上 下
44 / 88

44.遠い強さ

しおりを挟む
「ねぇ、そんなこと言って大丈夫なの?」

 エリスさんは心配そうに表情を曇らせる。

「大丈夫。これは僕に注意を引きつけるためなんだ。もしかしたら、クラスメイトが捕らえられているかもしれない」

 このダンジョンが先輩に支配されていると思う。それを前提として考えると、このダンジョンに転送されてしまったクラスメイトは捕らわれていると考えられる。

 アイツらは捕らえたクラスメイトになにかするかもしれない。それを阻止するためには、こっちに注意を引きつける必要がある。

「なるほど。さすがリオンくん。そこまで考えているとはね」

 褒められて少し照れてしまう。
 表彰は髪と襟で隠れているから分からないよね。良かった。顔が見えづらくて。

 エレベーターはまた上昇を始め、止まって口を開けた。

 僕がさっきの宣言をしたことで、バアルくん達はもう観客と化していた。
 開いた先にはオーガロードとオーガジェネラル、その他はオーガが数十体。

 結構な戦力を用意できるんだなぁと感心した。でも、この魔物を出すためにダンジョンコアへ込める一人の魔力の限界値ではないかと思う。

 オレンジ先輩は頑張ったけど、これまでじゃないかな。

「「「ガァァァァァァ!」」」

 一斉に咆哮を上げながらこちらへと駆けてくる。随分と好戦的だ。魔力の持ち主の気持ちも汲んでいるようなきさえする。

 僕もやろうかな。
 下半身を沈め、一気に加速する。
 一瞬で肉薄。

「ふっ!」

 オーガが持っていた棍棒を振り下ろしてくるタイミングでの切り上げになってしまった。だが、気にせず振り切りに行く。

 オーガは笑みを浮かべた。自分の棍棒で対抗できるとのだろう。僕の刀は竜斬丸だよ?

 触れた棍棒をバターの様に切り裂き、そのままオーガを首を切り落とした。目を見開いていたオーガだったが、そのまま絶命。

 オーガは割と知性が高い。その為、フェイントとかも仕掛けてくるし、しっかりと防御もする。ゴブリンとは大違いだ。

 だが、僕にとっては対して変わらない。振る刀で二体の体を袈裟に真っ二つにし、横に薙げば三体の首を撥ねた。

 まだオーガはいる。けど、その子分たちを蹴散らしながら掛けてきたのはゴブリンジェネラル。かなり好戦的なようだ。

「ガァァルァァァ!」

 持っていた剣を振り下ろしてくる。切り上げて弾く。流石にナマクラではなかった。切り落とせないところを見るとそれなりの業物だろう。

 通用すると思ったのかオーガジェネラルは口角を吊り上げた。

「ふふっ。それだけで勝てる気になってるの?」

 弾かれたオーガジェネラルは大上段からの力任せの振り下ろしを放ってきた。僕を捉えられる太刀筋だ。

「流《ながれ》」

 振り下ろされた剣に刀を添えて横へと押すことで受け流す技。

 ──ドゴォオォッ!

 すぐ横の地面が剣でえぐれる。
 だけど、それだけだよ。
 こんな大きな隙を僕が見逃すわけないよね?

 受け流した刀を今度は刃を返して切り上げる。

「ガッ!」

 下半身から上半身にかけて斜めに切られたオーガジェネラルは切られたことに気が付かず、剣を振りあげようとして身体がズレ落ちる。

 それを見ていたオーガロードが怒りを露わにする。

「ゴォォガァァァァ!」

 足を地面に打ち付けて地団駄を踏み、怒りを露わにしている。

 仲間がやられて怒っているのかな?
 でもね、それはおかしいよ。
 君には関係ないかもしれないけど、クラスメイトを捕らえているのはそっちだ。

 僕はね。仲間を助けるためなら、鬼にでもなるんだよ?

 なんだか、頭に血が上って来たなぁ。

 魔力を体に纏わせると緑のオーラが吹き出した。僕のオーラはね。髪の色と同じ緑なんだ。このオーラが出た僕は強いよ?

「ガァアァァッ!」

 さっきのジェネラルより大きな剣を構えたオーガロードは怒りに任せて叩きつけてくる。

 ふふふっ。そんなもので、僕の刀を止めることはできないよ。

 ──リィィィン

 甲高い音が鳴り響き、オーガロードの後ろに降り立つ。オーガーロードは微塵切りになり、ゴロゴロと転がった。


◆◇◆

 バアルは見学していたが、目を見開いていた。

「リオンくんはどこまでの高みに昇って居るんだろうね」

「私たちには、まだ到底辿り着けない所に居るんだよね」

「ウチは、それはなんか悔しいよ」

 オレが呟くと、エリスさん、カーラさんも続いて呟いた。リオンくんははるか遠くの強さがある。

 僕たちが見ている中、一瞬で距離を詰め、一瞬でオーガを葬った。オーガはCランクの強さがある。ジェネラルはBランク、ロードはAランクだ。

 それをリオンくんは一瞬で葬った。全く、敵わないな。オレたちがどれだけ頑張っても遠く離れて行くんだもんなぁ。

「私たちも頑張らないとね。隣に並ぶためだもん」

 エリスさんの目は未来を見据えて強い。オレだって負けない。カーラさんだって、メキメキと魔法の威力がアップしてる。

 オレは、剣術と魔法の両方が使える魔法剣士を目指してるんだ。リオンくんはもうオレの考えている魔法剣士を超えているんだけど。 

「そうだね。リオンくんへ追いつくために、しっかりと戦いを目に焼き付けておこう」

「そうね」
「そうだね」

 エリスさんとカーラさんは深く頷くと、目をギラギラとさせていた。

 リオンくん、オレ達はまだまだ強くなるよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル 14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり 奥さんも少女もいなくなっていた 若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました いや~自炊をしていてよかったです

処理中です...