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第四章
気になる存在
しおりを挟む仕事が始まれば自分の時間なんて皆無に等しい。
デジタル社会になっても、結局操作をするのは人間で。AIが全てをこなしてくれる訳じゃない。ただ、今後は淘汰されて残る人材は減っていくのだろうが.....。
水野さんが寄越した資料のチェックが終わると、もう夜の8時をまわっていた。
僕の他にも3人の社員が事務所には居て、みなパソコンとにらめっこの状態だった。
漸く帰る準備をすると、「お先に失礼しまーす。」と残った社員に挨拶をして事務所を後にする。
ビルを出れば、ムアッとした生ぬるい空気が全身にまとわりつく。
この不快感を暫くは忘れていたが、これが東京の熱帯夜だ。シャツの袖を少し捲り上げて、首に滲んだ汗を手の甲で拭いながら駅に向かって歩いて行く。
大きなビルの電工看板にはニュースが流れて、その下を行き交う人の数はこんな時間になっても減る事はない。雑踏の中、駅に吸い込まれる様に降りて行くと、丁度来た電車に飛び乗った。
吊革を持ち、外の景色を眺めながら自分の住んでいる駅で降りると、いつものようにコンビニで弁当を買う。
シャワーを浴びてから弁当を食べ始めるが、ふと、水野さんに云われた事が頭を過ぎった。
----『芳名帳』----
母の部屋に入って押し入れに入れた紙袋を開けてみると、そこには香典帳と別に芳名帳が入っていた。
芳名帳を手にすると、もう一度テーブルに戻って弁当を食べながらそれを開いてみる。
香典帳と同じ名前が書かれているから、どう違うのか分からなかったが、来てくれた人の名前と住所が書かれている。
「香典帳の住所も一緒だよな。」と咀嚼しながら呟くが、最後の方の名前が目にとまるとページをめくる指に力が入った。
---真壁----
知った苗字を見ると、その下には『峰子』と書かれた名前。
「真壁 峰子........って、北海道のおじさんと同じ苗字」
急いで住所の確認をすると、東京と書かれていた。そして、意外にもこのマンションの近くだ。
僕は考えた。偶然実家の苗字と同じで、たまたま知り合った人なのだろうかと。
それに、年齢までは書かれていないから、この人が年配のご婦人だとは限らない。しかも、母がおじさんに手紙を送ったのは亡くなる少し前だ。もしこの人が親戚ならおじさんにも伝えているだろうに.....。
箸を置いたまま暫く考えたが、結論は出ないまま。
芳名帳に書かれた名前の人を全て把握している訳ではないし、母の会社関係の人とか、僕の会社関係の人とか。
寝る前になって、僕は芳名帳を鞄に入れると、明日会社に持っていって水野さんに確認しようと思った。
会社関係者なら、水野さんに訊けば分かるはず。
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