たち家族が壊れるのは耐えられない。だから、......」

「嫌だよ!.....どうしてトンちゃんが出て行かなくちゃいけないんだよ。父さんは青森に行くんだろ。.....まさか、トンちゃん、青森に付いて行く気?」

「バカな事を。......もう会わないって云っただろ?オレは一人で別の人生を生きる。」

「......嫌だよ、イヤだ!俺の気持ちはどうなるんだよ。俺はトンちゃんに此処に居て欲しい。父さんとの事は母さんには絶対云わない。約束するから!」

 もう、子供が大人に縋る様に自分でも恥ずかしいくらい幼児化している俺。
こんな我儘をいうのは初めてだと思う。

「ハルキ、......ごめん。」

「あ、トンちゃん、...」

 するりと、身体を俺の腕から抜くと立ち上がってベッドから離れる。
トンちゃんの顔を見上げたが、もう振り返る事はなかった。そのままドアを開けると出て行ってしまう。


.........くっ、.......なんでだよ!


 後から後から涙が零れ落ちる。
鼻水と涙で俺の顔はぐしゃぐしゃだ。それを枕で拭って、今度は頭を枕の下に入れて声を殺すように泣いた。


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