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1.まさかの転生

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 はぁ?
 どういう事これ?

 俺は骨の手を見つめながら絶望するのであった。
 この状況を説明するには少し時を遡る必要がある。

 前世で俺は剣聖と呼ばれていた。
 死に物狂いで努力したからだ。
 前のような惨めな思いをしたくないから。

 剣聖と呼ばれる前は日本という国でサラリーマンをしていて過労死したんだ。
 孤独死。
 惨めだった。
 青春時代には剣道をしていた。

 だから、転生した時、剣なら頑張れる。
 そう思った。
 そして剣聖になり、皆から尊敬されるような人間になれた。

 しかし、剣にばかり打ち込んでいた俺はまたも独り身で孤独死してしまったんだ。
 なんだか煮え切らない思いだった。
 その想いがまた神に届いたのか、俺は転生できた。

 出来たんだけど、骨。
 体を見ても骨、骨、骨。
 全身骨だった。

 胸のところに青い炎のようなものがあって、ここが急所なんだろうなとわかる。

 周りを見ると薄暗い洞窟のような所。
 所々の天井から滴が地面に落ちて水溜まりを形成している。

 その水溜まりに顔を写すと。
 頭も骸骨だった。
 んー。これってスケルトンかな?

 前世にも魔物がいて、恐らくそうだと思うんだけど。
 生まれたばかりなんだろうか。
 何も持ってはいない。

 前世のスケルトンっていえば、剣を持ったり盾を持ったりしてたと思うんだけどなぁ。

「──────ってんだよ!」

 ん?
 曲がった先からなにか聞こえるな。

「テイマーなんか囮になって俺達の役に立てってんだよ!」

 テイマー?
 どういう事だ?
 顔を出してみる。

 不思議だよな。
 この体。
 目なんてないのに見えるんだよな。

 蹴られた女の子がゴブリンの群れの前に放り出される。
 ゴブリン如きの群れを倒すほどの実力もなく。
 仲間を置き去りにしたのか。

 最低だな。
 反吐が出る。

 女の子を置き去りにしてそのまま去っていく人影が見える。
 俺は女の子の前に出た。
 女の子を見捨てるなんて俺にはできない。

 この体は軽い。
 関節もあるんだかないんだか。
 可動域はかなりのものだと思う。

 得物さえあればいけるんだが。

「えっ!? スケルトン!?」

 振り返ると驚愕の表情をしている女の子。
 腰には剣を差している。

「カタカタタタ(その剣貸して?)」

 声帯がないため、歯と歯が噛み合う音が鳴るだけ。
 ジェスチャーで伝える。

「えっ? なに? この剣が欲しいの?」

 コクコク頷く。
 手招きしてそれを欲しいと伝える。

 不振な顔をしながらも剣を引き抜いて渡してくれた。
 剣を見る。
 うん。いい剣だ。

 ゴブリンの群れが迫ってくる。
 剣をダラリと構える。

 右、左、正面。
 迫り来るゴブリンを切り伏せていく。
 後ろからも迫ってくる。

「スケルトンさん! 危ない!」

 ゴブリンの攻撃は素通りする。

 ストロング流剣術 幻剣術

「カタタ(現《うつつ》)」

 攻撃したゴブリンを後ろから袈裟斬りに切り裂く。
 倒れるゴブリン。
 リーダーらしき大きなゴブリンが現れた。

 ホブゴブリンだろうか?
 だから群れを作っていたのか。
 ゴブリンにそこまでの頭はないはずだからな。

 ホブゴブリンなら賢いから納得だ。

「えっ!? ホブゴブリン!? こんな……Dランクモンスターが出るなんて! Eランクのスケルトンには無理よ!」

 この身体でいけるか?
 今のところ動きに特に問題は無い。
 しかし、余り力を入れると剣が持たない。

「ゴブゴブッ!」

 棍棒で叩きに来た。
 スッと横に避け、太ももを切りつける。
 そのまま後ろを取る。

「コブァ!」

 斬られたのが気に入らなかったのだろう。
 棍棒で薙ぎ払ってきた。
 体を仰け反らせて躱す。

 不思議とどこまでも仰け反ることができる。
 この身体のお陰だろう。

 大振りで攻撃してきた為、攻撃した後の硬直が大きい。

「カタカ!(ここだ!)」

 剣を最上段に構える。
 そして、凄まじい速度の切り下ろしが放たれる。

 ストロング流剣術 剛剣術
 
「カタタタ(覡《かんなぎ》)」

ズバンッッッ

 ボブボブリンは真っ二つに切り裂かれた。
 最後の一体はこれで倒れた。

 ふぅ。
 何とかなった。
 この剣でも一の剣までは使えるみたいだな。

 体がチカッチカッと二回光った。
 なんだ?

「す、凄い。なんでスケルトンがこんなに強いの? レベルが上がったってことはそこまでレベルが高くなかったってことよね。それに……守ってくれたの?」

 女の子を振り返るとコクリと頷いて剣を返す。
 刃の部分を持って持ち手を渡す。

「あ、ありがとう……」

 そう言うが、受け取ろうとしない。
 どうしたんだろうか?
 不思議に思っていると、照れくさそうに笑みを浮かべた。

「あ、あのね、私……見た通り弱いんだ。冒険者として登録はしてるんだけど、一年も経ってるのに最弱のEランクなの。それに、テイマーなのに、モンスターをテイムも出来てないんだ」

 尻もちを着いていたが、立ち上がって上目遣いで見上げてくる。
 肩まであるピンクの髪を耳にかけて微笑みかけてくる。

「スケルトンさんがよかったら、その剣あげる。けど、その代わりに私にテイムされてくれない?」

 これは……女性に免疫のない俺には破壊力が抜群で。
 胸がキュンキュンしてしまった。
 胸は青い炎だけど。

 カクカクカクカク。
 頷こうとしたら、力が入りすぎて頭がカクカクしてしまった。
 やばい。引かれないかな?

「ふふふっ。そんなに私にテイムされたいの? しょうがないなぁ…………テイム!」

 女の子から放たれた光が俺の体を包み込み繋がった。
 一瞬強い光を放つと消えた。

「わぁ! 初めてテイムできた! やったー! 私ね、ミリアっていうの。あなたは?」

 俺の名前?
 この体ではないけど。

「ないんだ。ふーん。じゃあ、剣士だし……エクスカリバーとかどう?」

 それは無いんじゃない?

「そっか。うーん。じゃあ、ナイルとかどうかな? 全然意味は無いよ? 響きだけだけど」

 いいじゃん。

「だよね! じゃあ、ナイルね!」

 っていうか、普通に会話出来てるのは何故?

「あっ、念話使えるようになったんだよ?」

 えっ!?
 考えが筒抜け?

「まぁ、オンオフ出来ると思うけどね」

 よかった……。

「ふふふっ。なんか最初は恐そうだと思ったんだけど、普通に話せるスケルトンで良かった! これから、よろしくね? ナイル?」

 あぁ。よろしくな。ミリア。

 こうして、スケルトンに転生した俺はテイムされることになったのだった。
 最強のスケルトンと最弱テイマーの成り上がりが始まる。
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