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73.それぞれの事情
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「ご飯でも食べようか!」
バアルくんの提案の元、僕たちは屋台で適当にご飯を買っていた。ちょっと静かなはずれの方へと向かっていく。
お祭り会場から離れたところに階段があり、そこにみんなで腰掛けることにした。小さな階段で他にも通り道はあるし、丁度邪魔にならないところだったから。
「リオンくん何買ったの?」
「僕は、パストとヤキゾバ」
「どっちも麺じゃん!」
僕は麺が好きなんだから仕方がないよ。
だってぇ。食べたいんだもの。そういうバアルくんだって。
「自分もヤキゾバパンとチョコパンとハサミパン。パンばっかりじゃん!」
「ハッハッハッ! 美味しいんだからいいじゃないか!」
だったら僕だっていいでしょ。まったく。なにを言っているのやら。
僕の隣にバアルくん、前にエリスさん、エリスさんの隣にカーラさんといった感じに座った。エリスさん達はフワガシと呼ばれる、所謂わたあめを食べている。
そんな物じゃお腹が膨れないだろうに。そんなことを思っているとエリスさんは下の段から見上げてきた。
「リオンくんも食べる?」
思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。というのも、エリスさんが見上げているということは僕は見下ろしているのだが。
顔のすぐ下。少し動いてはだけたのだろうけど、柔らかそうな双丘が視界に入ってきた。この位置は神か……。
「う、うん。少し貰うね」
フワガシに何とか視線を移動して少し摘んで食べる。さっきの映像が目に焼き付いて離れない。これじゃあ、話す度に視界に入ってしまう。
「美味しい?」
「うん。甘くて美味しいね」
必死に目を見て話すようにしているのだが、目が滑って違う方に視線が行ってしまう。これは仕方ないんだと言い聞かせる。
「私ねぇ。こんな風に友達とどこか行ったりするの。実家に帰るとできないんだぁ」
「そうなの?」
「うん。私、一人娘なんだけど、甘やかされて育ったんだ。しかも、家から出るのにはパパの許可が必要なの」
「そうなんだ。心配なんだね」
相当心配性のお父さんなんだろうね。家から出るのにいちいち許可が必要なんて大変なことじゃないか。
「でもさ、よくダイバー学院に通うのは許してくれたね?」
「最初は反対されたの。でも、ダイバーになりたいって粘って学院を受けさせてもらったの。しかも、転移魔法陣整備してやるから通えっていわれて……」
「転移魔法陣って開通するのに一億ゴールドくらいかかるよね?」
「そうなの。一応、私の家、伯爵だから……」
思わず目を見開いてしまった。まさか伯爵令嬢だったとは。それがダイバー学院で寮生活となれば大変な心配をしているんだろうね。
「毎日端末に連絡が来るんだ。今日は何があったかとか」
「えっ? 襲撃されたのとかは……?」
「それは言ってない。たぶん、話したら辞めて帰ってこいって言われると思う。それだけは絶対に嫌なの。私はみんなと卒業したい。せっかくできた友達なのに……」
「それは僕たちも同じ気持ちだよね?」
視線を隣に巡らせるとウンウン頷いている。みんな段々と暗い感じになってきた。
「実はオレも親には襲撃されたのとかは話してないんだ。オレ自体は三男なんだけど、一応、跡取りとして考えられているからね。だけど、無理言ってダイバー学院に通わせてもらっているから……」
バアルくんもどこかの貴族の子供だったみたい。首席の挨拶とかしてたから、さぞご両親は嬉しかっただろうね。
自慢の息子を跡取りにいたいってことなのかな。三男ってことは上に二人いるんだろうけど。
「兄貴たちは好き勝手に軍の方に入っちゃって。家業を継ぐ気は無いらしいんだ」
「あれ? どっかの貴族とかじゃないの?」
「はははっ。まさか。お金はあるだろうけどね。商人の家なんだ。だから、家業は卒業したら勉強することになるんだ。商人でも、戦えればいいだろうってことで入学を許可してもらって」
「そうなんだ。なんか。月並みだけど、大変だね。商人は人と良く接する仕事だもんね」
「人との関係を作るため、その為にここへ来たような所もあるんだ」
それはなんかわかる気がする。
僕も学院に来て自分の視野が広くなったような、そんな気がするから。
「ウチは皆が羨ましい。申し訳ないけど、ウチは強くなりたい。実家はお金ないし……ダンジョンに潜って稼ぎたい。だから、学院に入ったの。お願いがあるの。リオンくんに強くなる方法を教えて欲しい!」
「うーん。僕が教えられるかなぁ」
「オロチさんの修行はキツイし、強くなるのもわかる。けど、なんかウチには合わない気がして。強くはなっていると思うんだよね。でも、なんか違うっていうか」
「うーん。たしかに、あれが合わないんだったら僕は教えられる事があるかもね。合わない部分は自分で訓練して補っているから」
少し上を見上げて記憶を遡る。自分の訓練を思い出しながら教えられることを思い出していた。
「はい! 何でもします! お願いします!」
深々と頭を下げてくるカーラさん。参ったなぁ。
「女の子が何でもしますなんて言うもんじゃないよ?」
「リオンくん、オレからも頼みます! カーラさんを助けてあげて欲しい。オレは鍛えてあげられるほど強くない。悔しいけど……リオンくんなら、任せられる」
「うん。わかった。じゃあ、年末休みは休みを返上して修行しよっか!」
「はいっ! お願いします!」
再び勢いよく頭を下げるカーラさん。こうして僕はカーラさんを鍛えることになった。
けど、祭りは楽しみたいよね。
バアルくんの提案の元、僕たちは屋台で適当にご飯を買っていた。ちょっと静かなはずれの方へと向かっていく。
お祭り会場から離れたところに階段があり、そこにみんなで腰掛けることにした。小さな階段で他にも通り道はあるし、丁度邪魔にならないところだったから。
「リオンくん何買ったの?」
「僕は、パストとヤキゾバ」
「どっちも麺じゃん!」
僕は麺が好きなんだから仕方がないよ。
だってぇ。食べたいんだもの。そういうバアルくんだって。
「自分もヤキゾバパンとチョコパンとハサミパン。パンばっかりじゃん!」
「ハッハッハッ! 美味しいんだからいいじゃないか!」
だったら僕だっていいでしょ。まったく。なにを言っているのやら。
僕の隣にバアルくん、前にエリスさん、エリスさんの隣にカーラさんといった感じに座った。エリスさん達はフワガシと呼ばれる、所謂わたあめを食べている。
そんな物じゃお腹が膨れないだろうに。そんなことを思っているとエリスさんは下の段から見上げてきた。
「リオンくんも食べる?」
思わずゴクリと喉を鳴らしてしまった。というのも、エリスさんが見上げているということは僕は見下ろしているのだが。
顔のすぐ下。少し動いてはだけたのだろうけど、柔らかそうな双丘が視界に入ってきた。この位置は神か……。
「う、うん。少し貰うね」
フワガシに何とか視線を移動して少し摘んで食べる。さっきの映像が目に焼き付いて離れない。これじゃあ、話す度に視界に入ってしまう。
「美味しい?」
「うん。甘くて美味しいね」
必死に目を見て話すようにしているのだが、目が滑って違う方に視線が行ってしまう。これは仕方ないんだと言い聞かせる。
「私ねぇ。こんな風に友達とどこか行ったりするの。実家に帰るとできないんだぁ」
「そうなの?」
「うん。私、一人娘なんだけど、甘やかされて育ったんだ。しかも、家から出るのにはパパの許可が必要なの」
「そうなんだ。心配なんだね」
相当心配性のお父さんなんだろうね。家から出るのにいちいち許可が必要なんて大変なことじゃないか。
「でもさ、よくダイバー学院に通うのは許してくれたね?」
「最初は反対されたの。でも、ダイバーになりたいって粘って学院を受けさせてもらったの。しかも、転移魔法陣整備してやるから通えっていわれて……」
「転移魔法陣って開通するのに一億ゴールドくらいかかるよね?」
「そうなの。一応、私の家、伯爵だから……」
思わず目を見開いてしまった。まさか伯爵令嬢だったとは。それがダイバー学院で寮生活となれば大変な心配をしているんだろうね。
「毎日端末に連絡が来るんだ。今日は何があったかとか」
「えっ? 襲撃されたのとかは……?」
「それは言ってない。たぶん、話したら辞めて帰ってこいって言われると思う。それだけは絶対に嫌なの。私はみんなと卒業したい。せっかくできた友達なのに……」
「それは僕たちも同じ気持ちだよね?」
視線を隣に巡らせるとウンウン頷いている。みんな段々と暗い感じになってきた。
「実はオレも親には襲撃されたのとかは話してないんだ。オレ自体は三男なんだけど、一応、跡取りとして考えられているからね。だけど、無理言ってダイバー学院に通わせてもらっているから……」
バアルくんもどこかの貴族の子供だったみたい。首席の挨拶とかしてたから、さぞご両親は嬉しかっただろうね。
自慢の息子を跡取りにいたいってことなのかな。三男ってことは上に二人いるんだろうけど。
「兄貴たちは好き勝手に軍の方に入っちゃって。家業を継ぐ気は無いらしいんだ」
「あれ? どっかの貴族とかじゃないの?」
「はははっ。まさか。お金はあるだろうけどね。商人の家なんだ。だから、家業は卒業したら勉強することになるんだ。商人でも、戦えればいいだろうってことで入学を許可してもらって」
「そうなんだ。なんか。月並みだけど、大変だね。商人は人と良く接する仕事だもんね」
「人との関係を作るため、その為にここへ来たような所もあるんだ」
それはなんかわかる気がする。
僕も学院に来て自分の視野が広くなったような、そんな気がするから。
「ウチは皆が羨ましい。申し訳ないけど、ウチは強くなりたい。実家はお金ないし……ダンジョンに潜って稼ぎたい。だから、学院に入ったの。お願いがあるの。リオンくんに強くなる方法を教えて欲しい!」
「うーん。僕が教えられるかなぁ」
「オロチさんの修行はキツイし、強くなるのもわかる。けど、なんかウチには合わない気がして。強くはなっていると思うんだよね。でも、なんか違うっていうか」
「うーん。たしかに、あれが合わないんだったら僕は教えられる事があるかもね。合わない部分は自分で訓練して補っているから」
少し上を見上げて記憶を遡る。自分の訓練を思い出しながら教えられることを思い出していた。
「はい! 何でもします! お願いします!」
深々と頭を下げてくるカーラさん。参ったなぁ。
「女の子が何でもしますなんて言うもんじゃないよ?」
「リオンくん、オレからも頼みます! カーラさんを助けてあげて欲しい。オレは鍛えてあげられるほど強くない。悔しいけど……リオンくんなら、任せられる」
「うん。わかった。じゃあ、年末休みは休みを返上して修行しよっか!」
「はいっ! お願いします!」
再び勢いよく頭を下げるカーラさん。こうして僕はカーラさんを鍛えることになった。
けど、祭りは楽しみたいよね。
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