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第四章
紐解かれた日記
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久しぶりの東京は、相変わらずジトジトした熱帯夜が続き、空港からの帰り道で着ていた服はたっぷりの汗を吸い込んだ様に重くなる。
電車からはじき出されると、自宅のマンションへと向かうが、途中で食べるものを何点か買い込んだ。
何処かに寄って食べるにも、荷物が邪魔だし一刻も早く家に着きたいと思っていた。
懐かしい部屋の扉を開けて中へと入る。
一瞬、空気が淀んでいる気がして、すぐに部屋にあがると全部の窓を開け放った。
でも、入って来る風はやはり湿気を含んだ生暖かいもので。途端に北海道の空気が吸いたいと思ってしまう。
暫くしてからエアコンのスイッチを入れて、取り敢えずは腹ごしらえをしようと、食べ慣れたコンビニの弁当を開けて、ひとりでいただきますと唱えれば箸を進めた。
今朝食べたおばさんの料理が、もう懐かしくて。すっかり手料理にはまってしまった僕には、この弁当は淋しく思える。でも、今日は仕方がないと諦めて、口いっぱいに頬張りながら食べた。
僕はマンションに着いた事を報告しようと、おじさんの家に電話を入れる。
まだ迷惑にならない時間帯。それでも少し緊張しながら待つと、「はい、真壁です」というおばさんの優しい声が聞こえる。
「あ、祐二です。マンションに帰ってきましたので。色々とお世話になりました。」とお礼を云えば、「無事に着いて良かったわぁ。ちょっと待ってね、主人に変わるから。」と暫く待つ事に。
「......ああ、祐二くん、無事に着いて良かった。電車とか混んでいるだろうから、もっと遅くなるかと思ってたけど。」
おじさんはそう云いながら少し心配そうな声になる。
「大丈夫でしたよ。.....そちらでは本当に良くして頂いて。おばさんの料理がもう懐かしく思えます。美乃利さんにもお世話になって、本当にありがとうございました。」
「いいんだよ、またいつでもこっちに来たらいい。真冬はちょっと厳しいかもしれんが、まあ、いつでも時間があれば来なさい。みんな待っているから。」
そう云われると、鼻の奥がツンとなって自然に涙が込み上がってくる。
「ありがとうございます。又絶対に伺います。......じゃあ、皆さんによろしくお伝えください。」
「うん、祐二くんも仕事頑張って。身体に気をつけてね。じゃあ、」
「はい、では失礼します。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
電話を切るのが惜しいくらい、僕はいつまでも耳に当てたスマホを閉じれなかった。
気を取り直して、荷物を解くと洗濯物をカゴに突っ込んだ。それから母の部屋に向かう。
まだ写真を決めかねていて、空の写真立てが箪笥の上に乗ったまま。
部屋の中をくるりと見渡して、小さなテーブルの上に置いたままの日記帳に目がいった。
___ この日記、どうしようかな ___
手に取ってみると、カギの掛かった帯の所にほころびがあって、年季がたっているからなのか、切れ込みが入ってしまい確かめようと引っ張ったらブチッと切れてしまった。
「あっ、.....」
大切な物を壊してしまった気がして、僕は少し動揺した。
日記帳をそっと戻すと、その晩はそのまま風呂に入りベッドに横たわると同時に眠りについた。
疲れていたんだろう、翌朝目覚めたのは昼近くなってから。
エアコンを消すと、窓を開けて空気の入れ替えをする。
むわっとした空気が入ってきて、すぐに窓を閉めると顔を洗いに洗面所に行った。
洗面台の鏡に映る自分の顔を見ると、北海道での出来事を思い出す。
頭を過ぎるのは、母が書いたあの原稿用紙の内容。宇賀地くんという人の事も分かった。
でも、お地蔵さまを祀る意味は分からないまま。母も分からないまま、只願い事をしていたようだ。
ザブンと水をかけてサッパリすると、頭も濡らしてタオルで拭きながらキッチンに行った。
インスタントのコーヒーを入れて、カップを持ったまま母の部屋に入ると、テーブルの上に置いた日記帳に目がいった。帯は切れてしまい、日記帳を開くことが出来る。が、すぐに手を伸ばす気にはなれなかった。
何が書かれているのだろう。あの原稿用紙の続きの様な気もするし、そうでない気もする。
コーヒーを口に運びながら、僕は立ったままその日記帳を眺めた。
電車からはじき出されると、自宅のマンションへと向かうが、途中で食べるものを何点か買い込んだ。
何処かに寄って食べるにも、荷物が邪魔だし一刻も早く家に着きたいと思っていた。
懐かしい部屋の扉を開けて中へと入る。
一瞬、空気が淀んでいる気がして、すぐに部屋にあがると全部の窓を開け放った。
でも、入って来る風はやはり湿気を含んだ生暖かいもので。途端に北海道の空気が吸いたいと思ってしまう。
暫くしてからエアコンのスイッチを入れて、取り敢えずは腹ごしらえをしようと、食べ慣れたコンビニの弁当を開けて、ひとりでいただきますと唱えれば箸を進めた。
今朝食べたおばさんの料理が、もう懐かしくて。すっかり手料理にはまってしまった僕には、この弁当は淋しく思える。でも、今日は仕方がないと諦めて、口いっぱいに頬張りながら食べた。
僕はマンションに着いた事を報告しようと、おじさんの家に電話を入れる。
まだ迷惑にならない時間帯。それでも少し緊張しながら待つと、「はい、真壁です」というおばさんの優しい声が聞こえる。
「あ、祐二です。マンションに帰ってきましたので。色々とお世話になりました。」とお礼を云えば、「無事に着いて良かったわぁ。ちょっと待ってね、主人に変わるから。」と暫く待つ事に。
「......ああ、祐二くん、無事に着いて良かった。電車とか混んでいるだろうから、もっと遅くなるかと思ってたけど。」
おじさんはそう云いながら少し心配そうな声になる。
「大丈夫でしたよ。.....そちらでは本当に良くして頂いて。おばさんの料理がもう懐かしく思えます。美乃利さんにもお世話になって、本当にありがとうございました。」
「いいんだよ、またいつでもこっちに来たらいい。真冬はちょっと厳しいかもしれんが、まあ、いつでも時間があれば来なさい。みんな待っているから。」
そう云われると、鼻の奥がツンとなって自然に涙が込み上がってくる。
「ありがとうございます。又絶対に伺います。......じゃあ、皆さんによろしくお伝えください。」
「うん、祐二くんも仕事頑張って。身体に気をつけてね。じゃあ、」
「はい、では失礼します。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
電話を切るのが惜しいくらい、僕はいつまでも耳に当てたスマホを閉じれなかった。
気を取り直して、荷物を解くと洗濯物をカゴに突っ込んだ。それから母の部屋に向かう。
まだ写真を決めかねていて、空の写真立てが箪笥の上に乗ったまま。
部屋の中をくるりと見渡して、小さなテーブルの上に置いたままの日記帳に目がいった。
___ この日記、どうしようかな ___
手に取ってみると、カギの掛かった帯の所にほころびがあって、年季がたっているからなのか、切れ込みが入ってしまい確かめようと引っ張ったらブチッと切れてしまった。
「あっ、.....」
大切な物を壊してしまった気がして、僕は少し動揺した。
日記帳をそっと戻すと、その晩はそのまま風呂に入りベッドに横たわると同時に眠りについた。
疲れていたんだろう、翌朝目覚めたのは昼近くなってから。
エアコンを消すと、窓を開けて空気の入れ替えをする。
むわっとした空気が入ってきて、すぐに窓を閉めると顔を洗いに洗面所に行った。
洗面台の鏡に映る自分の顔を見ると、北海道での出来事を思い出す。
頭を過ぎるのは、母が書いたあの原稿用紙の内容。宇賀地くんという人の事も分かった。
でも、お地蔵さまを祀る意味は分からないまま。母も分からないまま、只願い事をしていたようだ。
ザブンと水をかけてサッパリすると、頭も濡らしてタオルで拭きながらキッチンに行った。
インスタントのコーヒーを入れて、カップを持ったまま母の部屋に入ると、テーブルの上に置いた日記帳に目がいった。帯は切れてしまい、日記帳を開くことが出来る。が、すぐに手を伸ばす気にはなれなかった。
何が書かれているのだろう。あの原稿用紙の続きの様な気もするし、そうでない気もする。
コーヒーを口に運びながら、僕は立ったままその日記帳を眺めた。
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