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第三章
偶然なのか・・・
しおりを挟む美乃利さんが広げる用紙には何が書かれていたんだろう。
緊張したように眉根を寄せて僕を見ると、そっと目の前に差し出した。
それを手に取って読んでいく。
そこに書かれていたのは、同じ頃母さんの弟、つまりここのおじさんが病気で生死を彷徨ったとなっていた。
母は、両親に内緒でお地蔵さまにお願いをしていたそうだ。
この頃、母の両親はお地蔵さまにお参りをするのを禁止していたみたい。多分、近所のペットが死んでいった辺りから変に思っていたのかも。それに、母のお参りの頻度が目に余るものだったんだろう。
心配になったのかもしれない。
「お父さん、そういえば小学生の時に肺炎にかかって死にかけたって云ってた。それと宇賀地さんの死は関係しているんでしょうか?」
「............そんな事って、...........」
無いと云いたかったが、ここまで時期的に一致していると、偶然とは言い難い。
それに、今まで読んだ内容は、既にこの先の出来事も想像させてしまいそうだった。
「なんだか恐くなってきちゃった。私の時はいじめの話が一致したぐらいだけど、おばさんは.............」
美乃利さんも言葉に出来ない何かを感じ取っているのかもしれない。
僕は、このまま読み進めるのが怖くなってしまった。でも、ここまで来たら母の残したものを全て見ておきたいとも思う。
「僕は最後まで読もうと思うんだけど、美乃利さんは気が進まなければ見なくてもいいよ。元々僕が教えたからキミは興味を持っただけだし。」
そう云って用紙を手に取ると握りしめる。
彼女に怖い思いをさせる必要はない。これは僕と母の問題だし。
「........私、あのお地蔵さまの事が気になっていたし、今は此処を離れて暮らしているけど、いずれ戻ってくるかもしれないから。だからおばさんの云いたかった事を最後まで読んでみようと思います。」
「...........なら、一緒に読もうか。あともう少しだから。」
「はい。」
僕たちは、母の書いた原稿用紙の文字をじっと見つめると、固唾を飲んで読みふけった。
やがて、最後の一枚になると、そこに書かれていたのは『怖い』という母の言葉の羅列。
一枚の紙にびっしりと『怖い』と書かれていて、母も得体の知れないものに怯えていたんだと思った。
「結局、宇賀地さんの死がおじさんと関係あるのかは分からないけど、母がお地蔵さまに願った事は叶えられている。おじさんは肺炎を克服して元気になったって事だ。願いを叶えてくれるお地蔵さまなのかもしれない。」
僕はそう云うと、原稿用紙を赤い箱の中に戻した。
それから美乃利さんの方に向くと、彼女の顔をじっと見つめる。
「これは母の過去だから。キミとは関係ないと思うよ。あまり気にしない方がいい。」
「.....はい、..........そうします。」
美乃利さんはゆっくり立ち上がると僕に一礼をして部屋から出て行った。
残された僕は胸に手を当てると、ザワザワとしたモノが身体中を這っている様な気がして落ち着かない。
なにかが引っかかっているが、それが何なのか言葉に出してはいけない気もするし、取り敢えずあのお地蔵さまを見れて良かったと思った。
ここに来なければ分からなかった母の過去。
僕と二人暮らしで、身近な親戚にも頼らずに生きてきたのはどうしてなのか。それは母にしか分からない。
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