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56.勇者を語るもの
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「俺達実は、一つ盗賊団を潰してきたんだ」
「えっ!?」
自警団の男が目を見開いて驚いている。
そんなに驚くことか?
何か理由がありそうだ。
「そんなに驚くことか?」
「あっ! すみません。実は、昨日同じように勇者だと名乗る者が盗賊達を退治したと言っていたもので……」
そういう事か。
だからか。
「だから、勇者だと言っても頑なに通さなかったんですね?」
「はい。こちらからすれば先に勇者様が来てますから……しかし、冒険者ランクを見て……」
ランクで何か判断できる事があったのか?
俺より低かったのか?
まぁ、高いからといって勇者とも限らないとは思うけどな。
「カードを持っていたのか? その勇者?」
「はい。Dランクですけど……」
「Dランクで魔物の王の討伐ができるのか?」
「そう思ったんですけど。勇者だと言い張って掴みかかってきまして……」
勇者が掴みかかる?
そんな勇者いたらたまったものじゃないな。
しかし、そう言い張られては自警団も何も言えないか。
「なるほどな。結局は力ずく。短絡的だ。そいつは近いうちに会っておきたいな。なぁヒロ?」
「そうだねぇ。ボク達を語るなんて許せないねぇ。しかもDランク如きで……」
ヒロが頬をピクピクさせている。
かなりご立腹なようだ。
自分を語られるというのは気分のいいものでは無いだろうな。
「情報有難う。お勤め頑張って」
「はっ!」
ヒロが労いの言葉をかけるとビシッと敬礼をして見送ってくれた。
自警団で門番の仕事っていうのは本当に大変だと思う。
朝の午前六時位の開門から午後一時くらいまでぶっ通しで勤務。その後交代になるが、それまでは飯も食えない。
午後の勤務も午後一時から午後八時までぶっ通しだ。もちろん門番の仕事なので休憩なんてものは存在しない。
本当に良くやっているな。
自警団というのは街で組織した警察のようなもので治安維持を行っている。
門番もその仕事の一環であり、街の見回りも自警団の人が行っている。
たまに起きる揉め事を解決したり、盗みや恐喝といった行為を取り締まって牢屋に入れたりする。見回りこそ夜中もしている様なのだ。
こんなに大変な仕事だが、自警団は皆、一様に誇りを持って業務にあたっている。自分達がこの街を守るんだ。自分達が守らなければならない。そう思ってやっている。
「自警団には頭が下がるな」
「そうだねぇ。あの人達休憩とかあんまり無いからね。ぶっ通しで七時間勤務」
「七時間ぶっ通しで戦うのはしんどいからな」
「はははっ! 何と戦うつもり?」
何故笑われたのか分からなかった。
たしか鮮血の月とかって奴らを相手にした時は、その位戦っていたような。
「前にデカい盗賊団とやり合ってな。たしかその位の時間戦っていたはずだ」
「あぁ! ボクと会う前にやりあったって言う盗賊団ね! そんなに強かったんだ?」
「そんなに強くはなかったが、数が多かったからな……五百だったか」
「はぁ!? 何人で五百に挑んだの?」
「三十位だったかな?」
「テツ、よく生きてたね」
「アリーには指一本触れさせるわけに行かないからな。全力で排除した」
あの時は皆で戦うぞっていう意気込みでテンションが上がってたからな。
何時までも戦っていられる位のモチベーションを保っていた。
なんでもかかって来いと思っていたからな。
「はははっ。テツらしいね」
「ヒロー。腹ぁ減ったぜぇー」
ショウの腹の具合がもう限界らしい。
こうなると補給の買い物より先に飯を食った方がいいな。
「先に飯にしよう」
「いよっしゃぁ!」
俺がそう言うとショウは飛び跳ねて喜んでいる。余程腹が減っていたんだろう。
ホントにコイツは子供と同じだ。
食事処を探していると色々と店がある。
カツ丼屋、牛丼屋、おにぎり屋と日本食の店が並んでいる。
勇者の街に近いとこうも影響を受けるんだな。
どれにしようかと目移りしながら選んでいると、奥の店から怒鳴り声が聞こえてきた。
「俺が勇者だって言うのに金を取るのか!? ふざけんな! こっちは魔物の王の討伐に行かなきゃならないんだぞ!?」
「そ、それは分かりますけど、お代は……」
店の対応をしていた女性が困り果てている。
すると、ヒロがその女性の元へ駆け寄る。
「すみません。幾らなんです? コイツのお会計?」
「あっ、三千五百バルです」
「じゃ、これでいいかな?」
「有難う御座います! でも、良いんですか? もうすぐ自警団の人が来ますよ?」
「あぁ。いいんだ。なんせ────」
「またあんたか!? 勇者でも金払えってこの前も言っただろう!?」
自警団の人が駆けつけたようでこの男達の食い逃げも今回だけでは無いようだ。
顔を知っているということは最低でも以前に一回同じことをしているということ。
「あぁ!? こっちは勇者だぞ!? みんなの為に魔物の王の討伐に行くのに、なんで金払わなきゃならねぇ!?」
「前回は見逃したけど、もう見逃さないからな!?」
自警団もエセ勇者もヒートアップしている。
しかし、俺達も黙っている訳にはいかない。
「自警団の方、お金はボクが支払いましたので!その件はご心配なく」
「あっ、有難う御座います! 騎士様も一緒とは何事ですか!?」
「実は……ボク達が勇者でして……」
自警団の人はポカーンとした顔をしている。
しはらくするとハッとしてあちらのエセ勇者を見た。
「お前ぇ! 勇者っていうのも嘘か!?」
「な、なにを証拠にそんな事言ってるんだ!? 俺が勇者だ!」
顔を自警団に前のめりに出してくる。
俺の中で引っかかった。
ん? アイツの顔どこかで見た事があるな。
どこだ? アリー関連で……
「あっ! お前、俺にアリーを差し出せとかふざけた事言ってたDランク冒険者じゃないか!? ベルンで見なくなったと思ったら……お前達……」
またふざけた事してんのかと思ったら怒りが湧いてきて体から闇が噴出する。
「なっ!? アリーナイトが何でここに!? ヤバい! 殺される! お前達逃げるぞ!」
驚きのあまり後ろに尻もちをつく。
必死の形相で這いつくばって逃げていった。
その後に慌てて続く仲間達。
「あぁ。逃げちゃったね。テツ、前に何があったわけ? アリーナイトってなに?」
「アリー関連でついた名前だ。あの名前は恥ずかしい。もう奴らは現れないだろう」
俺がそう言うと自警団の人がビシッと敬礼してきた。
「ご協力有難う御座いました!」
「はぁーい! お疲れ様です!」
ヒロが軽く挨拶すると去っていった。
店の方も金は払ったし問題ないだろう。
「あのっ! 良ければ、うちで食べていきませんか!?」
さっき、助けた女性だった。
「良いんですか?」
「はい! 是非っ!」
「じゃあ、皆ここで食べよぉ!」
ヒロが言うと喜んで店に入っていく。
この街にはその後「本物の勇者は心が広く穏やかでとても強い人だった」という噂が広まりニセ勇者は居場所が居なくなったのであった。
「えっ!?」
自警団の男が目を見開いて驚いている。
そんなに驚くことか?
何か理由がありそうだ。
「そんなに驚くことか?」
「あっ! すみません。実は、昨日同じように勇者だと名乗る者が盗賊達を退治したと言っていたもので……」
そういう事か。
だからか。
「だから、勇者だと言っても頑なに通さなかったんですね?」
「はい。こちらからすれば先に勇者様が来てますから……しかし、冒険者ランクを見て……」
ランクで何か判断できる事があったのか?
俺より低かったのか?
まぁ、高いからといって勇者とも限らないとは思うけどな。
「カードを持っていたのか? その勇者?」
「はい。Dランクですけど……」
「Dランクで魔物の王の討伐ができるのか?」
「そう思ったんですけど。勇者だと言い張って掴みかかってきまして……」
勇者が掴みかかる?
そんな勇者いたらたまったものじゃないな。
しかし、そう言い張られては自警団も何も言えないか。
「なるほどな。結局は力ずく。短絡的だ。そいつは近いうちに会っておきたいな。なぁヒロ?」
「そうだねぇ。ボク達を語るなんて許せないねぇ。しかもDランク如きで……」
ヒロが頬をピクピクさせている。
かなりご立腹なようだ。
自分を語られるというのは気分のいいものでは無いだろうな。
「情報有難う。お勤め頑張って」
「はっ!」
ヒロが労いの言葉をかけるとビシッと敬礼をして見送ってくれた。
自警団で門番の仕事っていうのは本当に大変だと思う。
朝の午前六時位の開門から午後一時くらいまでぶっ通しで勤務。その後交代になるが、それまでは飯も食えない。
午後の勤務も午後一時から午後八時までぶっ通しだ。もちろん門番の仕事なので休憩なんてものは存在しない。
本当に良くやっているな。
自警団というのは街で組織した警察のようなもので治安維持を行っている。
門番もその仕事の一環であり、街の見回りも自警団の人が行っている。
たまに起きる揉め事を解決したり、盗みや恐喝といった行為を取り締まって牢屋に入れたりする。見回りこそ夜中もしている様なのだ。
こんなに大変な仕事だが、自警団は皆、一様に誇りを持って業務にあたっている。自分達がこの街を守るんだ。自分達が守らなければならない。そう思ってやっている。
「自警団には頭が下がるな」
「そうだねぇ。あの人達休憩とかあんまり無いからね。ぶっ通しで七時間勤務」
「七時間ぶっ通しで戦うのはしんどいからな」
「はははっ! 何と戦うつもり?」
何故笑われたのか分からなかった。
たしか鮮血の月とかって奴らを相手にした時は、その位戦っていたような。
「前にデカい盗賊団とやり合ってな。たしかその位の時間戦っていたはずだ」
「あぁ! ボクと会う前にやりあったって言う盗賊団ね! そんなに強かったんだ?」
「そんなに強くはなかったが、数が多かったからな……五百だったか」
「はぁ!? 何人で五百に挑んだの?」
「三十位だったかな?」
「テツ、よく生きてたね」
「アリーには指一本触れさせるわけに行かないからな。全力で排除した」
あの時は皆で戦うぞっていう意気込みでテンションが上がってたからな。
何時までも戦っていられる位のモチベーションを保っていた。
なんでもかかって来いと思っていたからな。
「はははっ。テツらしいね」
「ヒロー。腹ぁ減ったぜぇー」
ショウの腹の具合がもう限界らしい。
こうなると補給の買い物より先に飯を食った方がいいな。
「先に飯にしよう」
「いよっしゃぁ!」
俺がそう言うとショウは飛び跳ねて喜んでいる。余程腹が減っていたんだろう。
ホントにコイツは子供と同じだ。
食事処を探していると色々と店がある。
カツ丼屋、牛丼屋、おにぎり屋と日本食の店が並んでいる。
勇者の街に近いとこうも影響を受けるんだな。
どれにしようかと目移りしながら選んでいると、奥の店から怒鳴り声が聞こえてきた。
「俺が勇者だって言うのに金を取るのか!? ふざけんな! こっちは魔物の王の討伐に行かなきゃならないんだぞ!?」
「そ、それは分かりますけど、お代は……」
店の対応をしていた女性が困り果てている。
すると、ヒロがその女性の元へ駆け寄る。
「すみません。幾らなんです? コイツのお会計?」
「あっ、三千五百バルです」
「じゃ、これでいいかな?」
「有難う御座います! でも、良いんですか? もうすぐ自警団の人が来ますよ?」
「あぁ。いいんだ。なんせ────」
「またあんたか!? 勇者でも金払えってこの前も言っただろう!?」
自警団の人が駆けつけたようでこの男達の食い逃げも今回だけでは無いようだ。
顔を知っているということは最低でも以前に一回同じことをしているということ。
「あぁ!? こっちは勇者だぞ!? みんなの為に魔物の王の討伐に行くのに、なんで金払わなきゃならねぇ!?」
「前回は見逃したけど、もう見逃さないからな!?」
自警団もエセ勇者もヒートアップしている。
しかし、俺達も黙っている訳にはいかない。
「自警団の方、お金はボクが支払いましたので!その件はご心配なく」
「あっ、有難う御座います! 騎士様も一緒とは何事ですか!?」
「実は……ボク達が勇者でして……」
自警団の人はポカーンとした顔をしている。
しはらくするとハッとしてあちらのエセ勇者を見た。
「お前ぇ! 勇者っていうのも嘘か!?」
「な、なにを証拠にそんな事言ってるんだ!? 俺が勇者だ!」
顔を自警団に前のめりに出してくる。
俺の中で引っかかった。
ん? アイツの顔どこかで見た事があるな。
どこだ? アリー関連で……
「あっ! お前、俺にアリーを差し出せとかふざけた事言ってたDランク冒険者じゃないか!? ベルンで見なくなったと思ったら……お前達……」
またふざけた事してんのかと思ったら怒りが湧いてきて体から闇が噴出する。
「なっ!? アリーナイトが何でここに!? ヤバい! 殺される! お前達逃げるぞ!」
驚きのあまり後ろに尻もちをつく。
必死の形相で這いつくばって逃げていった。
その後に慌てて続く仲間達。
「あぁ。逃げちゃったね。テツ、前に何があったわけ? アリーナイトってなに?」
「アリー関連でついた名前だ。あの名前は恥ずかしい。もう奴らは現れないだろう」
俺がそう言うと自警団の人がビシッと敬礼してきた。
「ご協力有難う御座いました!」
「はぁーい! お疲れ様です!」
ヒロが軽く挨拶すると去っていった。
店の方も金は払ったし問題ないだろう。
「あのっ! 良ければ、うちで食べていきませんか!?」
さっき、助けた女性だった。
「良いんですか?」
「はい! 是非っ!」
「じゃあ、皆ここで食べよぉ!」
ヒロが言うと喜んで店に入っていく。
この街にはその後「本物の勇者は心が広く穏やかでとても強い人だった」という噂が広まりニセ勇者は居場所が居なくなったのであった。
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