11 / 36
第三章
迷宮の入口
しおりを挟む僕と美乃利さんは、食い入るように母の原稿用紙に目を通すと、互いに顔を合わせて息を呑んだ。
母の中学時代、先のいじめ問題は無くなったようだが、親しい友人も段々と離れて行ってしまったらしく、孤独な中学生活になったと書かれている。
部活の手芸部で作品が展示されると、みんなの注目を集めたようだが、それも直ぐに忘れられてまた独りになってしまったと書かれていた。
周りの同級生たちは、母の周りで起こる事の不可解さを感じてしまったのかもしれない。
僕だって、今こうして書いたものを読む限り、不可解でならない。
「なんか、..........怖い。......これって、私の中学時代にリンクしているみたいで....」
美乃利さんはそう云うと用紙をそっと置いてうな垂れた。
肩の力が抜けてしまったように、だらりとなって辛そうだ。
「たまたま、じゃないかな?.....いじめも怪我も。美乃利さんは友達いるでしょ?」
「ええ、一応。でも、この辺りの子じゃないし、私の家の事も知らない。高校生になってから仲良くなった友人だから。」
「母は中学時代にいい思い出がなかったようだけど、この犬は元気に生きてて、毎日散歩をしたり楽しい事もあったみたい。きっと犬に癒されていたんだろうね。」
「.........そうですね。昔はこの辺に住んでいる人も多かったし、おばさんが変な眼で見られる事もあったかも。お父さんからはそういう話は聞いてないけれど.....。」
悲しい顔になった美乃利さんは、眉根を下げたまま母が作った赤い箱をそっと撫でた。
「ぁ、そうだ、卒業後。母が高校生になった頃に宇賀地くんという同級生が亡くなっているらしいんだ。その事が書いてある文章はあるかなぁ。」
僕は残りの数枚を広げると確認してみた。
「コレ、かな?」と、手にとって読んでいくと、高校一年の夏休みに彼は亡くなったらしい。
それを知ったのは、同級生からではなく先生から聞かされたと書いてあり、どうして誰も教えてくれなかったのか、それを悲しむ言葉が書かれていた。
「同じ中学だったみたい、この宇賀地って人。」と、別の用紙を見る美乃利さんが云った。
「え?.....中学の時の?」
「そう、.....ほら、ここに。」
そう云うと文章を指して僕を見る。
そこに書かれていたのは、中学の時にいじめる人から庇ってくれたのが宇賀地くんだったと書いてあり、あんなにいい人がどうして。と悲しみを綴っている。母は、カレに好意を寄せていたんだろうか。
読み進めると、犬の散歩中にカレと出会った事が書かれていて、学校ではあまり話さないが散歩中に出会うと話をしてくれると書いてあった。
母の初恋の人だったんだろうか。そう思ったら、少し悲しいな。
せっかく好きな人が出来たのに、亡くなってしまうだなんて.....。
「..........祐二さん、........コレ、.........変ですよ」
哀愁に浸っている僕を無視するように、美乃利さんは原稿用紙を握りしめると僕の顔をじっと見つめた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
RoomNunmber「000」
誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。
そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて……
丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。
二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか?
※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。
※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。
意識転移鏡像 ~ 歪む時間、崩壊する自我 ~
葉羽
ミステリー
「時間」を操り、人間の「意識」を弄ぶ、前代未聞の猟奇事件が発生。古びた洋館を改造した私設研究所で、昏睡状態の患者たちが次々と不審死を遂げる。死因は病死や事故死とされたが、その裏には恐るべき実験が隠されていた。被害者たちは、鏡像体と呼ばれる自身の複製へと意識を転移させられ、時間逆行による老化と若返りを繰り返していたのだ。歪む時間軸、変質する記憶、そして崩壊していく自我。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、この難解な謎に挑む。しかし、彼らの前に立ちはだかるのは、想像を絶する恐怖と真実への迷宮だった。果たして葉羽は、禁断の実験の真相を暴き、被害者たちの魂を救うことができるのか?そして、事件の背後に潜む驚愕のどんでん返しとは?究極の本格推理ミステリーが今、幕を開ける。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
梟(ふくろう)
つっちーfrom千葉
ミステリー
ヒッチコック監督の『サイコ』という映画を下敷きにして、この文章を書いてみました。社会に馴染めない根暗で気の弱い男が、ほとんど自意識の無いままに同僚の女性を殺害するまでの、数日間の生活の記録です。殺害をほのめかす供述はありますが、殺害シーンと残酷描写はありません。
この作品のような動機のみがはっきりしない殺人事件のケースにおいても、警察側は状況証拠の積み重ねにより有罪に持ち込むと思われます。しかし、弁護側に冤罪の可能性を追及される余地を多分に残すことにはなると思われます。
陰謀のブルースカイ
住原かなえ
ミステリー
テレビ局・ブルースカイの社員西角薫。
本部の要望でスカイダイビングをすることになり、飛び降りることに。
しかし、パラシュートが何故か外れたのだ!
真っ逆さまに地上に落ちる薫の運命は?
そして明かされる島の驚愕の真実とは!?
息継ぎ禁止!ノンストップ陰謀ミステリが今、幕を開ける!
【毎日20時更新】アンメリー・オデッセイ
ユーレカ書房
ミステリー
からくり職人のドルトン氏が、何者かに殺害された。ドルトン氏の弟子のエドワードは、親方が生前大切にしていた本棚からとある本を見つける。表紙を宝石で飾り立てて中は手書きという、なにやらいわくありげなその本には、著名な作家アンソニー・ティリパットがドルトン氏とエドワードの父に宛てた中書きが記されていた。
【時と歯車の誠実な友、ウィリアム・ドルトンとアルフレッド・コーディに。 A・T】
なぜこんな本が店に置いてあったのか? 不思議に思うエドワードだったが、彼はすでにおかしな本とふたつの時計台を巡る危険な陰謀と冒険に巻き込まれていた……。
【登場人物】
エドワード・コーディ・・・・からくり職人見習い。十五歳。両親はすでに亡く、親方のドルトン氏とともに暮らしていた。ドルトン氏の死と不思議な本との関わりを探るうちに、とある陰謀の渦中に巻き込まれて町を出ることに。
ドルトン氏・・・・・・・・・エドワードの親方。優れた職人だったが、職人組合の会合に出かけた帰りに何者かによって射殺されてしまう。
マードック船長・・・・・・・商船〈アンメリー号〉の船長。町から逃げ出したエドワードを船にかくまい、船員として雇う。
アーシア・リンドローブ・・・マードック船長の親戚の少女。古書店を開くという夢を持っており、謎の本を持て余していたエドワードを助ける。
アンソニー・ティリパット・・著名な作家。エドワードが見つけた『セオとブラン・ダムのおはなし』の作者。実は、地方領主を務めてきたレイクフィールド家の元当主。故人。
クレイハー氏・・・・・・・・ティリパット氏の甥。とある目的のため、『セオとブラン・ダムのおはなし』を探している。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる