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第一章

手紙

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 ----- 今日はいい天気だよ、母さん ------

 
 小高い丘に建つ、所どころ蔦の絡んだ外壁に囲まれた火葬場。そこに、僕、奥村 祐二おくむら ゆうじは、真新しい黒の礼服に身を包むと立っていた。高い煙突から立ち昇る白っぽい煙に向かって呟くが、風に吹き消されて煙が見えなくなると、ゆっくり地面に視線をやる。コンクリートの割れ目から覗く雑草を踏まない様に歩くと、後ろから声が掛かった。

 
「姉さんは心残りだったろうねぇ。祐二くんはまだこんなに若くて、これからお嫁さんや孫の顔も見れただろうに。」

 隣に来て僕の顔を見ると、複雑な表情で云ったのは遠くに住んでいた母の弟の真壁 亮まかべ りょうさん。先日亡くなった僕の母は北海道の出身で、おじさんは母の見舞いに東京にやって来た。
ただ、真壁さんが母を訪ねて来たその日に、母は病院で息を引き取ったのだった。

「祐二さんは何歳になられました?」

 そう訊かれ、「27歳です。」と答える。

「姉さんと連絡がつかなくなったのもその位の歳だったか。確か父と母が亡くなった後でした。」

 母には親戚などいないと思っていた。物心がついた時には、僕は母と二人暮らしで、祖父母も亡くなってしまったと聞かされていたから。まさか弟がいただなんて.....。

「どうして真壁さんの事を僕に隠していたんでしょう。実の弟なのに.....」

「それは、......自分にも分かりません。ただ、手紙をもらったので。」

「手紙?....いつですか?」

「ひと月ほど前ですよ。それ迄どこに住んでいるのかさえ知らずにいたんですが、手紙に書かれた住所が分かって会いに来てみたら......」

「亡くなった日でしたね。」

「そう、.....あと一日でも早く来れたら話が出来たかもしれないのに。残念です。」

 真壁のおじさんはそう云うとうな垂れた。

 参列客に挨拶を済ませると、僕は自宅に戻ろうとしたが、真壁のおじさんが家に来たいというので招待する事にした。色々な事があって、部屋の片付けもしないまま放置していたから、先ずは足元のゴミを袋に詰め込む所からになったが、おじさんは快く手伝ってくれた。

「この二週間ほどは母の具合も安定しなくて。僕も病院につきっきりだったんで、こんなに散らかったままになってしまって。もう少しキレイにしておけば良かった。」

 僕が謝ると、おじさんは「いいよいいよ。大変だったんだから仕方がない。」と云ってくれる。


 2LDKのマンションの、リビングに置かれたテーブルを囲んで座ると、おじさんは持っていたセカンドバッグから一通の手紙を取り出した。

 僕はお茶を出しながら、それを目の端で見る。

「これが、先月送られて来た手紙です。姉さんからの。」

 そう云うと、僕の前にスッと出して置いた。

「......コレ、読んでもいいんですか?」

「ああ、読んでくれないと自分には何の事か分からなくて。」

 変な事を云うな、と思いながら手紙を受け取ると封筒の中身を取り出した。

 便箋が3枚。母の字で書かれた文章はどことなく文字が安定していない様で。戸惑いながら書きしたためたのか、途中で文の途切れている所もある様だった。
読み進めていくうちに、確かにおじさんが云った「なんの事か分からない」という意味が分かった。

 年表の、多分自分の年齢に合わせて書いたんだろう。
26歳という文字の横に矢印を引いて『両親が身代わりに』と書かれている。

「身代わり、って何でしょう。」

 僕が訊くが、おじさんは首を捻って。

「なんの事だか.....。両親は交通事故だったんだけど、居眠り運転のトラックとぶつかってねぇ、即死でしたよ。私は旭川の大学に行ってたから、急な事で驚いて。その頃姉さんは東京に居たんだよね。確か結婚して祐二くんが生まれた後ぐらいか。」

「母が結婚したのは知ってたんですね?」

「あー、事後報告ってやつだけどね。式も挙げてないし、第一........悪いけど、キミのお父さんって人に会った事もないんだよ。」

「え、.....そうなんですか。.....実は僕も覚えてなくて。写真も家にはないんです。」

「写真も?.....それは、......」

 おじさんは言葉を失った様に黙り込んでしまった。

 僕は手紙の続きを読み始める。が、さっき読んだところは最終の年表だった様で。
便箋は順番に重なっていなかったらしく、少し確認しながらめくると、一番最初と思われるページを見た。

15歳という文字の横には、また矢印が引かれて『宇賀地くんが身代わりに』と書かれていた。

「......また身代わりって、......」

 僕とおじさんは顔を見合わせると、二人で首を捻る。

  
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