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81.大事の予感
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僕たちは満身創痍の中、光が収まるのを待った。
魔力切れで立っているのがやっとだ。
こんな状態になったのはいつ以来だろうか。
遠い昔を思い出さないと思い当たらない。
三人も怪我をしているし、魔力も切れている。
カーラさんは肩で息をしながら片膝をついていたし、エリスさんは頭を抑えている。バアルくんも床に座り込んでいた。
しばらく放たれていた光はキュッと急に小さく収束し、消えていった。
そこには、何も残っていなかった。
僕たちは勝利したのだ。
「はぁ。はぁ。はぁ。やったか」
僕が安堵のため息を吐く。
「あぁぁ。歩くのしんどいなぁ」
「私も頭痛くて歩きたくない」
「ウチ、腕痛すぎるんだけど」
三人は口々に自分の辛さを口に出している。
歩けないのはわかるが、ここから出ないとなぁ。
「出るまでは行ける? 奥に魔方陣があるはずだから」
「私動けなーい」
「ウチ、足は無事だから歩けるけど。腕が痛い」
「オレは気合いでなんとか」
エリスさんは完全に甘えモードに入っているからおぶらないと不機嫌になりそうだ。
「エリスさんは僕が連れて行くよ。カーラさんとバアルくんはお互いを支え合って行ってもらっていい?」
「リオンくんありがとー!」
僕はエリスさんの前に跪くと後ろから覆いかぶさってきた。こういうとき、柔らかいものを押し付けてくるのはいかがなものだろう。
絶対わざとやっていると思うんだよね。耳に吐息が当たってなんか変な気持ちになってくる。ダメだ。煩悩退散!
何も感じないと体に言い聞かせて奥へと歩いていく。カーラさんとバアルくんのニヤニヤも無視して前だけを見て、外を目指す。
任務遂行を第一にするんだ。
邪念は捨てる。
魔方陣を発動させると外へと転移してこれた。
この怪我では後の休み全てを休養にあてないといけないだろう。
でも、僕だけでも鍛え直さないとダメかも。
あれだけで魔力切れになってちゃ、これから先やっていけない。まだまだ未熟だな。
外へ行くと黒装束の三人が待っていた。
「えぇー? 生きてるじゃーん」
「あれを倒すのか……」
「だから、甘く見るなと言っただろう」
一人はデームくんのようだ。
ってことは、人外魔境か。
優しくエリスさんを下す。
竜斬丸を呼び、戦闘態勢に入る。
魔力はないが、コイツらは刀が効く。
それならやれる。
「おーい、コイツ、大した傷を負ってないよー? 魔力切れくらーい?」
「手ごわそうだな」
「相手にしちゃダメだ。引くぞ」
デームくんは仲間を止めようとしている。
けど、やる気がある一人はこちらへ一歩踏み出す。
「誰が、誰に言ってるのぉー? ボクがやるからー」
懐から手を出すと、両手には大振りのナイフ。
それを構えてこちらへ倒れたかと思ったら、目の前にいた。
僕も反応していたから刀で受け止める。
刃の擦れる音が目の前で響く。
かなりの速さみたいだね。
でも、軽いよ。
前蹴りを放ち、鳩尾を蹴りあげる。
同時に跳躍して威力を受け流したようだ。
だが、刀を振るい、ナイフを払いのける。
これならどうだ。
──ゴッッ
頭突きは予想外だったようで目を見開いて頭を抑えている。その間に首を蹴り飛ばす。
吹っ飛んだソイツは気絶したようで動かなくなった。
「まさか、エースがやられるとは……」
「チッ! だから言ったんだ。引くぞ! また王都でな」
倒れたそいつをつれてデームくんは去っていく。
去っていく背中を見送り、僕たちは一息ついた。
気になる言葉を言い残していったね。
「王都でまたってどういうことだろうね?」
エリスさんが首をひねっている。
「ウチもわかんないけど、王都で何かあったっけ?」
「行事とか? お祭り?」
デームくんは本気で組織に魂を売っているわけではないと思うんだ。だとしたら、考えられるのは僕たちへのメッセージだということ。
「もしかして、王都で何かをする気なんじゃない?」
「それを知らせてきたってこと?」
エリスさんはそんなことあるかなぁと言った風に首を傾げる。皆は知らないかもしれないけど、夜の警備のバイトをしていたデームくんを知っている僕からしてみれば。今の様な事をしていること自体、信じられないんだ。
あんなに街の人達のことを考えていたじゃないか。なんでそんな組織のいいなりになっているんだ。負傷してでも立ち向かえばいいのに。
「そんな気がする。デームくんにも何か事情があるんだよ」
デームくんが組織に立ち向かえない理由、なにかあるのかもしれない。家族を人質にとられているとか?
何か監視の目がついているのだろうか。
だとしたら許せない。
そんな組織、ぶっ潰す。
今回の襲撃を突破したことで、僕たちの強さは認識したはず。何か頭に逆らえない人がいるんだな。牛耳っている奴がいるに違いない。
「そうだよね。とにかく今は体の治療に専念しよう」
「それがいい。そして、王都で何かが起きるかもしれない。それは担任に知らせておこう。国の軍とダイバーを出動させるかもしれないからね」
「それは大事になるね」
「うん。これは、最大の事件となるに違いないよ」
一年生の最後となる休み明けの二月頃かな。
人外魔境が攻めてくるという情報が王都中へ瞬く間に広がった。
魔力切れで立っているのがやっとだ。
こんな状態になったのはいつ以来だろうか。
遠い昔を思い出さないと思い当たらない。
三人も怪我をしているし、魔力も切れている。
カーラさんは肩で息をしながら片膝をついていたし、エリスさんは頭を抑えている。バアルくんも床に座り込んでいた。
しばらく放たれていた光はキュッと急に小さく収束し、消えていった。
そこには、何も残っていなかった。
僕たちは勝利したのだ。
「はぁ。はぁ。はぁ。やったか」
僕が安堵のため息を吐く。
「あぁぁ。歩くのしんどいなぁ」
「私も頭痛くて歩きたくない」
「ウチ、腕痛すぎるんだけど」
三人は口々に自分の辛さを口に出している。
歩けないのはわかるが、ここから出ないとなぁ。
「出るまでは行ける? 奥に魔方陣があるはずだから」
「私動けなーい」
「ウチ、足は無事だから歩けるけど。腕が痛い」
「オレは気合いでなんとか」
エリスさんは完全に甘えモードに入っているからおぶらないと不機嫌になりそうだ。
「エリスさんは僕が連れて行くよ。カーラさんとバアルくんはお互いを支え合って行ってもらっていい?」
「リオンくんありがとー!」
僕はエリスさんの前に跪くと後ろから覆いかぶさってきた。こういうとき、柔らかいものを押し付けてくるのはいかがなものだろう。
絶対わざとやっていると思うんだよね。耳に吐息が当たってなんか変な気持ちになってくる。ダメだ。煩悩退散!
何も感じないと体に言い聞かせて奥へと歩いていく。カーラさんとバアルくんのニヤニヤも無視して前だけを見て、外を目指す。
任務遂行を第一にするんだ。
邪念は捨てる。
魔方陣を発動させると外へと転移してこれた。
この怪我では後の休み全てを休養にあてないといけないだろう。
でも、僕だけでも鍛え直さないとダメかも。
あれだけで魔力切れになってちゃ、これから先やっていけない。まだまだ未熟だな。
外へ行くと黒装束の三人が待っていた。
「えぇー? 生きてるじゃーん」
「あれを倒すのか……」
「だから、甘く見るなと言っただろう」
一人はデームくんのようだ。
ってことは、人外魔境か。
優しくエリスさんを下す。
竜斬丸を呼び、戦闘態勢に入る。
魔力はないが、コイツらは刀が効く。
それならやれる。
「おーい、コイツ、大した傷を負ってないよー? 魔力切れくらーい?」
「手ごわそうだな」
「相手にしちゃダメだ。引くぞ」
デームくんは仲間を止めようとしている。
けど、やる気がある一人はこちらへ一歩踏み出す。
「誰が、誰に言ってるのぉー? ボクがやるからー」
懐から手を出すと、両手には大振りのナイフ。
それを構えてこちらへ倒れたかと思ったら、目の前にいた。
僕も反応していたから刀で受け止める。
刃の擦れる音が目の前で響く。
かなりの速さみたいだね。
でも、軽いよ。
前蹴りを放ち、鳩尾を蹴りあげる。
同時に跳躍して威力を受け流したようだ。
だが、刀を振るい、ナイフを払いのける。
これならどうだ。
──ゴッッ
頭突きは予想外だったようで目を見開いて頭を抑えている。その間に首を蹴り飛ばす。
吹っ飛んだソイツは気絶したようで動かなくなった。
「まさか、エースがやられるとは……」
「チッ! だから言ったんだ。引くぞ! また王都でな」
倒れたそいつをつれてデームくんは去っていく。
去っていく背中を見送り、僕たちは一息ついた。
気になる言葉を言い残していったね。
「王都でまたってどういうことだろうね?」
エリスさんが首をひねっている。
「ウチもわかんないけど、王都で何かあったっけ?」
「行事とか? お祭り?」
デームくんは本気で組織に魂を売っているわけではないと思うんだ。だとしたら、考えられるのは僕たちへのメッセージだということ。
「もしかして、王都で何かをする気なんじゃない?」
「それを知らせてきたってこと?」
エリスさんはそんなことあるかなぁと言った風に首を傾げる。皆は知らないかもしれないけど、夜の警備のバイトをしていたデームくんを知っている僕からしてみれば。今の様な事をしていること自体、信じられないんだ。
あんなに街の人達のことを考えていたじゃないか。なんでそんな組織のいいなりになっているんだ。負傷してでも立ち向かえばいいのに。
「そんな気がする。デームくんにも何か事情があるんだよ」
デームくんが組織に立ち向かえない理由、なにかあるのかもしれない。家族を人質にとられているとか?
何か監視の目がついているのだろうか。
だとしたら許せない。
そんな組織、ぶっ潰す。
今回の襲撃を突破したことで、僕たちの強さは認識したはず。何か頭に逆らえない人がいるんだな。牛耳っている奴がいるに違いない。
「そうだよね。とにかく今は体の治療に専念しよう」
「それがいい。そして、王都で何かが起きるかもしれない。それは担任に知らせておこう。国の軍とダイバーを出動させるかもしれないからね」
「それは大事になるね」
「うん。これは、最大の事件となるに違いないよ」
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