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第四章

探偵の気分

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 翌日、昼の休憩の時に水野さんの元へ行くと、僕は鞄から芳名帳を取り出した。
水野さんはそれを見て、一瞬で理解したように手に取ると中を開いて一枚ずつめくり始める。

「僕が知る関係者の所には○をつけておきました。それ以外に会社関係の知っている人がいたら教えてもらえませんか?」

「..........うーん、ほとんどは○がついてるなー。......あ、この辺に書いてくれた人はお母さんの会社関係の人だよ。えーっと、この辺りまで。20人分の香典返しを渡したから覚えてる。」

「そうですか。」と云うと、そこに印をつけていく。

「奥村くんのお母さんの仕事仲間って、結構多かったなー。だけど、若い人はいてもあの年配ぐらいの人はいなかったよ。仕事関係の人じゃないと思うけど。」

「僕も、仕事関係の人じゃないとは思います。それに、.......」

 一瞬言葉に詰まったのは、真壁さんの名前を水野さんに知らせてもいいのかと迷ったから。
水野さんとは関係のない事だし。単なる近所の知り合いの婦人かもしれない。

「なによー、気になる言い方ねぇ。そもそもあの婦人の事が気になっていたのは私なんだからね。誰だったか教えてくれてもいいでしょ?」

 水野さんは好奇心が強いのか、そう云って僕に近寄って来る。

「....誰だったのかは分かりませんが、.....母の旧姓は真壁というんですけど、ここにもおじさん以外の真壁という名前があったんです。真壁峰子さん。」

 僕は芳名帳のページをめくるとその名前の所を指差した。

「.....ご親戚?」

「いえ、多分違うと思いますが、............でも、分かりません。」

 そんな言い方しか出来ないのは、母がおじさんや親戚から身を隠していたという事が分かったからで。
音信不通になっていた母を知る人がいたとは思えないからだった。

「なんだか、........訳ありって感じ?」

「....まあ、そんな感じです。どうもすみません、気にしてもらったのに。」

「いいっていいって、私も気になると追及したい性格でね。.....あ~、だから離婚しちゃった訳だけど。浮気なんか追及するもんじゃないわ。」

「.............」
 
 その言葉にはどう答えていいものか......。

「金曜の晩は空いてる?デートの予定とかあったらいいけど。」

「え?......デートはする相手がいませんけど...空いてますが。」

「じゃあさ、飲みに行こうよ、二人で。」

「ええッ?」

「なによー、デートに誘った訳じゃないから。聞きたい事があるだけ。.....そっちも気になっているんでしょ?この人の事が。」

「..........まぁ、.....はい。」

「じゃあ、決定ね。仕事早く終わらせようね。」

「はい、」


 水野さんに圧されてそう返事をしてしまった。
水野さんはちょっと楽しんでいる様で、探偵にでもなった気分なんだろうか。



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