17 / 36
第三章
観光
しおりを挟む美乃利さんの話を聞いて、僕の背中に汗の様なものが滴ると身震いする。
「溺れたのはどうして?」と訊ねる僕に美乃利さんは「友人たち数人と釣りをしてたらしいけど。その人の竿に何かが掛かって、勢いで引っ張られて落ちたみたい。他の人は何もなくて.......」と肩を竦める仕草をする。
これも偶然なのか?
そのカレだけが溺れるって.......。
「まあ、昔はもっと流れも早くて、橋を架ける工事も出来ない程だったって。それこそ何百年も前は祈祷やらなにやらやって川の神様を鎮めたって話。」
美乃利さんはそう云うとリビングから出て行ってしまった。
あそこに神社があるのはそういった経緯もあるのかと、自分なりに納得するが、一度抱いた気持ちは簡単には消えてくれなかった。
それから暫くして、母の原稿用紙に書かれていた内容は僕と美乃利さんの頭の中だけに留める事となった。
もしも、おじさんの病気の回復が宇賀地さんという人の事故と関係があるとしたら。それを気にしない筈もなく、この事は美乃利さんも父親には話せないといった。
特に観光もしないまま、休みの日も後少し。
このまま東京に戻ってしまうのも残念だと、美乃利さんが学友のひとりを連れて旭山動物園に誘ってくれた。
美乃利さんの運転で動物園迄行くと、友人の佐伯さんという女性が待っていた。
此処に着く迄の間、僕はずっと緊張しっぱなしで、自分の運転も酷いものだが美乃利さんほどではないと思うと、無事に待ち合わせ場所に着いた事を喜ぶ。
「久しぶりー」といって二人が笑い合う横で、僕は緊張から解放された間抜け面を晒している。
「従兄さんですね?はじめまして、佐伯 凛華といいます。
彼女は微笑むと、僕の顔を見てちょっと嬉しそうだった。
「ああ、はじめまして。奥村です。」と、僕も一応笑みを作って答える。
「イケメンでしょ?私の従兄って。」
そう云って凛華さんに自慢げにいう美乃利さんだったが、僕の何処が?と思ってしまう。
うんうん、と頷いている凛華さんは、少しだけ照れるように僕を見た。
「ここって結構有名ですよね。テレビとかでは観た事あるけど、実際はもっと凄いなー」
僕はちょっと興奮気味にそう云うと、施設の園内マップを見る。
「東京だと上野動物園とか?あそこも有名じゃない。」
美乃利さんがそう云うが、僕は子供の頃に遠足で行ったきり。
「あー、そうなんだけど、一度しか行ったことがない。」
「えー、そうなんですか?」と、美乃利さんと凛華さんが声を揃える。
母は忙しくて、二人でどこかに遊びに行く事は少なかった。
せいぜいデパートへ買い物に行くぐらい。レストランで食べるオムライスが美味しかったのを未だに覚えている。それが唯一の贅沢だったと思う。
「色々見たいけど、一日では無理かも。先に見たいところを決めて周りましょうよ。」
「そうだね」と云って、僕はマップを真剣に見つめた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
伏線回収の夏
影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。大学時代のクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。屋敷で不審な事件が頻発しているのだという。かつての同級生の事故死。密室から消えた犯人。アトリエにナイフで刻まれた無数のX。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の6人は大学時代、この屋敷でともに芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。6人の中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。
《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》
支配するなにか
結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣
麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。
アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。
不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり
麻衣の家に尋ねるが・・・
麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。
突然、別の人格が支配しようとしてくる。
病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、
凶悪な男のみ。
西野:元国民的アイドルグループのメンバー。
麻衣とは、プライベートでも親しい仲。
麻衣の別人格をたまたま目撃する
村尾宏太:麻衣のマネージャー
麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに
殺されてしまう。
治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった
西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。
犯人は、麻衣という所まで突き止めるが
確定的なものに出会わなく、頭を抱えて
いる。
カイ :麻衣の中にいる別人格の人
性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。
堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。
麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・
※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。
どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。
物語の登場人物のイメージ的なのは
麻衣=白石麻衣さん
西野=西野七瀬さん
村尾宏太=石黒英雄さん
西田〇〇=安田顕さん
管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人)
名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。
M=モノローグ (心の声など)
N=ナレーション

カフェ・シュガーパインの事件簿
山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。
個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。
だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

君たちの騙し方
サクラメント
ミステリー
人を騙すことが趣味でサイコパスの小鳥遊(たかなし)。小鳥遊は女子中学生の保土ヶ谷に、部屋に住ませて貰っているが、突然保土ヶ谷がデスゲームに巻き込まれてしまう。小鳥遊は助け出そうとするが・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる