✖✖✖Sケープゴート ☆奨励賞

itti(イッチ)

文字の大きさ
上 下
21 / 36
第四章

気になる存在

しおりを挟む

 仕事が始まれば自分の時間なんて皆無に等しい。
デジタル社会になっても、結局操作をするのは人間で。AIが全てをこなしてくれる訳じゃない。ただ、今後は淘汰されて残る人材は減っていくのだろうが.....。

 水野さんが寄越した資料のチェックが終わると、もう夜の8時をまわっていた。
僕の他にも3人の社員が事務所には居て、みなパソコンとにらめっこの状態だった。

 漸く帰る準備をすると、「お先に失礼しまーす。」と残った社員に挨拶をして事務所を後にする。

 ビルを出れば、ムアッとした生ぬるい空気が全身にまとわりつく。
この不快感を暫くは忘れていたが、これが東京の熱帯夜だ。シャツの袖を少し捲り上げて、首に滲んだ汗を手の甲で拭いながら駅に向かって歩いて行く。

 大きなビルの電工看板にはニュースが流れて、その下を行き交う人の数はこんな時間になっても減る事はない。雑踏の中、駅に吸い込まれる様に降りて行くと、丁度来た電車に飛び乗った。
吊革を持ち、外の景色を眺めながら自分の住んでいる駅で降りると、いつものようにコンビニで弁当を買う。

 

 シャワーを浴びてから弁当を食べ始めるが、ふと、水野さんに云われた事が頭を過ぎった。
 
 ----『芳名帳』----

 母の部屋に入って押し入れに入れた紙袋を開けてみると、そこには香典帳と別に芳名帳が入っていた。
芳名帳を手にすると、もう一度テーブルに戻って弁当を食べながらそれを開いてみる。

 香典帳と同じ名前が書かれているから、どう違うのか分からなかったが、来てくれた人の名前と住所が書かれている。

「香典帳の住所も一緒だよな。」と咀嚼しながら呟くが、最後の方の名前が目にとまるとページをめくる指に力が入った。

---真壁----

 知った苗字を見ると、その下には『峰子』と書かれた名前。

「真壁 峰子........って、北海道のおじさんと同じ苗字」

 急いで住所の確認をすると、東京と書かれていた。そして、意外にもこのマンションの近くだ。

 僕は考えた。偶然実家の苗字と同じで、たまたま知り合った人なのだろうかと。
それに、年齢までは書かれていないから、この人が年配のご婦人だとは限らない。しかも、母がおじさんに手紙を送ったのは亡くなる少し前だ。もしこの人が親戚ならおじさんにも伝えているだろうに.....。

 箸を置いたまま暫く考えたが、結論は出ないまま。
芳名帳に書かれた名前の人を全て把握している訳ではないし、母の会社関係の人とか、僕の会社関係の人とか。


 寝る前になって、僕は芳名帳を鞄に入れると、明日会社に持っていって水野さんに確認しようと思った。
会社関係者なら、水野さんに訊けば分かるはず。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

処理中です...