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11.怒り

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「何その格好!?」

 ギルドに入ると第一声はサナさんであった。
 俺のママカミとアビットを肩から下げた姿がかなり衝撃的であったようだ。
 受付から出てきて駆け寄ってくる。

「ちょっと、大丈夫!?」

「はぁ。俺は全然」

 俺は大丈夫だが、血抜きが終わる前に来たから少し血が服を汚しているのだ。
 ようは、血塗れなのだ。
 それは、怪我を疑われることだろう。

「もう! 驚かせて! あっちが素材買取所だから行きましょう!」

 他の冒険者もギョッとして目で見ている。
 そんなに驚くことかなぁ。
 ただ獣を下げてきたようなもんだ。
 魔石は抜いてるし、安全だ。

 素材買取のカウンターに行く。
 肩から下げていた魔物を出し、魔石も一緒にだす。

「あっ、これもだった」

 背負ってきた麻袋からマノシシの解体した肉を出す。大部分の肉は持ち帰って他を買取してもらう。

「あいよ。随分狩ってきたな」

 買い取りカウンターのおじさんが対応してくれた。
 ゆっくりと買取してもらおうとしたが────

「あっ! そうだ! ねぇテツくん! 大変なのよ! そんなことやってる場合じゃないわ!」

 何やら慌てている。
 先程は俺の格好に驚いて伝えたいことを忘れていたのだろう。

「なんだ?」

「アリーちゃん、攫われたのよ!」

 頭の中が冷えていくのがわかる。
 スゥーっと脳が冷えていく。

 あぁ。この感覚、思い出す。
 あの人を殺してしまった時の感覚だ。
 俺は、あの感覚になるのが嫌で殺しをやめようと思ったんだ。

「誰に?」

「分からないわ! 今知り合いの冒険者が探してくれてるわ!」

 入口近くの酒場にはガハハハと笑い声が聞こえている。
 チラリと酒場を見る。
 コザーと飲んでいた男がいたことに気づいた。

 気づくと目の前にその男がいた。
 ギョッとした目でこちらを見ている。
 まさか自分のところに来ると思ってなかったのか?この前は一緒に飲んでいただろうに?

「おい」

 思った以上に低い声が出た。
 目の前の男がビクリッとする。
 目を伏せる男。
 目を伏せるってことは、やましいことがあるって事だろう? なぁ?

「お前、コザーがどこにいるか知ってるか?」

 周りは何故そんなことを聞くのか分からないだろう。俺は、攫ったやつはほぼ想像通りだとおもっている。

「ヒッ! お、俺はなにもっ!」

「お前のことは聞いてない。コザーは普段何処にいる? 知ってるんだろう?」

 なるべく優しく声を出すが、それが逆に不気味なのだろう。
 プルプルと震え出した。
 頭の中はキィーン冷えきっているが、脳はフル回転している。

「アイツは普段、北の端にある倉庫で武器の手入れをしているそうだっ! 俺は! 何も知らないぞっ!」

「……」

 男は非常に狼狽えているが、無視して出口に向かう。あの様子だと周りから色々と問われることだろう。

 まずは、ミリーさんの安否も心配だ。
 家に向かう。ゆっくりと歩いているつもりだったが、気付けば走っていた。

 バタンッと入口を開ける。

「テツさん! アリーが! いないの!」

「ミリーさんは無事か……」

 少し心が安堵する。
 アリーの安否が心配だが。
 場所は聞いた。
 後は向かうだけ。

「アリーが! 買い物から帰ってきたら居なくて! 家が荒らされてて! アリーまで居なくなったら私どうしたら!」

 スッと優しく背中をさする。
 トントンッと落ち着くように宥める。
 俺がいるから大丈夫だと。
 必ず助けると。
 そういう気持ちを込めて。

「テツさん?」

「ミリーさん、アリーは俺が必ず助け出します」

「グスッ。うん。お願いね」

 その言葉を胸に家を出る。
 この前のギルドでの出来事を思い出す。
 コザーを一ひねりして置いてきた。

 ギルドの対応に一任した。
 あの後はどういう対応をしたのかは知らない。
 他人に任せたから。

 あの時はそれでいいと思っていた。
 人を殺すよりは他人に後は任せた方がいいと、そう思ったから。
 いつからそうなった?

 他人に自分の大切な人の運命を握らせるような、そんな行為を何故許すようになった?
 人を殺すのを躊躇うのはいい。
 けど、それは大切な人に危害が及ばない場合だ。

 今回のことは俺のせいだ。
 自分が許せない。
 何故あの時に殺しておかなかったのか。

 容易に殺せたはずなのに。
 首を絞めるのではなく、あの時折っていれば。
 切り裂いていれば。

 過去を考えても仕方がない。
 問題は今、アリーが捕らわれているということ。
 大丈夫だよ、アリー。
 そいつは、今殺す。

 突如として身体から黒い霧のようなものが吹き出す。感覚的にわかる。これが闇だと。
 あぁ。たしかに俺にはこの属性が合ってるんだろうな。

 シュバッとその場に闇を残して消えた。

 次に現れたのは暗い倉庫の前。

「ここか?」

 中からは何も聞こえない。
 扉を開けようとするが、鍵がかかっているようだ。だが、俺には鍵など関係ない。
 いつの間にか身体には闇が纏われている。

 鍛錬で何度も行っている、やり慣れた動作。
 前蹴りで扉を吹き飛ばした。
 吹き飛ばした瞬間、悲鳴が聞こえた。

「離して! 止めて!」

 入口付近の者達はこちらの音に気づいて振り返っている。
 奥にいるアリーを捕らえている場所にはコザーとその取り巻きがいて服を剥がしている所だった。

 シュバッと再び闇を残して消える。

 アリーの後ろに闇が現れた。

「なっ!? なぜお前がここに居る!?」

 アリーの縄をゆっくり解くと、奥に座らせて自身の上半身の服を脱いでかける。
 アリーの服はもうボロボロになっていた。

「ちょっと待っててくれアリー」

「テツさん!…………テツさん?」

 喜んでいたアリーだったが顔が曇っている。
 大丈夫。もう恐いのは終わらせるから。
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