上 下
20 / 98

怒りの矛先

しおりを挟む
 足が震える。
 
 さっきの父親の声が耳の奥から離れない。

 俺や母さんと話す時には無い、少し甘えた様な声。そして...........。
思い出したくないのに、俺の頭の中ではあの日の記憶が一気に蘇る。

 小5の時に離れのトンちゃんの部屋で見た光景。
あの時、トンちゃんは虚ろな目で何をしていた?いや、父だ。父がとんちゃんに何かを........

「クッソー、マジかよ!」
頭をガンガンと拳で叩きながら、俺はベッドに入ると布団を頭から被った。
この記憶を消し去りたい。さっきの父親の話しも何もかも。



 身体の底から湧き上がる不愉快な感情。それになんと名前をつければいいのか分からないが、今まで生きてきた中で一番不愉快だったしショックだった。裏切られたという気持ちなんだろうか......。


 布団を頭から被った俺の耳に、微かに聞こえる声がした。

「ハルキ、......」

 トンちゃんの声だ。
風呂から出て来て、きっとスマホを見たんだ。


「ハルキ、あの、......」
云いかけるトンちゃんの言葉を遮る様に、俺は布団を剥ぐとトンちゃんの手を掴んでベッドに倒し込んだ。

「説明しろよ、俺に!.......何なんだよ、あんたら!」

 トンちゃんの身体を押さえ込むぐらい俺には簡単で。
既に体格では俺の方が勝っているし、力だって強い。トンちゃんは何の抵抗も出来なくなった。

「ごめん、ごめん、ごめんなさい。......姉さんには云わないで、.....お願いだから、.....」

 俺は掴んだ手を緩めると、身体を起こして座った。
トンちゃんはまだ横たわったまま、俺の顔を見れずに声を震わせて謝るばかり。

 こんな事を云わせる父親に呆れる。
張本人は父さんじゃないか。なのにトンちゃんが悪いみたいになって........。


「云わないよ、俺の口からは。.....ってか、云えないだろ?こんな、......」

 男と女だとしても云えないのに、弟と亭主が、だなんて...........口が裂けたって云えないよ。

「.....っから?......いつから父さんと、........」

「..........それは、...............」

 口ごもるトンちゃんは、ただ涙を浮かべているだけ。

「この離れに住んでから、だよな。........なんか違和感あったんだ。俺はガキで、その違和感がどういうものなのか分かんなかったけど。.......そうか、........」

「正和さんは悪くないよ、オレが、オレが.......ゲイなんだ。」

「え?」

「ハルキの歳にはもう分かってた。もっと前から、女の子と触れ合うとゾッとして、そういう関係にはなれないって事が。でも、姉さんが連れて来た正和さんを見て、初めて胸が高鳴った。オレが勝手に恋をして、オレの気持ちを受け入れてもらっただけ。」

 何を云っているんだと思った。
二人の馴れ初めを話すように、そんな顔で云われて、俺がいったいどんな気持ちでいると?

「キスマーク、見せてよ。」

 俺は腹がたって、トンちゃんを無理やり転がすとTシャツを捲り上げた。



  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...