胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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逃げ道

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 逃げる様に祐斗の家に向かう俺。

 バスに乗って暫くすると、祐斗の家のあるバス停に着いた。
少し緊張するが、昨夜の事は絶対バレたら困るし、アレはもしかすると犯罪行為になるんじゃないのだろうか、なんて来る間中頭の中で考えていた。もう取り返しはつかないが、今は忘れたかった。


「よう、いらっしゃい」

 何度か来た事のあるマンションの玄関扉を開けた祐斗が笑みを浮べながら云った。

「おう、ごめんな。無理云って....」

「いいよ~、ハルキがオレに早く会いたいって事だろ?うれしいじゃん。」

「.......ぁ、ああ、うん、」


 ちょっと言葉に詰まったが、案内されて祐斗の部屋に行くとガラステーブルの横に腰を降ろした。

「着替え、こっちに置いておけば?」

「ああ、ありがと」

 持ってきたデイバッグをベッドの脇に置いて、俺はまたテーブルのところに戻る。

「親が明日から実家に帰るって云ってたけど、今夜は?」

「ああ、父親は仕事が終わったらそのまま新幹線に乗るって。母親は先週から行ってるんだ。」

「そうなのか、........。じゃあ、夕飯とか祐斗が作ってたの?」

「いや、外食。つっても、時間なんて別々だしオレは一人で近くの店に食べに行ってた。.....たまたま隣駅の傍のラーメン屋に行ったから、その時にハルキのオヤジさんと徹さんを見かけたんだよ。訊いてみた?」

「..............ぁ、.........ううん、話す時間なくて。それに父親は青森に行ってるから、昨日から。」

「そうか、.....ふうん、」

 ドキリと心臓が跳ねる。
祐斗が気づいていなければいいけど、いま、一番耳にしたくない人の名前だった。


「今夜のご飯どうする?弁当買いに行く?」

 祐斗が俺の横にやって来ると訊く。あんまり近寄られると、俺が焦っているのが分かってしまうんじゃないかと思ってドキドキした。でも、祐斗は少し楽しそうに目を細めて訊いてくるだけ。

「あのさ、明日も食べられる様にカレー、作らない?俺、作った事あるし。」

「えー、いいの?ハルキのカレー食いてぇ。じゃあ、買い物に行こうよ。」

「うん」

 俺から離れると、祐斗はいそいそと財布を取り出してデニムの腰ポケットに突っ込んだ。

 祐斗と二人でマンションを後にすると、バス停から少し歩いた先のスーパーマーケットに向かう。
広い駐車場があって、夕飯の時間だから人で賑わっていたが、そんな中で俺と祐斗は買い物かごを手にすると、カレー用の材料を次々と入れていった。

「なんか嬉しーなー。こういうのってさ、恋人っぽくない?」

「は?」

「二人で食べるご飯の材料買ってぇ、作ってぇ、食ってぇ、......そんでもって夜はぁ、、、、ね。」

「.......何ひとりで云ってるの?......コンビニに弁当買いに行くのとどう違う?」

 俺は肉をカゴに入れると祐斗に云った。さっきからテンション高い祐斗は、なんだかニヤついてて変だし。
周りにいるおばちゃんにじっと見られて、俺はちょっと恥かしい。

「もうっ、つまんないなぁ、ハルキは。」

 プイっと口を尖らせて、祐斗は俺の腕をギュッと掴んだが、俺はさっさと買い物を終えてしまおうと無視をして歩いて行く。


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