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第四章
待ち合わせ
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なんとか週末までに急ぎの仕事を片付けると、水野さんとの約束通り土曜の晩に待ち合わせをした。
あまり来た事がないダイニングバーという所で、ひとりで入るのには気が引けて、入口付近で水野さんを待つ。目の前を通り過ぎる人達は、カップルだったり友人同士といった楽しそうな雰囲気の人ばかり。僕は、といえば少し緊張の面持ちで突っ立ったまま水野さんの姿を探す。
漸く視界に入った水野さんの姿にホッとすると、自然に笑みが零れた。
一瞬、デートの時間に彼女が来た様な錯覚をして、コホン、と一つ咳ばらいをすると姿勢を正す。水野さんは彼女じゃないし.....。
「お待たせー。電車一本逃しちゃってさ、待った?」
息を切って僕の前に来る水野さんは、会社では見ない様なワンピース姿。インディゴブルーが爽やかな色を放ち、足元も白のスニーカーでカジュアルだけど清潔感のあるスタイルだった。
「そんなには待ってません。」
「じゃあ、入ろうか。......ここに来るの久しぶりなんだよねー。」
そう云うと、僕の前をスタスタと歩き始めて入口の扉を開けた。
中はそれほど広くはなかった。奥の壁一面に並んだお酒のボトルに目がいく。照明に照らされて、輝いて見えるグラスが並び、カウンターでは二人の人がお酒や料理を作っているみたい。
空いている席に着くと、早速メニューを手に取る水野さん。僕も同じように眺めてみるが、あまりお酒には興味がなくて、進められれば飲む程度。酔いつぶれるまで呑んだのは大学生の時くらいだ。
注文を済ませて、少し店内の客を見ながら「こういう所、よく来るんですか?」と訊ねた。
「まさか。あんなに残業続きで平日に来られる訳ないでしょ。でも、大学の時の友人と会ったりするのは此処かな。年に数回程だけどね。」
「そうですか。......なかなか雰囲気のいい店ですね。客層も幅が広そうだし、メニュー見ても品数多いし。」
「でしょ?奥村くんも彼女が出来たら連れて来るといいよ。」
「はあ、.....そうですね。」
「見た目イケメンなのに、どうして彼女が出来ないのか不思議よね、キミ。」
「いや、見た目イケメンって、......中身がイケてないみたいな言い方.....」
「あ~、ごめんごめん、中身は母親想いの純情青年、ってとこかしら?」
「....なんか褒めてもらってない様な気がしますが、......」
ははは、と笑いながら、水野さんは持っていたバッグから何かを取り出そうとゴソゴソし出す。
「なんですか?」と、僕が訊ねれば、「似顔絵を描いて来たのよ、あのご婦人の。」と云って白いコピー用紙に描いた女性の姿を見せてくれた。
「こんな感じの婦人だったわ。面長で白髪が綺麗で、歳の割に背筋は伸びてた。あと、目が悪いのか色付きの眼鏡をかけてたから、はっきりとは見えなかったけど昔はきっと綺麗なお顔だったんだと思う。」
「凄いですね水野さん。絵が描けるなんて知りませんでしたよ。」
僕は手にした絵を見ながら感心して云った。
「これでも昔は美術部だったのよ。あと、イラストも趣味では描いてる。」
「ああ、それで上手なんだ.....。この絵があれば探すのにも役立ちますね。」
「でしょ?この方と話をしたのは多分私だけだと思うし、奥村くんも想像しやすいだろうと思って。」
「ありがとうございます」と云ったところで、注文したお酒と料理が運ばれて来ると、暫くは食欲の方に気持ちがいってしまう。久しぶりのカクテルを口にして、チーズやクランチポテトを堪能しながら水野さんと会話が弾んだ。
あまり来た事がないダイニングバーという所で、ひとりで入るのには気が引けて、入口付近で水野さんを待つ。目の前を通り過ぎる人達は、カップルだったり友人同士といった楽しそうな雰囲気の人ばかり。僕は、といえば少し緊張の面持ちで突っ立ったまま水野さんの姿を探す。
漸く視界に入った水野さんの姿にホッとすると、自然に笑みが零れた。
一瞬、デートの時間に彼女が来た様な錯覚をして、コホン、と一つ咳ばらいをすると姿勢を正す。水野さんは彼女じゃないし.....。
「お待たせー。電車一本逃しちゃってさ、待った?」
息を切って僕の前に来る水野さんは、会社では見ない様なワンピース姿。インディゴブルーが爽やかな色を放ち、足元も白のスニーカーでカジュアルだけど清潔感のあるスタイルだった。
「そんなには待ってません。」
「じゃあ、入ろうか。......ここに来るの久しぶりなんだよねー。」
そう云うと、僕の前をスタスタと歩き始めて入口の扉を開けた。
中はそれほど広くはなかった。奥の壁一面に並んだお酒のボトルに目がいく。照明に照らされて、輝いて見えるグラスが並び、カウンターでは二人の人がお酒や料理を作っているみたい。
空いている席に着くと、早速メニューを手に取る水野さん。僕も同じように眺めてみるが、あまりお酒には興味がなくて、進められれば飲む程度。酔いつぶれるまで呑んだのは大学生の時くらいだ。
注文を済ませて、少し店内の客を見ながら「こういう所、よく来るんですか?」と訊ねた。
「まさか。あんなに残業続きで平日に来られる訳ないでしょ。でも、大学の時の友人と会ったりするのは此処かな。年に数回程だけどね。」
「そうですか。......なかなか雰囲気のいい店ですね。客層も幅が広そうだし、メニュー見ても品数多いし。」
「でしょ?奥村くんも彼女が出来たら連れて来るといいよ。」
「はあ、.....そうですね。」
「見た目イケメンなのに、どうして彼女が出来ないのか不思議よね、キミ。」
「いや、見た目イケメンって、......中身がイケてないみたいな言い方.....」
「あ~、ごめんごめん、中身は母親想いの純情青年、ってとこかしら?」
「....なんか褒めてもらってない様な気がしますが、......」
ははは、と笑いながら、水野さんは持っていたバッグから何かを取り出そうとゴソゴソし出す。
「なんですか?」と、僕が訊ねれば、「似顔絵を描いて来たのよ、あのご婦人の。」と云って白いコピー用紙に描いた女性の姿を見せてくれた。
「こんな感じの婦人だったわ。面長で白髪が綺麗で、歳の割に背筋は伸びてた。あと、目が悪いのか色付きの眼鏡をかけてたから、はっきりとは見えなかったけど昔はきっと綺麗なお顔だったんだと思う。」
「凄いですね水野さん。絵が描けるなんて知りませんでしたよ。」
僕は手にした絵を見ながら感心して云った。
「これでも昔は美術部だったのよ。あと、イラストも趣味では描いてる。」
「ああ、それで上手なんだ.....。この絵があれば探すのにも役立ちますね。」
「でしょ?この方と話をしたのは多分私だけだと思うし、奥村くんも想像しやすいだろうと思って。」
「ありがとうございます」と云ったところで、注文したお酒と料理が運ばれて来ると、暫くは食欲の方に気持ちがいってしまう。久しぶりのカクテルを口にして、チーズやクランチポテトを堪能しながら水野さんと会話が弾んだ。
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