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口実
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◆
あの日の記憶を心の何処かに仕舞い込んでいたが、流石に中学二年生になると、性的な話も友人との会話の中に出て来て、そこからは性に目覚めていった俺。
中学の同級生の中に、華奢でか弱そうな男子が居て、友人のひとりがそいつの事を『ホモ』と云っていた。
俺は既にクラスの女子と付き合っていて、そんな事に興味もなくかかわらない様にしていたが、ある日、そいつが他の生徒から殴られているのを目撃し、ついうっかり止めに入ってしまうと、それからはどういう訳か俺まで『ホモ』呼ばわりをされる様になって........。
俺は昔から目立つのがキライ。
なのに、中学になって身長も伸びてくると、同級生の中ではデカイ方になってしまい、気持ちとは裏腹に目立ってしまっていた。もちろん、『ホモ』ではないし、普通に女子と付き合えている。だから傷つく事もないと思っていたが、周りは面白おかしくはやし立てるのが好きで、気付けば他の学年の生徒からもそういう目で見られる様になった。
結局、彼女も俺から離れて行くと、俺の周りにはひ弱そうな男子が集まって来て、噂は本当なのだと云っている様なものだった。もちろん、男友達とそういう関係になるなんて考えてもいない。俺は『ホモ』ではない。
学校での事があって、『ホモ』というワードに気持ちが引っかかると、PCで検索をかける。
俺の親は仕事で忙しく、子供のパソコンに鍵をかけるという事にも疎いというか。まあ、信用してくれていたんだろうが、中学生にして『ゲイ』というか、LGBT関連の事を知る事が出来た。
そうなってくると、心の奥深く仕舞っていた疑念がひょっこりと顔を出す。
そう、あの日の父と、トンちゃんの表情。俺を見て顔色が変わったトンちゃんの様子は、どう見たって変だったんだ。
そしてあの日以降も、父はトンちゃんの部屋を訪ねてくるし、何やら二人でボソボソと会話をしたり、たまに笑い声が聞こえる事もあった。俺の部屋とは隣合わせだが、ヘッドフォンをして音楽を聴いていたから、二人の会話は聞こえては来なかった。ただ、なんとなく俺の胸の内がモヤモヤとするのだけを感じていた。
「ハルキ、もうすぐ試験でしょ?ちゃんと勉強してる?」
口を開けばそういう母に、半ばウンザリしていた俺は、「だって、父さんがトンちゃんのとこ来て煩いからさー、勉強の邪魔なんだよね。」と云ってしまった。もちろんそれは嘘で、試験勉強をしない口実に過ぎなかったのだが。
「...........お父さんとトンちゃん?............いったい何を話しているのかしらねぇ。」
母は、洗い物の手を止めると俺に訊く。
その横顔を見て、俺は自分がマズイ事を云ったと気付く。これは、なんだかよくない事になる予感。
「父さんは?今日も遅いの?」
俺が母に訊く。
「今日は出張。青森だってさ。.......トンちゃんも残業で遅くなるから、先に鍵かけて寝てればいいって、アンタに云ってくれってさ。うちの男どもは仕事人間だよね~。」
呆れた様に云う母の、眉毛が片方だけピクピクするのを見ると、俺は云った事を後悔する。ふざけて云っただけなのに、なんだかすごく胸が重苦しくなった。
その晩、一応試験勉強をする俺が遅くまで起きていると、日付が変わってからトンちゃんは帰って来た。
足音を気にしているのが分かり、そっとドアを開けた時、俺が部屋から顔を出して「おかえり」と声を掛けた。が、トンちゃんはものすごく驚いて、俺を見た時のトンちゃんの目が腫れていて、その顔に俺も驚くと声が詰まった。
「........どうしたの?」
静かに訊く俺に、「なんでもないよ。仕事で目が疲れてるだけ。一日中パソコンとにらめっこだからね。もう寝ろよ、ハルキは明日も学校だろ?」と、下を向くと云う。
「うん、そうだけどさ......。トンちゃん、風呂は?」
「........いいから、寝ろよ。じゃあ、おやすみ。」
「ぁ、.....うん、おやすみ。」
パタンとドアを閉めたが、俺の胸のモヤモヤが尚更大きく広がって、ベッドに横たわってもなかなか寝付けずにいた。
あの日の記憶を心の何処かに仕舞い込んでいたが、流石に中学二年生になると、性的な話も友人との会話の中に出て来て、そこからは性に目覚めていった俺。
中学の同級生の中に、華奢でか弱そうな男子が居て、友人のひとりがそいつの事を『ホモ』と云っていた。
俺は既にクラスの女子と付き合っていて、そんな事に興味もなくかかわらない様にしていたが、ある日、そいつが他の生徒から殴られているのを目撃し、ついうっかり止めに入ってしまうと、それからはどういう訳か俺まで『ホモ』呼ばわりをされる様になって........。
俺は昔から目立つのがキライ。
なのに、中学になって身長も伸びてくると、同級生の中ではデカイ方になってしまい、気持ちとは裏腹に目立ってしまっていた。もちろん、『ホモ』ではないし、普通に女子と付き合えている。だから傷つく事もないと思っていたが、周りは面白おかしくはやし立てるのが好きで、気付けば他の学年の生徒からもそういう目で見られる様になった。
結局、彼女も俺から離れて行くと、俺の周りにはひ弱そうな男子が集まって来て、噂は本当なのだと云っている様なものだった。もちろん、男友達とそういう関係になるなんて考えてもいない。俺は『ホモ』ではない。
学校での事があって、『ホモ』というワードに気持ちが引っかかると、PCで検索をかける。
俺の親は仕事で忙しく、子供のパソコンに鍵をかけるという事にも疎いというか。まあ、信用してくれていたんだろうが、中学生にして『ゲイ』というか、LGBT関連の事を知る事が出来た。
そうなってくると、心の奥深く仕舞っていた疑念がひょっこりと顔を出す。
そう、あの日の父と、トンちゃんの表情。俺を見て顔色が変わったトンちゃんの様子は、どう見たって変だったんだ。
そしてあの日以降も、父はトンちゃんの部屋を訪ねてくるし、何やら二人でボソボソと会話をしたり、たまに笑い声が聞こえる事もあった。俺の部屋とは隣合わせだが、ヘッドフォンをして音楽を聴いていたから、二人の会話は聞こえては来なかった。ただ、なんとなく俺の胸の内がモヤモヤとするのだけを感じていた。
「ハルキ、もうすぐ試験でしょ?ちゃんと勉強してる?」
口を開けばそういう母に、半ばウンザリしていた俺は、「だって、父さんがトンちゃんのとこ来て煩いからさー、勉強の邪魔なんだよね。」と云ってしまった。もちろんそれは嘘で、試験勉強をしない口実に過ぎなかったのだが。
「...........お父さんとトンちゃん?............いったい何を話しているのかしらねぇ。」
母は、洗い物の手を止めると俺に訊く。
その横顔を見て、俺は自分がマズイ事を云ったと気付く。これは、なんだかよくない事になる予感。
「父さんは?今日も遅いの?」
俺が母に訊く。
「今日は出張。青森だってさ。.......トンちゃんも残業で遅くなるから、先に鍵かけて寝てればいいって、アンタに云ってくれってさ。うちの男どもは仕事人間だよね~。」
呆れた様に云う母の、眉毛が片方だけピクピクするのを見ると、俺は云った事を後悔する。ふざけて云っただけなのに、なんだかすごく胸が重苦しくなった。
その晩、一応試験勉強をする俺が遅くまで起きていると、日付が変わってからトンちゃんは帰って来た。
足音を気にしているのが分かり、そっとドアを開けた時、俺が部屋から顔を出して「おかえり」と声を掛けた。が、トンちゃんはものすごく驚いて、俺を見た時のトンちゃんの目が腫れていて、その顔に俺も驚くと声が詰まった。
「........どうしたの?」
静かに訊く俺に、「なんでもないよ。仕事で目が疲れてるだけ。一日中パソコンとにらめっこだからね。もう寝ろよ、ハルキは明日も学校だろ?」と、下を向くと云う。
「うん、そうだけどさ......。トンちゃん、風呂は?」
「........いいから、寝ろよ。じゃあ、おやすみ。」
「ぁ、.....うん、おやすみ。」
パタンとドアを閉めたが、俺の胸のモヤモヤが尚更大きく広がって、ベッドに横たわってもなかなか寝付けずにいた。
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