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43.勇者の鍛錬

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「あっ、テツ、俺もここに住んでいい?」

「出ていけ」

 両手をあげるヒロ。
 ニヤニヤとした顔でバカにしている。

「冗談だよ。明日からボク達の鍛錬に付き合ってくれない? ボク達を強くして欲しい」

「いいが、俺も弟子がいる。一緒にでいいか?」

「弟子いるんだ? うん。それはかまわない」

「じゃあ、明日な」

「よろしくね。失礼しましたー!」

 家を出ていったヒロ。
 その日の夜は散々アリーと俺はからかわれたのであった。
 恥ずかしかったが、アリーの気持ちがわかって幸せな気分でいっぱいであった。

◇◆◇

「おはよー!」

「「「おはようございます!」」」

 俺とフルルはギルドに行くとヒロとダン、ウィン、ショウが出迎えてくれた。

「おはよう。ショウまでどうした?」

「いやな、昨日言われた通り柔らかい筋肉っつうのでビルドアップを試して見たんだが、動きがすげぇ良くなってよぉ。頼む師匠! 俺を強くしてくれ!」

 いつの間にか弟子が増えている。
 まぁ、悪いことではないんだが、俺だけで大丈夫だろうか。

「そうだ。レイとアケミも身を守れるくらいには戦えるようにしたいんだ」

「えぇー!? 私痛いの嫌よー?」

「ワタクシにも出来るかしら?」

 中々癖が強そうな二人であるが、前世では一応組織で教育係をしていた事もある。
 どうにかなるだろう。
 フルルにも教えるんだ、ついでだから一緒に鍛えるか。

「サナさん、訓練所一室借りるぞ」

「はいはぁい! ごゆっくりー!」

 訓練所に行くとぶつからないように広がる。
 大所帯になったな。

 柔軟を始めた俺と暁三人組。
 それをみたヒロ達勇者組は驚いている。
 勇者組は珍しくもないだろ?
 そう思っていると。

「ヒロと同じことするんだな?」

「ホントだねー。やっぱりやった方がいいのー?」

「柔らかくすることで何かメリットがあるのかしら?」

 それは昨日見せたと思うが。
 暁三人組も何言ってるんだ?って顔をしている。

「あぁ、そっか。アサミとレイは昨日見てなかったんだっけ? ボクとテツが戦ってるの?」

「私達買い物してたもーん」

「お洋服買っておりましたからねぇ」

 思わず、顔がヒクヒクしてしまう。
 やはり女性というのは難しい生き物である。

「少し、ボクとテツでデモンストレーションをしようか」

 真ん中に出ていくヒロ。
 テツも出る。

 軽くジャブを放ってくるので、避けて軽くこちらもジャブを放つ。
 それを避けながら俺がやったように開脚してハイキックを放ってきた。

 それに足を開きながらベタっと開脚して床にシリを付けると回転させて足払いをする。
 ヒロがクルッと横に空中で回転して足払いを避け着地する。

 ヒロが続けて起き上がる前の俺の頭目掛けて前蹴りを放ってくる。
 後ろにのけ反りながらひろの顎に下からの蹴り上げを放ち、そのまま縦に宙返りして着地して立つ。

「いててて。まぁ、こんなところかな? なんで柔らかい方がいいかわかった?」

「「「おおぉぉぉ」」」

「やっぱりテツさんは凄いな!」

「流石っす! テツさん!」

「やっぱり……凄い」

「たしかにすげぇわ。これは柔軟が必要だな」

「カッコイイわー! アケミにもできるかなー!?」

「凄いですわね! あれは柔らかくなければできないですわ!」

 みんなそれぞれ凄いと思ってくれたようだ。
 これで、柔軟の重要性がよくわかっただろう。
 これは、俺とヒロだから少しスパーリングになった。

 だが、普通のそこらの冒険者にこれをやったら予想外の角度からの攻撃である、最初のハイキックで沈むだろう。
 それほど、予想の範囲外からの攻撃というのは重要なのだ。

「では、まず柔軟から始めるか」

 皆それぞれでできる限りの柔軟をする。
 前に倒れてみたり横に倒れてみたり。
 自分の柔軟が終わるとダンとウィンの背中を押してあげたり。

「終わったらダンとウィンは組手な。ショウとレイ、アケミ、フルルはこっちで基礎練習な」

「おれもそっちかよ!?」

 ショウが講義の声を上げる。

「ショウは喧嘩はしてただろうが、格闘技としての基礎がなってない。パンチしてみろ」

 するとショウは後ろに振り被って右拳を突き出した。

「こうだろ?」

「それだと隙が大きすぎるんだ」

 ヒロが左を、前にして右を鼻の下くらいに拳を構えて右拳を直線で突き出す。
 シュッと音がする。

「わかるか?」

「あぁ。なんか……はやい?」

「そう。直線的だから拳が届くのが早いんだ。この世界の戦士で強くないものにはそのショウのような突きをする者が多いんだ」

 悔しそうな顔をするショウ。
 レイとアケミも構えて突きを繰り出したりしている。中々に様になっている。

「様になっているな」

 無駄なくせがない分、吸収が早いのかもしれない。フルルもシュッシュッと言って突きを出している。

 フルルはひと足早く俺が教えていたから自分はできるというのをアピールしたかったのかもしれない。

「フルル。少し護身術を覚えないか?」

「……覚える」

「まず、突きを出してみてくれ」

 右拳を突き出してくる。
 左に流して右手で肩を横に押す。
 そして、さっと体を捻りながら腕を引っ張り引き倒す。

「こうして引き倒せば逃げることが出来るだろ? 後は、フルルには魔法がある」

 コクリと頷くと拳を握りしめた。
 やる気は、十分なようだ。

 俺が拳を突き出すと俺の真似をして同じように俺を引き倒す。

「できたじゃないか」

「できた!」

 フルルが嬉しそうな顔をしている。
 満足そうで何よりだ。

 思い思いの鍛錬をしてこの日は終わった。
 
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