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第五章
お地蔵さま
しおりを挟む今、背負っている、と聞こえたが。
「我が家は、いつの頃からか生まれるのは男一人に女も一人。姉と弟、という変わった家系でした。そして、お地蔵さまの影響を受けるのは決まって女。姉の方なんです。」
峰子さんがそう云って話し始める。
「お地蔵さまの影響って、......なんなんでしょうか?」
「あの辺りは開拓した農地だったんですが、川が氾濫を起こしては重大な被害を受けて、農民は困り果てた。」
「あの家の近くを流れる川の事ですね。」
「ええ、......私が子供の頃に聞いた話です。あの川を鎮めようと、村の誰かが言い出して、今では伝説でしか耳にしない事が。それが毎年の行事のようになって、川が氾濫すると行われたそうです。」
「それがお地蔵さまに関係しているんですか?」と、横で聞いていた水野さんが身を乗り出す。
「人身御供という言葉を知っていますか?」
峰子さんは僕と水野さんの顔を交互に見ると訊いた。
「「はい。」」
「昔は貧しい農家で、子供の沢山いる家庭から一人、赤子を差し出させたそうです。」
「「えっ?! 生きた赤ちゃんをですか?」」
「はい、そう聞いています。」
僕も水野さんも言葉に詰まってしまった。こんな話を聞いてもいいのだろうか.....。
「開拓者の中には河川工事に精通した人がいなくて、そんな儀式みたいな事が何度かあったそうです。だけど、いよいよ真壁の家の番がやって来て。二人しかいない子供のうち、差し出されたのは姉の方だった。その頃はもう赤子ではなくなっていて、多分5歳か10歳か。」
「え、.....それって、.......」
水野さんは子供の姿を想像したのか、涙ぐんでしまう。
僕も言葉にならなかった。これは殺人だ。しかも物心ついている子供を.....
「先祖はものすごく後悔した。そして地主である自分の力のなさを恥じた。だけど、その後からは氾濫が起こらなくなって。」
「まさかそんな事が、.....」
ガクリと肩を落とす僕たち。テーブルに伏せたくなってしまう。でも、峰子さんの話は続いた。
「真壁の家の次の代になった頃でした。又あの川が氾濫をしたんです。」
僕はなんとなくその後の話の展開が読めてしまった。
「姉を差し出した後に残った弟の子供が生まれました。双子でしたが男と女。村の人たちは、真壁から差し出した子供には神の力が宿ると云って、女の子を差し出すように願ったんです。そして.......」
峰子さんが言葉に詰まると、僕と水野さんもじっと身構える。
段々と聞いていて怖くなった。かなり昔の話だとはいえ、人を生贄にするなんて考えたくない。ましてや自分の先祖の事だ。
「ごめんなさいね、嫌な話を聞かせてしまって。でも、此処からがお地蔵さまと私たち真壁家の女性との繋がりになるの。」
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