胸に宿るは蜘蛛の糸

itti(イッチ)

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不意打ち

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 離れの自分の部屋に行くと、祐斗は俺のベッドに横たわって本を見ていた。

「何読んでるの?」

「ニーチェ」

「は?.....漫画?」

「.....哲学者だよ。」

 俺の問いかけにガッカリしたのか、祐斗は本をパタリと閉じる。そして、ベッドの下にそれを落とすと、今度は俺に手招きをした。

「なんだよ、.....ゲームするんじゃなかったのか?」

 云いながら祐斗に近付くと、祐斗は伸ばした手で俺の指を掴んだ。

「夕方まで時間あるし、イイ事しようよ。」

「...........え?」

 訊くが早いか、祐斗は俺の手をグッと引き寄せると自分の上に引き倒す。

「いっ、、、たい!!」

 ガチンと音が出る程、俺の額が祐斗の肩にぶち当たる。
目から火花が出そうで、頭がクラクラした。が、祐斗は俺の首に腕を回してくるとそのまま顔を近付けて来た。
一瞬、本当に一瞬の事だったが、俺は祐斗の顔を思い切り避けると、そのまま肘鉄をくらわす。

「ゴッ、、、、」

 唸り声をあげた祐斗が、俺から腕を離すと自分の腹を押さえてもがいた。
うずくまる様に丸くなって、ベッドの上からずり落ちそうになるが、俺は祐斗の肘を掴むと落ちないように引っ張ってやった。

「ご、めん.......でも、お前が悪い。」

 そう云うしかなくて、呻く祐斗の顔を見ると背中をさすってやる。
急にキスされそうになって、本能で俺は避けてしまった。これって、俺が悪いんだろうか..........?


「.....フ、.......マジで傷付くんだけど。」

 そう云われても、今のは全くの不意打ちで、襲われた様な気になったって仕方がない。俺も男だし、力じゃ負けないって事を祐斗は忘れている。そもそも、俺の方がガタイはいいんだから。

「肩、痛くない?.....俺、デコがメッチャ痛いんだけど。青くなってたら外出ないからな。」

 額を擦りながら云った。こんなバカみたいな事で、せっかくの外食がパーになっちゃうなんて、どうかしてる。

「痛いよ、......肩、外れるかと思った。ハルキがデカイの忘れてた。」


 そう云って、自分の肩に手を置くから、それを見た俺は可笑しくなった。
全くバカなヤツ。


「......ニーチェって、どこかで聞いた気がする。何かの授業で。」

「ドイツの哲学者だよ。」

「哲学に興味があるんだ?初耳。」

 祐斗は頭がいいけど、俺から見たらやっぱりどこか掴めない性格で。この歳で哲学とかに興味のあるやつを俺は知らない。

「まあね、でも、そんなに難しい事は云ってないよ。って云ってもハルキには理解できないかも。まあ、オレもそんなに理解は出来てないけどさ。」

「なんだよ、ソレ。.......で、急に俺を襲うなよ、反射的に手が出ちゃったんだ。」

 ベッドに二人で寝転ぶと、そう云って天井を見上げる。流石に祐斗はもう襲ってこないと思った。
キスをされるのはいつも相手からだったが、彼女を避けたりはしなかった俺。でも、心のどこかで相手が男であるという事には嫌悪感を持ったんだろうか。自分でもよく分からなくなっていた。


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