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第四章
好奇心の塊
しおりを挟むカクテルを飲み干すと、水野さんは僕の顔をじっと見つめる。
「......なんですか?」と恐るおそる訊ねると、「訳ありの話、聞いてもいいかな?」
そう云って一瞬だけ口角を上げた。が、すぐに真面目な顔付きになる。
「...........そうですね、水野さんにはお世話になっているし、こんな似顔絵も描いてもらって。僕が訊かないで欲しいと云ったら尚更聞きたくなるでしょうし。」
「うんうん、そりゃあそうよ。だって、......こんな言い方失礼だけど、親戚の人がおじさん一人って。ちょっと不思議な感じだったの。.....だって奥村くんの生まれは東京でしょ?父方の親族とか来ないのかなって....」
ちょっと俯き加減にそういう水野さんだった。口には出さなかったけど、多分他の人達もそう思っているんだろうな。
「訳ありっていう言い方があっているのか分かりませんけど、僕は父の顔も声も姿さえ覚えていなくて。記憶の中で消されてしまったかもしれないけど、うちには写真一枚もなくて.....。」
「え、そうだったの?.....でも、父方の苗字だし、離婚している訳じゃないでしょ?」
「はい、多分。.....父親が生きているのか死んでいるのかさえ知りません。ただ、............今回母親の弟という人に出会って、初めて母が音信不通だった事を知ったんです。」
「あのおじさんって、弟さんだったのね。どうして音信不通になってたのかしら?」
「それはおじさんにも分からなくて。僕を産んだ後くらいに祖父母が事故にあって亡くなったそうです。その後から母との連絡も途絶えたとか。」
「あら、......そんな事が。.....でも、今回北海道に行って何か分かったんじゃないの?」
水野さんは身体を乗り出すと、僕の顔がよく見える様に近寄ってくる。
興味を持っているのは分かるが、何処まで話せばいいのか.....。
「なんていうか、.....あまり大きな声では話せないっていうか。.....ちょっと不思議な話なんで、聞いても訳が分からないと思うんですよ。」
「そんなに不思議な話なんだ?......じゃあ、奥村くんの家に行くわ。」
「エッ?.....僕の?」
「うん、だって大きな声では話せない様な事でしょ?部屋なら二人だけだし、遠慮はいらないから。」
「.............. 」
正直、僕は水野さんの圧に負けそう。彼女のいい所だけど、それは仕事の面では、という事で。プライベートで付き合うのはかなり気力がいる様だ。
「どうしてそこまでして訊きたいんですか?他人の家庭の話なんて、聞いたって仕方ないと思うんですけど。」
「あら、だって同僚の悩み事が解決しなきゃ仕事にも差し支えるでしょ?一緒に解決して気持ちよく働きましょうよ。奥村くんの仕事も溜まっているんだから。」
「............はぁー、まあ、そうですね。」
仕方なく、僕は自分のカクテルを飲み干すとその場で立ち上がる。
「じゃあ、行こうか。」
水野さんが張り切った口調でそう云って、お会計の紙を握るとレジの方へ向かった。
慌てて後を追う僕。「会計は割り勘で。」と云うと、「ここは奢るからじっくり話を聞かせて。」といって笑みを浮べる。
その言葉に、覚悟をしなければ、という気持ちが僕の中に沸いた。
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