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第三章

観光

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 美乃利さんの話を聞いて、僕の背中に汗の様なものが滴ると身震いする。

「溺れたのはどうして?」と訊ねる僕に美乃利さんは「友人たち数人と釣りをしてたらしいけど。その人の竿に何かが掛かって、勢いで引っ張られて落ちたみたい。他の人は何もなくて.......」と肩を竦める仕草をする。


 これも偶然なのか?
そのカレだけが溺れるって.......。


「まあ、昔はもっと流れも早くて、橋を架ける工事も出来ない程だったって。それこそ何百年も前は祈祷やらなにやらやって川の神様を鎮めたって話。」

 美乃利さんはそう云うとリビングから出て行ってしまった。

 あそこに神社があるのはそういった経緯もあるのかと、自分なりに納得するが、一度抱いた気持ちは簡単には消えてくれなかった。

 それから暫くして、母の原稿用紙に書かれていた内容は僕と美乃利さんの頭の中だけに留める事となった。
もしも、おじさんの病気の回復が宇賀地さんという人の事故と関係があるとしたら。それを気にしない筈もなく、この事は美乃利さんも父親には話せないといった。

 
 特に観光もしないまま、休みの日も後少し。
このまま東京に戻ってしまうのも残念だと、美乃利さんが学友のひとりを連れて旭山動物園に誘ってくれた。


 美乃利さんの運転で動物園迄行くと、友人の佐伯さんという女性が待っていた。
此処に着く迄の間、僕はずっと緊張しっぱなしで、自分の運転も酷いものだが美乃利さんほどではないと思うと、無事に待ち合わせ場所に着いた事を喜ぶ。

「久しぶりー」といって二人が笑い合う横で、僕は緊張から解放された間抜け面を晒している。

「従兄さんですね?はじめまして、佐伯 凛華サエキ リンカといいます。

 彼女は微笑むと、僕の顔を見てちょっと嬉しそうだった。

「ああ、はじめまして。奥村です。」と、僕も一応笑みを作って答える。

「イケメンでしょ?私の従兄って。」

 そう云って凛華さんに自慢げにいう美乃利さんだったが、僕の何処が?と思ってしまう。

うんうん、と頷いている凛華さんは、少しだけ照れるように僕を見た。


「ここって結構有名ですよね。テレビとかでは観た事あるけど、実際はもっと凄いなー」

 僕はちょっと興奮気味にそう云うと、施設の園内マップを見る。

「東京だと上野動物園とか?あそこも有名じゃない。」

 美乃利さんがそう云うが、僕は子供の頃に遠足で行ったきり。

「あー、そうなんだけど、一度しか行ったことがない。」

「えー、そうなんですか?」と、美乃利さんと凛華さんが声を揃える。 

 母は忙しくて、二人でどこかに遊びに行く事は少なかった。
せいぜいデパートへ買い物に行くぐらい。レストランで食べるオムライスが美味しかったのを未だに覚えている。それが唯一の贅沢だったと思う。

「色々見たいけど、一日では無理かも。先に見たいところを決めて周りましょうよ。」

「そうだね」と云って、僕はマップを真剣に見つめた。


 
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