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第三章

迷宮の入口

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 僕と美乃利さんは、食い入るように母の原稿用紙に目を通すと、互いに顔を合わせて息を呑んだ。

 母の中学時代、先のいじめ問題は無くなったようだが、親しい友人も段々と離れて行ってしまったらしく、孤独な中学生活になったと書かれている。

 部活の手芸部で作品が展示されると、みんなの注目を集めたようだが、それも直ぐに忘れられてまた独りになってしまったと書かれていた。
周りの同級生たちは、母の周りで起こる事の不可解さを感じてしまったのかもしれない。
僕だって、今こうして書いたものを読む限り、不可解でならない。

「なんか、..........怖い。......これって、私の中学時代にリンクしているみたいで....」

 美乃利さんはそう云うと用紙をそっと置いてうな垂れた。
肩の力が抜けてしまったように、だらりとなって辛そうだ。

「たまたま、じゃないかな?.....いじめも怪我も。美乃利さんは友達いるでしょ?」

「ええ、一応。でも、この辺りの子じゃないし、私の家の事も知らない。高校生になってから仲良くなった友人だから。」

「母は中学時代にいい思い出がなかったようだけど、この犬は元気に生きてて、毎日散歩をしたり楽しい事もあったみたい。きっと犬に癒されていたんだろうね。」

「.........そうですね。昔はこの辺に住んでいる人も多かったし、おばさんが変な眼で見られる事もあったかも。お父さんからはそういう話は聞いてないけれど.....。」

 悲しい顔になった美乃利さんは、眉根を下げたまま母が作った赤い箱をそっと撫でた。


「ぁ、そうだ、卒業後。母が高校生になった頃に宇賀地くんという同級生が亡くなっているらしいんだ。その事が書いてある文章はあるかなぁ。」

 僕は残りの数枚を広げると確認してみた。

「コレ、かな?」と、手にとって読んでいくと、高校一年の夏休みに彼は亡くなったらしい。
それを知ったのは、同級生からではなく先生から聞かされたと書いてあり、どうして誰も教えてくれなかったのか、それを悲しむ言葉が書かれていた。

「同じ中学だったみたい、この宇賀地って人。」と、別の用紙を見る美乃利さんが云った。

「え?.....中学の時の?」

「そう、.....ほら、ここに。」

 そう云うと文章を指して僕を見る。

 そこに書かれていたのは、中学の時にいじめる人から庇ってくれたのが宇賀地くんだったと書いてあり、あんなにいい人がどうして。と悲しみを綴っている。母は、カレに好意を寄せていたんだろうか。
読み進めると、犬の散歩中にカレと出会った事が書かれていて、学校ではあまり話さないが散歩中に出会うと話をしてくれると書いてあった。

 母の初恋の人だったんだろうか。そう思ったら、少し悲しいな。
せっかく好きな人が出来たのに、亡くなってしまうだなんて.....。


「..........祐二さん、........コレ、.........変ですよ」

 哀愁に浸っている僕を無視するように、美乃利さんは原稿用紙を握りしめると僕の顔をじっと見つめた。

  
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