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65.祝勝会

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「よっしゃ! 宴だぁぁ!」

 急に大声を上げたのは、ジンさんであった。
 俺とアリーは驚きのあまり声も出ない。
 ジンさんの言葉に真っ先に反応したのはサナさんだった。

「そうね! 魔物の王は討たれた! プラス! アリーの目が覚めたお祝いよ! 最近食べれていなかった分、お腹が空いて来たわぁぁ!」

 突如、艶と潤いを取り戻したサナさん。
 ジンさんとサナさんは家から騒がしく出て行った。
 宴会の準備に行ったのだろう。

 アリーが起きなかった間心労を溜めていたのはミリーさんも一緒であったようで。
 ミリーさんも「張り切ってお料理作らなくちゃ!」と言って腕まくりをしている。

「テツさん達が討伐した魔王の討伐パーティだけにしたらいいのに。恥ずかしいなぁ。そう思いません? テツさん?」

「アリーが目を覚ましたという事が、この街にはそれだけ重要なことだったという事だろう。魔王を討伐するのよりも大事だったのかもしれないな?」

「えぇ? 大袈裟じゃないですか?」

 アリーは恥ずかしそうな顔をしながら少し俯く。
 こころなしか顔が仄かに赤くなっている。
 そんなに恥ずかしいものだろうか。
 
 街を上げて喜んでお祝いしてくれるなんて素晴らしいことだと思うが。
 本人からしてみれば気恥ずかしいことなのかもしれない。

「俺も準備を手伝うかな」

「私も手伝います! あっ……」

 アリーが足を踏み出したが、フラリとバランスを崩す。
 咄嗟に腕を出して受け止めた。

「アリーはまだ本調子ではない。休んでいた方がいい」

「テツさん……」

「うっ! うんっ! アリーは休んでなさい! テツくん手伝って!」

 ミリーさんがいることを忘れて見つめ合ってしまった。
 恥ずかしいことこの上ないが、それはアリーも同じだったようで。
 二人で顔を赤くしてしまった。

「ご、ごめんなさい! ちょっと休んでますね!」

「あぁ。それがいい。俺はミリーさんの手伝いに行ってくる」

 俺はアリーがベッドに寝たことを確認するとキッチンに行きミリーさんを手伝うことにしたのであった。

◇◆◇

「よーっし! みんな飲み物は渡ったかぁー!?」

「「「おぉぉーー!」」」

「じゃあーテツ達の魔王討伐と、アリーの目覚めを祝して! かんぱーーーい!」

「「「かんぱーーーい!」」」

 俺もエールを頂くことにした。
 前世で毒への耐性をもつ為に毒を飲んだりしていたせいか、アルコールを飲んでも酔わない身体になってしまったのだ。

 周りから羨ましがられたりしたことがあった。
 だが、実際には素面のままだとついていけない場面が多々あったりして。
 なかなか酔わないというのも酷だなと、俺はそう感じている。

 しかし、やはり達成感がある時のエールは美味い。体に染み渡るようだ。
 左隣にはアリーが座っている。
 それは分かるのだが、何故か右隣にはミリーさんが座っているのだ。

 決して文句がある訳では無い。
 アリーとミリーさんに挟まれて幸せな気分ではあるのだ。
 酒が無ければだが。

「テツくーん。それ取ってぇ?」

 ミリーさんが俺にしなだれかかって料理を取って欲しいと言う。
 その度に返事をして取ってあげていたんだが、アリーの目が据わっているのだ。

 アリーもアルコールが回っているのだろう。
 あまり人がいてもお構い無しになりそうな予感がする。

「ちょっとぉ? お母さん? そんなにベタベタテツさんに触らないでよぉ!」

「別にいぃじゃない? アリーの旦那ということは、私の息子って事でしょぉ? なんの問題があるのぉ?」

 アリーが感情的なのに対して酔っているのに冷静なミリーさん。
 ミリーさんの言っていることはたしかに正しいと思う。

 正しいと思うのだが、腕に当たるものをどうにかして欲しい。意識がそこばかりに行ってしまいそうになる。

「ふ、二人とも……落ち着いて」

「「テツさん(くん)は黙ってて!」」

「……はぃ」

 こうなってしまうともう俺は手が出せない。
 心の中で両手を上げて降伏をしている状態だ。
 誰か……助けて……。

「あぁー! アリーとミリーがテツくん取り合ってるー! 私も混ざろうかなぁ」

 最……悪……だ。
 ここにサナさんまで混じったらとてつもなく面倒になる予感しかしない。
 どうしたらいいんだ。

 こういう時には撤退に限る。
 そうだ!
 即時撤退!

「ちょっと御手洗に……」

「「「何処に行くの?」」」

「御手洗だ」

 短くそう告げて去っていく。
 用を済ませるが、戻る気にはなれない。

 改めて全体を眺めてみると凄い人数が宴会に来ていた。
 ほぼ街の人全員じゃなかろうか。
 マーニさんやグンじいもいるし、武器屋のおっちゃんもいる。

 みんな店どころではない。
 祝いたいんだな。
 アリーは本当にこの街で好かれている。

 もちろん、俺もアリーがいない生活というのは考えられないことだ。
 その位、今は生活の一部になっているんだ。

「テツさん……帰ってたの?……お祭り?」

 後ろから声を掛けてきたのはフルルであった。

「あっ! 師匠! 何の騒ぎっすか!?」

「師匠、お疲れ様です! 自分達も食べていいんですかね?」

 後からダンとウィンもやって来た。
 依頼を受けて外出していたんだろう。

「アリーが……目を……」

 その場でフルルは泣き崩れた。
 安心したのだろう。
 目を覚ます前まで本当の姉妹の様に仲が良く。

 毎日、寝たきりのアリーの世話をしてくれていたのだから。
 その反応も当然であった。

 スッと後ろから両肩に手を添え、アリーの元へ促す。
 震えながらも歩き出す。
 目の前までくると流石にアリーも気付いた。

「フルルちゃん……」

「アリー……」

 抱き合った二人は涙を流し合った。
 ここにも深い絆があったのだ。
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