6 / 36
第二章
母の匂い
しおりを挟むおじさんに案内されて、今晩泊めて貰う部屋に向かう。
東京の建物とは違い、積雪を考えて造られた家は太い柱が目立った。
おじさんが云うには、昔の家を改装してこの形になったというが、祖父母や母が使っていた部屋は残したままらしい。母との連絡が途絶えた事で、勝手に失くしてしまうのは悪いと思ったようだ。
「やっぱり広いですよ。何部屋あるんですか?」
おじさんの後ろについて廊下を歩きながら訊くと、「10部屋くらいかなー。使っていない部屋も入れると。」と、云われた。
これを普通と云っていいのだろうか、と思ったが僕の普通が狭すぎるのかもしれないと思い言葉に詰まる。
長い廊下を突き当り、右に曲がったところが母の昔使っていた部屋で。
その部屋の前に来ると扉に掛かった手作りのプレートがそのまま残されていた。
「この部屋を使うといいよ。姉さんの物もあるけど掃除はちゃんとしておいたから。」
「あ、はい。ありがとうございます。......」
おじさんが戻ったあとで一人部屋の中を見廻すと、高校生まで過ごした母の生活が此処には感じられて。
流石に教科書やノートなんかは無かったが、机に貼られた当時のアイドルの写真が母の少女時代を思い起こさせる。
------ 普通の女子高生だよな
そう思いながら自分の荷物を出そうと床に広げてみる。
ベッドも昔のままらしいが、シーツや布団は真新しい物を用意してくれたみたい。
洋服をクローゼットに仕舞おうとして、ふと天板の上を見た僕の目に一つの赤い箱が映った。
------- なんだろう。母の宝箱かなんかかな。おじさんたちは知っているんだろうか?
人のものを開けるのは悪い気がするが、自分の母の物だし亡くなっているので了承も取れない。
取り敢えず開くかどうかを見てみようと、背伸びをすると箱を手に取った。
B5サイズくらいの箱は、赤い布が貼られていて手作りっぽかった。
入口のドアに掛けられたプレートの手作り感といい、母は案外器用な人だったのだと知る。
簡単に蓋は開けられて、中を見てみると原稿用紙の束があった。
小説でも書いていたのか?と思い数枚を手にとって読んでみたが、これはどうやら母が書いた自分史の様なもので、生まれた日付から高校3年生の卒業後までの記録がされていた。
------- おじさんも読んだのかなぁ
家に残された日記といい、母は案外マメな人の様だ。
僕なんて小学生の時に書いた日記が最後だし、コツコツと書き記すなんて面倒で出来ない。
数枚読んでいくと、多分小さい頃の事は親に訊いた事がそのまま書かれている様で、それについての感想めいた文章がほとんど。ただ、その中に出てくる『お地蔵さま』という文字が気になった。
------- お地蔵さまって、ここのだよな。
この家の敷地にあるというお地蔵さまをまだ見ていないが、母の文章に何度も出てくるから気になる。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
四次元残響の檻(おり)
葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
初恋
三谷朱花
ミステリー
間島蒼佑は、結婚を前に引っ越しの荷物をまとめていた時、一冊の本を見付ける。それは本棚の奥深くに隠していた初恋の相手から送られてきた本だった。
彼女はそれから間もなく亡くなった。
親友の巧の言葉をきっかけに、蒼佑はその死の真実に近づいていく。
※なろうとラストが違います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~
しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。
彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。
果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。
ピエロの嘲笑が消えない
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。
【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック
暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。
鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。
小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる