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第四章
訪問
しおりを挟む水野さんとマンションの部屋に戻ってくると、早速彼女が部屋中を見て周る。
「案外ちゃんとしてるのねぇ。男の子ひとり暮らしってもっと汚れているかと思った。」
ひと通り見て周ってから僕の前に座ると云う。水野さんらしい言い方。
「持ち物が少ないし、.....母が入院中の方が散らかってましたよ。今は誰も片付けてくれる人がいないし。」
「.......お母さん、きちんとした方だったのね。台所見れば分かるよ。」
そう云うと少し静かになった。
「あ、お茶かなにか飲みますか?」
「うん、そうね、コーヒーがあればお願いします。ホットで。」
「分かりました。」
水野さんを部屋に残してキッチンへ行くとコーヒーカップを取り出した。
僕がコーヒーを持って行く間に、水野さんは母の写真立ての前に行くと手を合わせた。
「奥村くんのお母さんって美人だったね。ちょっと奥村くんに似てるのかな?それともお父さん似なのかな?」
コーヒーをテーブルに置き、部屋から出て来た水野さんに「どうぞ」と云って差し出す。
「父の写真が一枚も無いのって変ですよね。」
自分のコーヒーカップを手で包む様にしながら訊いた。
「正直、驚いた。たとえ何かの理由があったとしても写真ぐらいはあるかな....って思うよ。でも、奥村くんに見せたくない何かがあったのかも。」
「見せたくない?」
「うん、.....よく分かんないけど。とにかく、北海道のおじさんの家で何があったのか教えて。」
「....はい、分りました。」
そう云うと、テーブルに向かい合い僕は話し始める。
母の実家は、昔その辺りの地主だった事。そして家の敷地内にお地蔵さまが祀られていた事。それから、......母が残した原稿用紙に書かれていた内容。
一応、順を追って説明したつもり。宇賀地さんという上級生が亡くなった事も話したし、従姉の美乃利さんの事も。そして、おじさんから聞かされた祖父の姉の事も。
水野さんは、固唾を飲んで僕の話に耳を傾けてくれた後でこういった。
「亡くなったおじいさんのお姉さん、.......その方があのご婦人かも。」
「え?.......そんな事って、......」
あり得ない話じゃないけど、そんなに都合よく近所にいるかなぁ。半分まさかと思いながら、水野さんの話を聞く。
「年齢的には合うでしょ?それに、わざわざ葬儀に顔を出すって事は知っていたからじゃない?」
「でも、それなら僕に声を掛けてくれてもいいと思うんですよ。水野さんに、僕には姉妹がいるか訊くなんておかしいでしょ?」
「うん、でも聞けない理由があったら。もしも姉妹がいるって云ったらどうしたかしら。」
「よく分かりませんけど、直接その人に会って話を聞くしか。いくら頭を悩ませていても、想像すら出来ない。それにお地蔵さまの事も分からないままで。せめて祖父母が生きていたら聞けたのに.....。」
「探しましょうよ。だって住所は書いてくれてるんだから。きっと自分の事を知って欲しいというサインなんじゃないかな。」
「.......そうかも、.......明日、この住所の所に行ってみます。」
「じゃあ、私も。明日何時にする?早い方がいいわね。」
「えっ?!水野さんも行くんですか?」
「だって奥村くん一人じゃ心配よ。ちゃんと聞けるか分からないし、こういう時は第三者がいた方がいいって。任せてよ。」
断りたかったが、きっと水野さんは付いて来そうな気がする。それに、後々話の続きがどうなったのか聞かれそうだ。僕は根負けして、仕方なく明日の朝に二人で訪ねようという約束をした。
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