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第二章

母の匂い

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 おじさんに案内されて、今晩泊めて貰う部屋に向かう。

 東京の建物とは違い、積雪を考えて造られた家は太い柱が目立った。
おじさんが云うには、昔の家を改装してこの形になったというが、祖父母や母が使っていた部屋は残したままらしい。母との連絡が途絶えた事で、勝手に失くしてしまうのは悪いと思ったようだ。


「やっぱり広いですよ。何部屋あるんですか?」

 おじさんの後ろについて廊下を歩きながら訊くと、「10部屋くらいかなー。使っていない部屋も入れると。」と、云われた。
これを普通と云っていいのだろうか、と思ったが僕の普通が狭すぎるのかもしれないと思い言葉に詰まる。


 長い廊下を突き当り、右に曲がったところが母の昔使っていた部屋で。
その部屋の前に来ると扉に掛かった手作りのプレートがそのまま残されていた。

「この部屋を使うといいよ。姉さんの物もあるけど掃除はちゃんとしておいたから。」

「あ、はい。ありがとうございます。......」

 おじさんが戻ったあとで一人部屋の中を見廻すと、高校生まで過ごした母の生活が此処には感じられて。
流石に教科書やノートなんかは無かったが、机に貼られた当時のアイドルの写真が母の少女時代を思い起こさせる。

------ 普通の女子高生だよな

 そう思いながら自分の荷物を出そうと床に広げてみる。
ベッドも昔のままらしいが、シーツや布団は真新しい物を用意してくれたみたい。

 洋服をクローゼットに仕舞おうとして、ふと天板の上を見た僕の目に一つの赤い箱が映った。

------- なんだろう。母の宝箱かなんかかな。おじさんたちは知っているんだろうか?

 人のものを開けるのは悪い気がするが、自分の母の物だし亡くなっているので了承も取れない。
取り敢えず開くかどうかを見てみようと、背伸びをすると箱を手に取った。

 B5サイズくらいの箱は、赤い布が貼られていて手作りっぽかった。
入口のドアに掛けられたプレートの手作り感といい、母は案外器用な人だったのだと知る。

 簡単に蓋は開けられて、中を見てみると原稿用紙の束があった。
小説でも書いていたのか?と思い数枚を手にとって読んでみたが、これはどうやら母が書いた自分史の様なもので、生まれた日付から高校3年生の卒業後までの記録がされていた。

------- おじさんも読んだのかなぁ

 家に残された日記といい、母は案外マメな人の様だ。
僕なんて小学生の時に書いた日記が最後だし、コツコツと書き記すなんて面倒で出来ない。

 数枚読んでいくと、多分小さい頃の事は親に訊いた事がそのまま書かれている様で、それについての感想めいた文章がほとんど。ただ、その中に出てくる『お地蔵さま』という文字が気になった。

------- お地蔵さまって、ここのだよな。

 この家の敷地にあるというお地蔵さまをまだ見ていないが、母の文章に何度も出てくるから気になる。 
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