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第二章

気になる原稿用紙の中身

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 その晩はおばさんの手料理でもてなされ、最近では食べる機会のない新鮮な魚介類を堪能した。

「僕、ホッキ貝を初めて食べました。すごくおいしいですねー。」

 バター焼きにしたホッキ貝を噛みしめながらおじさんたちに云うと、「もう少し前ならもっと新鮮なウニとかもあったんだけどねー。」と残念そうな顔をした。

「ウニなんて東京では回転寿司でしか食べません。まあ、お金があれば美味しいウニも食べられるんでしょうけど。」

 元々あまり魚を食べなかった僕は、此処に来て本当のおいしさを味わえた気がする。

「こっちにいる間はしっかり食べていってね。おばさんの手料理で申し訳ないけど。」

 そんな風に謙遜され「僕は嬉しいです。こんな風にもてなして貰えて、初めて会った甥の僕なんかに....。」と云うと胸が詰まった。
味わった事のない母の親族の温もりを感じる事が出来て、本当に嬉しかった。
あの手紙がおじさんに届いていなければ、こんな機会はなかっただろう。そう思うと、最後に母のくれた愛情に感謝しかなかった。


「いつでも来たらいいんだから。これからは祐二くんの家族が此処にもいるって思ってくれたら。」

 おじさんはそう云うと僕の顔を優し気に見てくれた。


「そうだ、明日娘の美乃利が帰って来るらしいから、この辺を案内してもらったらいい。大学はまだ休みなんだって云ってたから。」

「そういえば二十歳って云ってましたね。大学は何処ですか?」

「旭川にいってるんだけど、ひとり暮らしをしていてバイトがない時に帰って来るのよ。先週も何日かは居たわね。」

 おばさんの表情は呆れているようでもあったが、でも帰って来てくれるのを喜んでいるようでもあった。

「僕は東京だったのでひとり暮らしはした事が無いけど、でも、偉いですよ。自炊とかもしなきゃいけないし。」

「あらぁ、自炊っていってもレトルトカレーを温める程度よ。バイトでご飯が出るって喜んでたもの。」

 それを訊くと、僕は何故かホッとした。何でもこなせる女の子もいいけれど、出来ない事もある子の方が気を使わなくて済む。明日出会う事が少しだけ楽しみになった。

 楽しく食事を終えると、その晩はお風呂を頂いて直ぐに休む事にした。



* * * 

 翌日、おじさんは仕事に出かけて行き、僕は従姉の美乃利さんが来るまでの間部屋で母の書いた自分史の続きを読み始める。

 文章の感じからして、多分小学5年生ぐらいに書き始めたものだろうと思った。
幼少期を親から聞いた話で綴り、小学5年生ぐらいからは自分の記憶で鮮明に覚えている事を書いている。
なかなか文章力には長けていると思う。母らしい楽しい内容が多かったのは、僕が読んでも微笑ましかった。

 読み進めていくうちに、小学5年生から飼い始めた犬の話が頻繁に出てくる様になった。
病気になってしまったらしく、母は毎日薬を与えたり抱っこして散歩に出かけたりした様だ。
そして、あの”お地蔵さま”にも毎日供物をあげてお祈りをしたと書かれていた。

 ここで初めてお地蔵さまが出てきた。

 昔から敷地にあったと、おじさんは云っていたが、小学5年生の前にはお地蔵さまに関わる話は書かれていない。ペットの病気から、急にお地蔵さまにお願いをするという事になったんだろう。

 気になって続きを読もうとしたら、おばさんからドア越しに娘の美乃利が帰って来たと云われ、僕は原稿用紙を赤い箱に戻すと部屋を出た。



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