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23.敵でも助けるのが僕

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 雷の魔法を放つ生徒を撒いた後。

 なんで見つかったのか思考を巡らせていたのだ。
 理由はすぐにわかった。
 ただ、デカいから。

 これは盲点だった。
 周りの木々も大きいため隠れていると思っていたのだが、背が高ければ見つかりやすいのは当然のことだった。

 腰を落として歩くことにした。
 腰が痛くなりそうだけど仕方ないね。
 魔物にも見つかりにくいだろうし。

 草をかき分けて進む。
 わずかに僕の耳に音が聞こえてきた。
 サラサラという音。

 音のする方へと歩を進める。
 少し先に開けた場所がある。
 狼型の魔物がいるではないか。

 少しヒンヤリとするその場所で水分補給を行っていた魔物。
 本来であれば隙をついて狩るんだけど。
 なんだか、狩らなくてもいいかと思えてそのまま観察してしまった。

 少しすると奥の方へと消えて行く。
 この空間はこの競技会のために即席で作った空間だというが、魔物を入れている空間である以上は生態系が存在するということだ。

 それを壊すというのも僕にはなかなかしづらい。
 里にいた時は襲われない限り、魔物を狩ることはなかったからだ。
 竜人という種族は竜と共存する種族なのだ。

 だから、魔物にも友好的な感覚の持ち主は多いんだよね。
 
 水袋を川の中へと入れる。
 ヒンヤリと冷たい水が手を仄かに赤く染める。

「くぅぅ。冷たいなぁ」

 他の種族より鋭い爪が露わになり自分が竜人であることを知覚させる。
 僕は竜人になったんだもんなぁ。

 ──ガサガサッ
 咄嗟に林の中へと隠れる。

 すると見たことない黒髪の男子生徒が同じように水袋へと水を補給していた。
 攻撃するようなことはしない。
 黒髪とは珍しい。前世では普通だったが、この世界ではあまりいない。

 その生徒も慎重に水袋を川の中へと入れて水を汲んでいる。
 さらに奥から木の擦れるような音が響く。
 何か来たようだ。

 デカい図体がのそっと姿を現した。
 ワイルドベアだ。
 比較的好戦的な魔物。

 その生徒は目を見開き、ゆっくりと下がっていく。

「ガァァァ!」

 ワイルドベアの視界に入ってしまったようだ。怒りを露わにしながら襲い掛かってきた。

 僕のクラスメイトではないし。見ないフリをしようとしたのだ。

「うわぁぁぁ! くるなぁぁぁ!」

 腰に下げていた剣を振り回して応戦しようとしている。
 それは、ワイルドベアへは悪手である。
 よけいに怒らせてしまう。

「ガァァァ!」

 鋭い爪を上段へと構え、振り下ろしてくる。
 目立ちたくない。だから助けない。
 それはいいことなのか?

 同じ生徒だろう?
 しかし、敵対しているクラスだ。
 命の危険はないという。

 でも本当か?
 一撃で命を落としたら助けられるのか?
 そこまでの結界が張ってあるというのか?

 そこまで魔法は

 気が付けばワイルドベアの腕を抑えて取っ組み合っていた。
 胸へと向けて抜き手を放つ。

「ガァッ!」

 断末魔を上げ、ワイルドベアは力尽きた。
 後ろの様子を見ると男子生徒が口を開けて呆然としていた。

「無事だよね? 逃げたら?」

 コクリと頷くそそくさと林へと入っていく。

「あ、あの……ありがとう」

 あの生徒はくすんだグレー。アイアンのバッチだった。
 一番下のクラスか。

 学院のクラスは僕のいるのは黒いバッチのアダマンタイトクラス。
 下が、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアンと全部で5クラスある。

 アイアンは、落ちこぼれと言われているクラス。さっきのを見るとまともに狩りをしたこともないのだろう。

 そんな生徒を二日間もこのジャングルへと滞在させるというのか。なんと残酷な事か。

 僕だってこの体じゃなければ、さっきの子みたいになっていたかもしれない。

 親に恵まれなければ同じ道を辿っていただろう。そう思うと他人事には思えなかった。

「どこか、安全なところで隠れていた方がいいよ?」

「う、うん。あなたは、有名な黒襟さんだよね?」

「僕が有名? 誰かと間違てるんじゃない?」

「どうして助けてくれたの? 黒襟さんは容赦なくて恐くて、非道だって噂になってる」

 それはどんな噂だよ。
 誰だそんな噂流したの?
 酷いなぁ。何もしてないのに。

「たださ、放っておけなかっただけだよ」

「ありがと」

 その男子生徒は再びお礼を口にすると林の中へと逃げて行った。

 あの生徒は、二日間はもたない気がする。どこかで軽い傷を負って場外にとばされればいいけどね。どうか、命にかかわらない怪我でありますように。

 密かにそんなことを祈りながら、目の前で絶命したワイルドベアを地面へと寝かせる。

 腰から解体用のナイフを取り出して解体していく。
 討伐部位だけ必要とのことなので、爪を取得する。
 その他にも食料として肩の部分の肉を取り出す。

 肩ロースである。
 筋肉があって引き締まっているので脂分が少なくておいしい。
 さっきの生徒にも分ければよかったかな。

 まだまだ、競技会は始まったばかりだ。

◇◆◇

 教師たちはその頃。

 競技会の移動カメラが撮っているいくつかのカメラ。それの映像を確認していた。

 この映像は実は大々的に配信されている。どんな一年がいるか、それを先輩方もチェックして自分たちのパーティ。もしくはクランへと勧誘する為に観察しているのだ。

 クランというのは同じ目的を持った人たちが集まるグループである。
 
「バアルとエリス、カーラの辺りは、なんだか一段と頼もしくなったじゃねぇか。何があったか知らねぇがいいねぇ」

 担任が映像を見ながら呟く。

「これは、黒襟くんが何か成長に一役買ってくれたんでしょうかねぇ?」

 その呟きに歴史の教師が反応する。

「それはあるかもしれねえな。その黒襟も洗練された雰囲気になってたが、この競技会ではまったく動かねぇな?」

「っと思ったらほら」

「アイアンの生徒助けてるんじゃねぇ! 何やってんだアイツ!」

「まぁ、討伐部位とってるからいいじゃないですか」

「ったく。まぁ。様子見るか。アイツなら小さな大物をゲットできるかもなぁ」

「このジャングルに一体だけ最高ポイントのアイツがいますからね」

◇◆◇

 このジャングルには小さい大物の何かがいるようだ。
 果たして、最高ポイントは誰の手に?
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