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38.共に

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「おっ! 心は決まったか!?」

 手を挙げて待ち合わせ場所で待っていたのはガイエンであった。
 カラッとした笑顔で俺を出迎える。

 俺は結構悩んだ。
 ラブルにも相談して、シエラにも相談した。
 なのにコイツは呑気なもんだ。
 まぁ、こういうところも好かれる所なのかもしれないが。

「あぁ。時間取ってもらってすまないな」

 俺もなるべくカラッとした笑顔で返事を返すようにする。
 自分では出来ているかは分からないが。
 手を挙げて平然を装う。

「で? 俺のクランに入ってくれるのか?」

 向かい側の椅子に腰かけると、単刀直入に聞いてきた。
 こういう所が凄い。
 俺が少し迷っていた事を悟っているかのような。

 早く答えをきかせろと急かされているような。
 そんな様な聞き方にも聞こえてくる。

「そう焦んなよ。あのな、今回のことはかなり大きな決断になると思うんだ……」

「あぁ、そうだろうな……」

「ラブルと……シエラにも相談したんだ」

 そこで、ガイエンの顔が少し曇った。
 シエラに俺が何か聞いたかと思っただろうか?
 それとも、なにか喋ったのかが気になったんだろうか。

「シ、シエラは……なんて?」

 シエラが何を言ったのかが気になるのか?
 大してなんも言われてないがな。

「何をそんなにビビってる?」

「ビビってなんかない! ただ……シエラが……何を言ったのかと思ってな」

「まぁ、いいよ。結論から言う」

「おう」

「……クランには……入れない」

「そうなったのか……」

 ガイエンがガッカリしたように俯いた。
 俺達は期待には答えられない。
 しかし、考えはある。

「けど、情報は欲しい。だから、こちらの重要な情報を開示する代わりに、情報をくれないか? それに、図々しいかもしれないが、最前線には行ってみたいと思ってんだ」

 キョトンとした顔で呆然と俺の顔を見て目をパチパチさせている。
 急にガッハッハッと笑いだした。

「お前達本当に図々しいぞ! けど、こっちにも利益になる情報なんだろうなぁ!? ハッハッハッ!」

「実は、それは分からない。けど、こっちは秘密にしてきたことだ」

 俺は、なるべく真剣に。
 重大な報告をする時のように重苦しい雰囲気を漂わせてガイエンを見つめる。
 ここで軽い情報だと想われたら取引が出来なくなるかもしれないからだ。

「秘密……か。そんなこと、話していいのか?」

「これは、ガイエンだから話すんだ。それ以外だと、クランメンバーしか知らない」

 ガイエンも真剣な顔になる。
 姿勢をただし、手を組んで話を聞く体制をとる。
 二人の間を緊張感が漂う。

「それは重要だな………………わかった。こっちも対価に情報を渡そう。それで、クラン同士の同盟関係はそのままにしよう。どうだ? それなら、前線に一緒に行けるだろ?」

「そうだな。それだとウチも助かるよ」

「それじゃあ、聞かせてもらおうか?」

 前屈みになるガイエン。
 どんな秘密か気になるんだろう。
 こちらに顔を近付ける。

「俺は罠師だ。それで、こんなに魔物を討伐出来るのがおかしいと思わないか?」

 秘密を打ち明ける前に、何だかクイズ形式で質問したくなってしまった。
 ガイエンもその目論見にのり、真剣な顔で顎に手を当てながら考えているようだ。

「それは、俺もずっと疑問を抱いていたんだ。何故あんなに罠を張れる? 知り合いにも罠師がいるが、あんなに罠のバリエーションがあると知らなかった」

 また逆にこちらに質問してきた。
 その疑問は当然の疑問で、罠師を知っている人は皆疑問に思うだろう。

 そう。
 普通の罠師があのバリエーションの罠を作成するのは無理なのだ。
 それは何故か。
 罠の作成がDEX依存だから。

「それはそうだろうな。普通の罠師では、このバリエーションの罠を作成することは難しいだろう。無理ではない。しかし、かなりの時間を要するだろう」

 そう聞くとガイエンは怪訝な顔になる。
 訝しげにこっちを見ている。

「まさかチーターか?」

 ははは。
 そうなるか。
 まぁ、普段出来ない事をできるとなるとそうだよな。

「いや、俺は誓ってチート行為はしていない」

「じゃあ……」

「俺は、たまたま訪れた未知の領域と谷底で、あるアクセサリーを発見したんだ」

「……アクセサリー? まさか……」

「? 何か知ってるのか?」

「いや……」

「実はな……DEXがMAXになるバングルを取得したんだ」

 目を見開いてガイエンが黙り込む。
 それはそうだろう。
 こんな話信じられるわけが無い。

 しかし、次に出てきた言葉にこちらが驚愕する。
 予想だにしていなかった。
 まさか……

「お前もか……」

「!? どういう事だ!?」

 お前もかとはどういう事だ?
 同じDEXがMAXになる装備が他にあるって言うのか!?

「あぁ、お前のとは違うが、俺のはSTRがMAXになるバングルだった。けど、ソアラのとは違うようだ」

「ガイエンも同じような装備を持ってたのか!?」

「あぁ、そうだが、ソアラの言い方だとDEXがMAXになるだけで他にデメリットは無いんだろう?」

「あぁ。DEXにしか作用はしない」

 ふぅと一息吐くと「この事は本当に秘密にして欲しい」と小声でガイエンに釘を刺される。

「俺のは、ほかのステータスが全てゼロになる」

 衝撃の言葉に目を見開いて言葉を失う。

 なに?
 STRがMAXになる代わりにその他がゼロになる?
 そんな装備ありかよ。

「かなりトリッキーだろ? だから、ホントに誰にも言ってないんだ。クランのメンバーにも言ってねぇ」

「なんで、俺には話した?」

「そうだなぁ。何でだろうな? 黙ってりゃ良かったんだろうが。そうはしたくなかった。そんな事をすれば、後々ソアラからの信頼を失うことになるかもしれない」

「だが、リスクが大きいだろうが!?」

「けど、ソアラは誰にも言わないだろ? 同じ秘密を抱えてるんだからな」

「そうだけど……」

「まぁ、良いじゃねぇか! 秘密をお互いに抱えて攻略を楽しもうぜ!」

「そんなにトリッキーだと、普段からは付けれないだろ?」

「あぁ、セカドタウンの服屋で何回も試着してると装備の換装スキルが手に入るんだ。それで、いざと言う時は換装できるようになっている」

「気になってたんだけどさ、この前のイベントの最後……本当にトドメを刺したのは……ガイエンだよな?」

「…………バレちまってたか」

 椅子から手と足を投げ出して天を見上げてそう言う。

「上手くやったと思ったんだけどなぁ」

 天を見ながら言う。
 俺には疑問だ。
 最初から自分がやった事にすればいいのに。
 何故、俺がやった事にしたのか。

「何故、俺がやった様に皆の思考を誘導したんだ?」

「あぁ。ソアラが活躍して前線に来てくれれば……」

「シエラか?」

 下を向いてモジモジしている。
 俺が考えてることが正しければ、かなりお子ちゃまな理由だ。

「だぁぁぁ! そうだよ!? もう一回シエラと一緒にゲームで遊びたかったんだよ! 笑えばいいだろ!?」

 取り乱したガイエンがワタワタしている。
 そしてこちらを睨みつける。
 
「笑わないさ。お互いに秘密を明かして対等な立場だ。同盟クラン同士、共に戦おう」

「……フッ。そうだな。頼んだぜ?」

「わかったよ」

 これから共に歩むことになる仲間ができた瞬間であった。
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