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ファーストキス
しおりを挟むプールで泳ぐのは久しぶり。
狭いとはいえ、ここは50mプールがひとつと低学年用の25mプールがひとつあって十分な施設だと思う。
小学生が多いのは仕方ないが、ちらほらいる中学生の女子がこちらを見ているから気になる。
多分祐斗の事を見ているのだろうと思うが、目鼻立ちのはっきりした美形だし、身長はまあそんなに高くはないが普通くらいか。でも、俺の目から見てもやっぱりイケメンだ。そんな男が俺なんかを好きだなんてどうかしてる。
「ハルキ、競争しようよ。」
「ええ?こんなとこで?」
「うん、負けた方が勝った方のいう事を今日一日聞くってのはどう?」
「.........えー、今日一日って.....、夜迄って事?」
「そうだな。晩ご飯はハルキの家で喰うとして、じゃあ7時まで。どう?」
「晩御飯、うちで食べるの決定かよ。まあいいけど、.....。」
「じゃあ、今からオレが合図するから。」
そう云うと、祐斗がパン、と手を叩いた。スタートの合図で、俺は勢いよくクロールで泳いでいく。
周りは殆ど遊びで泳いでいる人ばかり。そんな中、俺たち二人が真剣に泳ぐと、進路を開けてくれた様でスイスイと進んでいけた。
ゴールが見えておもいきり手を伸ばしたが、ほんの少しだけ祐斗の方が先に手をついていた様で。
ゴーグルを外して残念そうにうな垂れると、祐斗が俺の肩に手を掛けて「悪いね、今からハルキはオレの下僕だから。」と嬉しそうに云う。その顔が憎らしくて、俺は水面に拳をぶつけた。
結局、プールに来た事が良かったのか悪かったのか。
俺は祐斗の荷物を持つと、帰りのバス代まで出す羽目になる。下僕って、なんだか心身ともに辛い。それに金も消える。
「いや~、ハルキのお蔭で暇つぶしが出来たし、金も使わないし、いい一日になりそう。」
頭の後ろに腕を組んで祐斗が笑いながら歩くと、俺は尚更ムカついた。でも勝負に負けたし、そこは従うしかなかった。
家に着くと、自分の水着やタオルを洗面所へと持って行く。
「祐斗のも一緒に洗ってやろうか?」と声を掛ければ、「いい、乾かないしこのまま持って帰るから。それより腹減ったよ。なんか食わせて。」と早速指令が下る。
「へいへい、カップラーメンでもいいですかね。晩ご飯迄には時間があるし、あんまり食うとよくないだろ?」
「うん、カップラーメン、プリーズ。」
そう云うと偉そうに居間のソファーに横たわる。
「まったく、.....。マジで下僕辛い。」
二人分のカップラーメンに湯を注いで祐斗の前に差し出すと、泳いで疲れたのか目を閉じてうたた寝を始めるから、俺は「おい、起きろよ。ラーメン伸びるから」と肩を揺すった。
「う~ん、......キスしてくれたら起きる。王子様のキスで目を覚ますのって白雪姫?だっけ。」
「バカ云ってないで、起きろよ。」
祐斗の冗談に付き合えないと、もう一度揺すってみたら急に低い声になって「下僕への命令だ。」と云った。
「はあ?......おい、ふざけるのも、.....」
「命令は聞くって約束。」
そう云われて瞼を閉じた祐斗の顔を見たら、本気で云っていると思った。これはきっとラーメンが伸びてしまっても止めないだろうな。
「もったいぶんなよ。ファーストキスじゃないじゃん。」
そう云われても......。
「男とはファーストキスだよ。.....」
俺は潔く祐斗の頬に手を添えると、薄紅色のくちびるにチュッと音をたててくちづけをした。
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