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62.ドラゴンソウル

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 真っ暗な中で立っているバアルくんに僕は声をかけていた。

「バアルくん! 無事だったんだね! よかった!」

 しかし、バアルくんは無反応。
 ただ立っているだけ。
 不思議に思い、首を傾げた。

 すると、バアルくんの脇腹に突如穴が空いた。

「バアルくん!」

 手を伸ばしたが、バアルくんは倒れて消えていく。

 嫌だよそんなの。
 バアルくんがいなくなるなんて考えられない。
 僕の最初の友達。

 なんで穴が空いたの?
 バアルくん!
 
 くそっ。僕が情けないからなのか?
 油断したから。
 自分が弱いからいけないんだ。

 こういう時に、力をセーブしている場合じゃないんだ。
 こんな簡単な事をバアルくんがこんなになってから気が付くなんて……。
 バアルくん。

 暗闇に光が差し込んでくる。
 目に入ったのは立ったままエリスさんとカーラさんの前で盾になり、脇腹に風穴を空けているバアルくんの姿。倒れてもいない。立って耐えている。

 そのバアルくんはこちらを振り返った。口が動いてる。「大切な人は守ったよ。後はよろしく」だって。ははははっ。カッコ良すぎるよ。任せて。僕がアイツは始末する。すぐに助けるからね。

「うらあぁぁぁっ!」

 体に力を入れ、立ち上がる。
 フォレストドラゴンに対しての怒りと自分の不甲斐なさに対しての怒りで頭が沸騰しそうだ。熱が上がっているのがわかる。

「僕の仲間を傷つけた。ドラゴンは好きだよ。でも、君は、許さない」

 視界が緑に包まれていく。
 力が体の奥底から湧き出てくる。
 なんだか、今まで扱ってきた力を超える力を発揮できる気がする。

「ガァァァルルルゥゥ」

 再びドラゴンは背中に生えている木を射出してきた。僕を脅威に感じたのだろうか。攻撃は全方位だったので違うかもしれない。ただ、こちらを睨みつけている。

 飛んできた木は竜斬丸を振るい、連続して斬撃を飛ばすことで輪切りにした。すべての木が着弾する前に細切れとなり、地面へと音を立てて落ちる。

 体が軽い。今までの体ではないような。翼が生えた様な気さえする。
 この感じはもしかしたら、父さんに聞いていた状態かもしれない。

 父さんも仲間とダンジョン攻略をしていてピンチに陥ったことがあるという。その時に仲間と自分が負傷してどうしようもない状況に陥ったんだそうだ。自分が仲間を庇って魔物に立ち向かったんだとか。その時に不思議と体の奥底から力が漲ってきたんだとか。

 その父さんの言っていた状態は、まさしく今この状況に酷似している。父さんはこの状態を自由自在にコントロールできるようになったんだとか。その時に使っている名は『ドラゴンソウル』。『竜魂《りゅうこん》』と呼ぶ人もいる。

 信頼している仲間から力を貰うこの状態は、魔力、体力、瞬発力。すべての能力が格段に上がっている。今の僕に敵はいない。

 前傾姿勢になり地面スレスレで、踏み込む。
 踏み込んだ衝撃で、地面が割れてめくれあがる。
 瞬時にバアルくんたちは視界から消え、すぐ近くにフォレストドラゴンが迫る。

 刀を振ろうとするが、ドラゴンも反応していた。尻尾を振って僕を弾こうとする。この速度に対応してくるなんて流石はS級。

 だけど、僕はそんなんじゃ捕らえられない。跳躍して避けたが、それは誘いだったようだ。また背中に生えそろった木を振るってこちらへと飛ばそうとしている。

 同じ攻撃を食らうつもりはない。
 面倒だ。
 天上へと足を着けてドラゴンへ向けて踏み込んで落下する。

 一瞬で消えていく流れ星のように、このダンジョンの空を綺麗に彩る。本来はこうやって使うものではないのだが、今回は仕方がない。

「竜の如く食い破ってやる。くらえ。ドラゴンダイブ」

 僕自体が竜を模したモノとなり落下していく。
 このスピードは避けられないだろう。
 大きい図体だったのが裏目に出たな。

 木と木の間をかいくぐり、本体へと攻撃するべく落下していく。僕が落下したことで攻撃を繰り出していたブルーさんと担任が一旦下がった。

 申し訳ないけど、邪魔なんだよね。
 だから、どいてくれてよかった。
 僕は引き絞った拳を振り下ろした。

 ──ズゥゥゥゥンンンッッ

 地震の様なくらい地面が揺れる。
 それほどのパワーが内包されていたんだろう。

「グゥゥルルルゥゥ」

 苦しそうなうめき声をあげるドラゴン。
 これでしばらくは動きを取れないだろう。
 そう思ったのだが。

 尻尾で反撃してきたのだ。
 だが、その攻撃は自分の背中を攻撃するということにも気が付かず、そのまま尻尾を振り下ろしていく。

 案の定自分の背中を尻尾と尻尾に生えている岩で傷つけた。自分自身の渾身の攻撃だったんだ。フォレストドラゴンは一たまりもないと思う。
 
「グルルルァァ」

 フォレストドラゴン背中を血が流れていく。
 自分の体を傷つけるとは僕も予想外だ。
 ドラゴンの割りに知能が低くて助かった。

 この隙を見逃すはずもない。
 僕は再び跳躍すると刀を最上段へと構え、渾身の力で振り下ろした。

 ──ズバァァァンッッ

 フォレストドラゴンの首が飛んで行く。
 力なく崩れ落ちたフォレストドラゴン。
 僕は力が抜けていくのを感じ。

 なんとかボスを倒せたことに胸をなでおろしていた。

「バアルくん!?」

 エリスさんの悲鳴が響き渡った。
 ドラゴンソウルを使えたことで興奮していた僕の頭から、薄情なことにバアルくんの現状が抜け落ちていたのだ。
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