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3.飯の礼
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「美味かった。ご馳走様」
手を合わせて礼をする。
「なんですか? 祈ったりして?」
「ん? あぁ。作ってくれた人と食べ物に感謝の気持ちを現したんだ」
「素敵ですね! 私もやります!」
目をキラキラさせながら真似をするという。
アリーもご飯を食べ終わると「ご馳走様でした」と言って食器を片付け始めた。
「ご馳走になったからな。何か手伝えることはないか?」
「んー……薪割りが大変なんですよ。薪割りして貰えませんか?」
「お易い御用だ」
「家の裏に木があって、割る用の丸太があるので」
「あぁ。わかった」
家の裏に再び行く。
直ぐに割る木がわかった。
薪割りもトレーニングになると聞いてやっていた事がある。
直ぐにパカパカと割り始めた。
音で割る早さに気付いたんだろう。
アリーが裏に様子を見に来た。
「わぁ! 凄いですね! そんなに早く割る人初めて見ましたよ?」
「そうか? これもいい鍛錬になる」
そう言いながら割っているとクスッと笑われた。
「ふふっ。トレーニングが好きなんですね?」
「いや、好きという訳では。強くなる為に必要なだけだ」
「ふーん。男の人ってそういうものなんですかね?」
「どうだろうな?」
男がこういうトレーニングを皆がするかと聞かれても、他の男と会話をあまりした事がないのでわからない。
同業者はもちろんトレーニングするだろうが、ターゲットとなるような男の中にはブヨブヨの体の男が多かった。
だから、みんなが皆トレーニングするという訳では無いのだろう。
返事は分からないという返答になってしまう。
「私のお父さんもトレーニングばっかりしていたんですよ」
ふむ。
アリーのお父さんも俺と同業か?
「俺と一緒だな」
「そうですね! お父さん、冒険者をしてたんです! すっごく強くて大きくて頼りになって……でも、凄く強い魔物に会って……皆を逃がす為の囮になったそうなんです」
強敵にあった時に自分が犠牲になる……か。
自己犠牲は美徳ではあるが、勝てない相手には撤退も考えた方がいいのだがな。
それ程の実力があれば勝てないということも分かったであろうにな。
「そうか。アリーのお父さんは勇敢だったんだな」
ここで、自己犠牲はただの自己満足だ等と言ってはアリーが傷付くのは、何故か俺でもわかった。
口から出たのはアリーのお父さんを称える言葉であった。
「みんなそう言ってくれました。けど、他の人を逃がして自分が犠牲になるなんて、なんて馬鹿なんだろうって……そう思いました」
そうだな。俺もそう思うが……。
「優しい人だったので、皆が助かればそれでいいと思ったんだと思います。残される私達の事なんて考えていなかったんですよ」
目を潤ませて下を向き、声を震わせる。
アリーのお父さんの気持ちは俺には分からない。
けど、俺が人を殺すのを躊躇うようになった原因となった人物は、子供のことや自分の妻のことを考えて生きようとしていた。
親というものが分からないが、子供のことを忘れたりすることは無いんじゃないだろうか。
そこまで執着があったからその人物の思いが俺に伝わって殺すことを躊躇うようになったのではなかろうかと思う。
「俺は、アリーのお父さんを知らないからどういう風に考えて犠牲になることを選んだかは想像でしかない。俺が知る親というものは、死ぬ間際まで、家族のこと、特に子供のことというのは脳裏に浮かんでいるものなのではないだろうか? 最後まで抵抗していたんではないだろうか?」
その言葉に目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
俺からそんな言葉が出てきたことが意外だったのだろうか。
アリーは声を上げながら更に涙を流し、蹲ってしまった。
薪割りを中断して、どうしていいかオロオロしていると。
声が聞こえたのであろう。
アリーのお母さんが裏にやって来た。
「おやおや、どうしたんだい?」
先程の会話を内容を説明する。
すると、ウンウンと頷きながらアリーの背中をさすりだした。
「この子はねぇ、父親の事を自分の中で恨む様になってしまってねぇ。 他の人のことを常に考えているような人だったから。その考えをテツさんの言葉を聞いて違うのかもしれないと、そう思ったんじゃないかねぇ」
うわぁんと泣きながら蹲っているアリー。
俺は、立ち尽くしていることしか出来なかった。
しばらくすると泣き止んだ。
「グスッ。すみませんでした。泣いてしまって。そして、有難うございます! 私は、ずっとお父さんの事を勘違いしていたのかもしれません」
「いや、俺の方こそ、想像でしかないが、余計なことを言ってしまったかと……」
「そんな事ないです! とても心に響きました! 有難うございます!」
礼を言うそのアリーの笑顔はとても綺麗で眩しくて、太陽の様にみんなを照らすようであった。
この笑顔を守っていきたい。
こんな感情を抱いたのは初めてじゃないだろうか。
この世界に来て、俺に何があったというのか。
この子に会っただけでこんなにも今までに感じたことがないことを感じている。
「あの、テツさんは、今後はどうなさるんですか!?」
「今後? あー。特に考えていなかった。その辺でブラブラと金を稼ぎながら宿にでも泊まるかな」
「でしたら! ここに居てくれませんか?」
真剣な顔で見つめられる。
「俺みたいなのが居ていいのか?」
「はい!」
眩しい程の笑顔で言われると、俺も良いのかなと言う気持ちになってしまう。
俺の事をこんなに必要としてくれるなら、居たいと。そう思ってしまう。
「では、世話になる」
「やったぁ! ふふふっ。じゃあ、薪割りお願いしますね?」
今度は小悪魔のようなこちらを振り返って笑いかけてくる。
この気持ちは何なのだろうか?
今まで心を平静にする様訓練してきたのに、こんなに心を揺さぶられるとは。
アリーは強敵である。
手を合わせて礼をする。
「なんですか? 祈ったりして?」
「ん? あぁ。作ってくれた人と食べ物に感謝の気持ちを現したんだ」
「素敵ですね! 私もやります!」
目をキラキラさせながら真似をするという。
アリーもご飯を食べ終わると「ご馳走様でした」と言って食器を片付け始めた。
「ご馳走になったからな。何か手伝えることはないか?」
「んー……薪割りが大変なんですよ。薪割りして貰えませんか?」
「お易い御用だ」
「家の裏に木があって、割る用の丸太があるので」
「あぁ。わかった」
家の裏に再び行く。
直ぐに割る木がわかった。
薪割りもトレーニングになると聞いてやっていた事がある。
直ぐにパカパカと割り始めた。
音で割る早さに気付いたんだろう。
アリーが裏に様子を見に来た。
「わぁ! 凄いですね! そんなに早く割る人初めて見ましたよ?」
「そうか? これもいい鍛錬になる」
そう言いながら割っているとクスッと笑われた。
「ふふっ。トレーニングが好きなんですね?」
「いや、好きという訳では。強くなる為に必要なだけだ」
「ふーん。男の人ってそういうものなんですかね?」
「どうだろうな?」
男がこういうトレーニングを皆がするかと聞かれても、他の男と会話をあまりした事がないのでわからない。
同業者はもちろんトレーニングするだろうが、ターゲットとなるような男の中にはブヨブヨの体の男が多かった。
だから、みんなが皆トレーニングするという訳では無いのだろう。
返事は分からないという返答になってしまう。
「私のお父さんもトレーニングばっかりしていたんですよ」
ふむ。
アリーのお父さんも俺と同業か?
「俺と一緒だな」
「そうですね! お父さん、冒険者をしてたんです! すっごく強くて大きくて頼りになって……でも、凄く強い魔物に会って……皆を逃がす為の囮になったそうなんです」
強敵にあった時に自分が犠牲になる……か。
自己犠牲は美徳ではあるが、勝てない相手には撤退も考えた方がいいのだがな。
それ程の実力があれば勝てないということも分かったであろうにな。
「そうか。アリーのお父さんは勇敢だったんだな」
ここで、自己犠牲はただの自己満足だ等と言ってはアリーが傷付くのは、何故か俺でもわかった。
口から出たのはアリーのお父さんを称える言葉であった。
「みんなそう言ってくれました。けど、他の人を逃がして自分が犠牲になるなんて、なんて馬鹿なんだろうって……そう思いました」
そうだな。俺もそう思うが……。
「優しい人だったので、皆が助かればそれでいいと思ったんだと思います。残される私達の事なんて考えていなかったんですよ」
目を潤ませて下を向き、声を震わせる。
アリーのお父さんの気持ちは俺には分からない。
けど、俺が人を殺すのを躊躇うようになった原因となった人物は、子供のことや自分の妻のことを考えて生きようとしていた。
親というものが分からないが、子供のことを忘れたりすることは無いんじゃないだろうか。
そこまで執着があったからその人物の思いが俺に伝わって殺すことを躊躇うようになったのではなかろうかと思う。
「俺は、アリーのお父さんを知らないからどういう風に考えて犠牲になることを選んだかは想像でしかない。俺が知る親というものは、死ぬ間際まで、家族のこと、特に子供のことというのは脳裏に浮かんでいるものなのではないだろうか? 最後まで抵抗していたんではないだろうか?」
その言葉に目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
俺からそんな言葉が出てきたことが意外だったのだろうか。
アリーは声を上げながら更に涙を流し、蹲ってしまった。
薪割りを中断して、どうしていいかオロオロしていると。
声が聞こえたのであろう。
アリーのお母さんが裏にやって来た。
「おやおや、どうしたんだい?」
先程の会話を内容を説明する。
すると、ウンウンと頷きながらアリーの背中をさすりだした。
「この子はねぇ、父親の事を自分の中で恨む様になってしまってねぇ。 他の人のことを常に考えているような人だったから。その考えをテツさんの言葉を聞いて違うのかもしれないと、そう思ったんじゃないかねぇ」
うわぁんと泣きながら蹲っているアリー。
俺は、立ち尽くしていることしか出来なかった。
しばらくすると泣き止んだ。
「グスッ。すみませんでした。泣いてしまって。そして、有難うございます! 私は、ずっとお父さんの事を勘違いしていたのかもしれません」
「いや、俺の方こそ、想像でしかないが、余計なことを言ってしまったかと……」
「そんな事ないです! とても心に響きました! 有難うございます!」
礼を言うそのアリーの笑顔はとても綺麗で眩しくて、太陽の様にみんなを照らすようであった。
この笑顔を守っていきたい。
こんな感情を抱いたのは初めてじゃないだろうか。
この世界に来て、俺に何があったというのか。
この子に会っただけでこんなにも今までに感じたことがないことを感じている。
「あの、テツさんは、今後はどうなさるんですか!?」
「今後? あー。特に考えていなかった。その辺でブラブラと金を稼ぎながら宿にでも泊まるかな」
「でしたら! ここに居てくれませんか?」
真剣な顔で見つめられる。
「俺みたいなのが居ていいのか?」
「はい!」
眩しい程の笑顔で言われると、俺も良いのかなと言う気持ちになってしまう。
俺の事をこんなに必要としてくれるなら、居たいと。そう思ってしまう。
「では、世話になる」
「やったぁ! ふふふっ。じゃあ、薪割りお願いしますね?」
今度は小悪魔のようなこちらを振り返って笑いかけてくる。
この気持ちは何なのだろうか?
今まで心を平静にする様訓練してきたのに、こんなに心を揺さぶられるとは。
アリーは強敵である。
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